初ルグルド。
「うおおおぉっ!!凄ぇっ!!」
「ヤバいっ!!映画みたい!!」
5人の中でも特に騒がしい猛と蓮の2人が左右の窓から身を乗り出し目の前の光景を見て興奮を顕にしている。
そこにあるのは断崖絶壁。
そこにあるのは幾重にも聳える城壁。
そこにあるのは巨大な都市。
まるでファンタジー映画から飛び出して来たような城塞都市がそこにあった。
「やっと着いたわね…」
「うん。」
「丁度1週間位だね。」
運転席に麗子、助手席に栞、その間に舞と3人並んでフロントガラスに映る絶景を感慨深く眺める。
浩二が整備した街道を通りをエアトラックはどんどん進む。
やがて道が馬車で混み始めた辺りで改めてその都市を見て唖然とする。
正確には見上げだ。
「…本当に凄ぇわ…城壁が高すぎて上がまるで見えねぇ。」
「ねー、どのぐらいの高さがあるんだろ…」
城壁沿いに作られた馬車三車線程の街道をゆっくりと進みながら左隣に聳える城壁を首が痛くなるほど見上げる2人。
すると、前方からこちらに向かい走り寄ってくる数名のドワーフが見える。
最初は通り過ぎるかと思っていたのだが、明らかにこちらを指さしている。
「なぁ、誰か来たぞ?」
「んー?あ、ホントだ。」
「見た感じドワーフだけど…どうしたんだ?…あ、こっちに向かって手を振った。」
勘違いだと恥ずかしいので一応後ろも確認した後に猛が言う。
「んー?…あれ……ああっ!?ソフィアちゃんだ!!」
「嘘!?アンタ良く見えるわね。」
「あー、間違いないわ。ソフィアの姉御だ。」
最初に気付いたのは蓮。
位置的には一番遠い窓からにも関わらず、ドワーフ達の中からもうすっかり見慣れた愛らしい姿を見つけた。
一生懸命こちらに向かい手を振る姿も可愛い。
こちらが気付いたことに気付くと、パアァっと眩しい笑顔になったかと思えば一気に走り寄り距離を詰めてきた。
どうやらこの世界ではある一定の能力値になると『駆け寄る』が『瞬動』に変わるらしい。
しかし、一緒に来た数人のドワーフを置き去りにして一気に距離を縮めたソフィアは何故かエアトラックから5m位の距離で突然ピタリとその動きを止めた。
張り付いた笑顔はそのまま、右手がゆっくりといつもの位置へと移動する。
そしてそのまま左右へと振られる首。
「ソフィア様っ!…はぁ、やっと追い付いた……何をしているんです?」
やっとの思いで追い付いたドワーフの1人が、ソフィアの行動に首を傾げる。
「…何でもないわ。貴方達にはまだ普通の馬車に見えるようね。」
「いえ!普通なんてとんでもない!立派な箱馬車ですよ!」
「あー、いや、そうじゃないんだけど…まぁ、良いわ。」
どうやらこのドワーフ、ソフィアの言葉の意味を正しく理解していない様だ。
この馬車に掛かっている『隠蔽』は、ある程度のレベルになれば近寄る事で看破出来る。
しかし、上位種であるソフィアが5mまで近付かなければ気付かない段階で一般人である彼等には荷が重い様である。
「猛!」
「ん?なんだ?姉御?」
ソフィアにはもう普通に見えているようで、助手席の窓から顔を出している猛にソフィアが話し掛ける。
「その背中の物も、その馬車も、この道の先では対応出来ないわ。1度道から逸れて城門の前を通り過ぎて反対側に行けば宿場町があるから、そこに行きましょう。案内するわ、乗っても?」
「勿論良いぜ!ほら、そこのレバーを下げると扉が横にスライドするから。」
「これね?…あ!貴方達は先に宿場町に連絡を付けておいて。「宿は要らないから、大型馬車のドックを空けておくように。」って伝えて頂戴。」
「大型馬車のドック!?一体何をするつもりです?」
「良いから、その内分かるわ。頼んだわよ?」
「…はい、了解しました。直ぐに手配します!」
そう言って一緒に来た数名のドワーフにそう告げると、ソフィアはレバーを半回転させスライドドアを開けると跳ねるようにエアトラックへと飛び込んだ。
残されたドワーフ達は急いで元来た道を戻り、途中に繋いであった馬に跨りソフィアの指示通り宿場町へと向かっていった。
「…これはまた…流石と言うかなんと言うか…」
ソフィアが乗り込んで第一声がコレだ。
「ソフィアちゃん、何か飲む?」
「今はいいわ、ありがとう。それより宿場町に向かいましょ。」
「りょーかい!」
「ソフィアさん、案内お願い出来ます?」
「ええ…それにしても…完全に魔法任せなのね。あ、その道を真っ直ぐね。」
「はい、シートに座ってたまにハンドルを切れば良いだけの簡単仕様です。この道ですね?」
エアトラックの仕様説明を受けながらもフロントガラスから見える道を指差し案内を続けるソフィア。
昔の彼女ならば今この状況をこんなに落ち着いて受け止める事は出来なかっただろう。
彼女もしっかり成長しているのだ…『慣れ』とも言うが。
「そういやさっき姉御が『大型馬車のドック』って言ったら凄ぇ驚かれてたけど…何かあるのか?」
「あぁ、滅多に使わないだけよ。そもそもここ数年そんな大型馬車を使う仕事なんて無かったから。」
「その馬車の仕事って…まさか…」
ソフィアの近くで話を聞いていた舞が敏感に何かを感じ取る。
「主に大型の魔物やその素材を運搬する時に使うの。この乗り物の天井に居るような…ね。」
「…やっぱり。」
「普通の馬車に入る様な小さい物なら正面ゲートから搬入出来るけど、天井のアレやこの乗り物自体無理だもの。」
「あの天井のゴアゲイルは姉御への土産だから受け取ってくれ。」
「……やっぱりゴアゲイルだったのね…アンタ達は普通に輸送だけ出来ないの…?」
「道塞がれて逃げられないなら戦うしか無いじゃん。」
「確かにアレは無理だったわ。」
「……ふふっ、いつも通りで安心したわ。それじゃ、ちょっと遅くなったけど…」
ソフィアはその場でクルリと回転するとペコリと頭を下げてから笑顔で言った。
「『城塞都市ルグルド』へようこそ!!」
読んでいただきありがとうこざいます。




