宴会。
「あー、すいません。怪我とかありませんか?」
一番近くにいたリーダーと思われるオークに話し掛ける猛。
「あ、いや…俺達は大丈夫だが…」
若干警戒しつつも会話はして貰えそうだ。
しかし、その視線はエアトラックとその荷台に無造作に括られたゴアゲイルと猛の足に丸まったまま体当たりを繰り返すマジロを行ったり来たりしている。
「良かった。えーと、コイツ等が迷惑掛けませんでした?」
猛は器用に足首だけ使ってマジロを蹴り上げると両手で受け止め胸元で抱えつつポンポンと叩き、視線を櫓の上に流しながら問いかける。
「いや、迷惑なんてとんでもない!多分だが…この2体が来なかったら恐らく村にも被害が出ただろう。当然俺達も上級ポーションの世話になっていただろうしな。」
「そっか…良かった。」
猛は安心した様に抱き抱えていたマジロの顎をコリコリと引っ掻く。
マジロは気持ち良さそうに目を細め尻尾の先がゆらゆらと機嫌良さそうに揺れている。
「…しかし…そうして見ると可愛いもんだな。さっき迄ダブルマンティスを蹂躙してた姿が嘘みたいだ。」
「マジロが?」
「あぁ、俺達が魔物とカチ合う寸前に割って入って来て…あのエンペラーイーグルが運んで来たんだ。奴自身もワイバーンを一撃で沈めてたがな。」
「だとよ麗子。」
後ろから右肩にアローを乗せた麗子が来たのを察して話を振る。
アロー自身はなんて事無いといった雰囲気だ。
「ふふっ、アローは余裕だったみたいよ?」
何となくそれを察して笑顔になる麗子。
相変わらず相棒はクールな様だ。
「おーい!村の皆が礼も兼ねて宴にするってよ!アンタ等も来るよな?」
避難していた村人達に事の顛末を伝えに行っていた猿の獣人が帰って来るなり5人を宴に誘って来る。
顔を見合わせどうしようか迷っていると、片角のミノタウロスがズイっと前に出て来て猛の肩に手を置く。
「森に何があったかは知らないが、軽いスタンピードだったのにアンタ等のお陰で被害が全く出ずに済んだ…村人達も、当然俺達も本当に感謝している。それで、宴の食料の心配なら今回は問題ないぞ?」
多分寒村の食糧事情の心配をしているのだろうと察したミノタウロスはそう言って握った拳の親指で後ろの方を指す。
そこには大型のワイバーンをせっせと捌く猫の獣人の姿が。
白い綺麗な毛並みを血だらけにしながら帰って来た猿の獣人を顎で使っている。
「俺からも頼む。何もしてない俺等だけ宴に出るわけにはいかないだろう?」
少し狡い言い方をしたオークが目の前で両手を合わせる。
ここまで言われたら断る事も出来ず、一行はエアトラックを村の外に止め隠蔽を掛けた後、村の宴にお邪魔する事にした。
隠蔽を掛けた瞬間に目の前の見た事も無い物体が二両の箱馬車に化けた時は4人とも目を丸くしていた。
□■□■
村の中心の広場。
炎に包まれた櫓を中心にして輪を描く様に地面に敷かれたゴザの様な物に座りながら宴会は始まった。
村長や、それ程多くない村人達が次々と5人の前に来てはお礼を言っていく。
ありがとう大したおもてなしも出来ずにすみません、と。
その度に5人は少し心苦しくなるのだ。
ミノタウロスが言ったスタンピード。
スタンピードとは所謂『集団パニック』の事だ。
話を詳しく聞くと、どうやら最初にダブルマンティス、次にホイールドレイク、そしてワイバーンの順番で森から出て来たらしい。
これはあくまで仮説でしか無いのだが、今迄ゴアゲイルが縄張りにしていた場所、そこはダブルマンティスの生息地であり天敵であるホイールドレイクや他の魔物がゴアゲイルの存在によって近寄れなかった場所だったのではないか?
そして5人がゴアゲイルを倒した事により縄張りが崩れ、餌を求め押し寄せた魔物から逃げる様に森からダブルマンティスが溢れたのでは無いのか?
つまり、今回の原因は自分達にあるのではないのか?
そう結論付け、4人に話した所…
「殺らなきゃ殺られてたなら仕方ねーじゃねーか。」
「確かにそうかも知れんが、森の食物連鎖まで構ってられんだろう?」
と、猿の獣人とミノタウロス。
「起きちまったもんは仕方ない。そこまで予想が出来る筈も無いし、皆アンタ等程頭は良くないよ。」
「グタグタ言ってないで私の焼いたワイバーン食べな食べな!ほら、尻尾が美味いんだから!」
とオークと猫の獣人。
猫の獣人に関しては串に刺さってこんがり焼けたワイバーンの尻尾を差し出しながらだ。
塩胡椒だけのシンプルな味付けだが、良質な脂の焼ける匂いと胡椒の香りが相まって、胃袋をこれでもかと刺激してくる。
夕食前にこの仕打ち。
結局5人は肉の誘惑に負けかぶりつく様にワイバーンの肉に舌鼓を打った。
「しっかしよー…錚々たる面々だよな。」
猿の獣人が5人を眺めて呆れたように口にする。
実際はそのマシナリー達を指してだが。
「私、オルトロスなんて初めて見たわ。しかも希少種とか…まだノーマルも見た事無いのに。」
「俺だって無いさ。それにあの鳥…アレって『極楽鳥』だよな?白い極楽鳥なんて聞いた事無いぞ?」
「あの娘の肩に居る鼬…あの尻尾は多分『鎌鼬』」
「はぁ!?鎌鼬って絶滅したんじゃ…」
希少価値の高い魔物のオンパレード。
しかし、それを知ってるのが逆に凄い。
「なぁ?何でそんなに詳しいんだ?」
猛が素直な疑問をぶつける。
「一応俺達は冒険者だからな。魔物の知識は大事だぞ?」
「「おおっ!冒険者っ!」」
猛と蓮の声がハモり、瞳が輝く。
多分だが、憧れ的な物があったのだろう。
後ろの3人はそれを見て乾いた笑いを浮かべている。
4人の獣人は自己紹介がまだだったと頭を下げながら5人の前に並ぶ。
「俺は猿族のリー。盗賊だ。」
「俺はミノタウロスのロイド。盾役だ。」
「私は猫族のミュー。斥候よ。」
「そして一応俺がリーダーでオークのマキシム。戦士だ。」
これが猛達が冒険者『森の牙』に出会った最初の日だった。
読んでいただきありがとうこざいます。




