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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第七章 大地を行く。

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分身。


(あ、まただ…やっぱりおかしい…)



麗子が番えた矢を一匹のキラーエイプに放とうとしたが、先程から感じる違和感に攻撃するのを一端止め、良く観察する。


3匹のキラーエイプを相手にヒラヒラと舞いながら時には攻撃を躱し、時には鎌鼬を纏う扇にて切り裂く。

パッと見凄く強くなった…と言うか、上手くなった?

体捌きが今までより軽やかと言えば良いだろうか?

小さな身体を最大限利用し、魔物の間をスルスルと縫う様に避けてゆく。


まぁ、今の栞の動きは日本舞踊特有の物ではなく、寧ろこちらの世界の舞闘に近い。

サーラ地方の浩二宅に越して来るまでシュレイド城にてずっと続けてきた舞闘の訓練。

日本舞踊を教わる代わりにとエルフの踊り子さんが手解きをしてくれていた。


栞は浩二の領地に来てからも未だ1人訓練を続けている。

今朝方に一人起き出して何やら舞っていた…アレがそうだ。

実は、本人は皆に内緒のつもりらい。

微笑ましい限りだが。


その舞闘とは幾つもの型があり、それぞれの型をその都度臨機応変に組み替えて舞う。

守備の型は存在せず、全ての攻撃は躱すかその前に潰す。

よって、超接近での近接格闘となるのだが…栞の場合は少し違う。


栞の使う『風月』という扇は、風魔法を利用した簡易結界と風の刃である鎌鼬を使うことが出来る。

そう、彼女の場合は防御も可能なのだ。

敵の攻撃を予測し躱すことに加え、風の簡易結界による受け流しも可能であり、より防御寄りの舞になっている。


積極的に戦闘に参加する訳ではなく、栞はあくまで自身の身を守る為に舞う。

とは言え、彼女の放つ鎌鼬は身を守ると言うには些か強過ぎだろう。

襲い来るキラーエイプに対して扇一振りで軽々と腕や脚に軽く無い傷を刻む。

しかもこの鎌鼬、対の扇である『花鳥』に纏わせることも可能であり、本来は増幅の扇であり攻撃手段の無い花鳥をも手数に加えている。


『風月』を使い攻撃の受け流しと飛ぶ斬撃である鎌鼬による中距離攻撃。

『花鳥』での纏わせた鎌鼬による近距離攻撃。


この二つの扇が、栞を単なる踊り子ではなく戦う踊り子たらしめていた。


だが、麗子が気付いたのはそれでは無い。

もっと不気味な…気味の悪い類の違和感だ。


ふと栞と目が合う。

彼女は麗子が違和感を感じているのを察し、その答えを示すべく指示を出した…そう、イナリへと。


次の瞬間、麗子の違和感の正体がいとも簡単にハッキリした。


分身。

何人もの栞が代わる代わるキラーエイプへ向かってゆき鎌鼬で切り付けては素早く身を翻し攻撃を躱す。

キラーエイプはがむしゃらに分身を攻撃したり、攻撃を躱したりしている。


麗子が違和感を感じたキラーエイプの動き、それはイナリの強力な幻覚による精神攻撃の結果だったのだ。

栞が飛ばした鎌鼬に合わせ重ねる様に幻の栞を配置したり、本体と逆方向に隙だらけの幻を配置する事でそちらに注意を向ける。


全ては栞が安全に戦える様にする為。

一対多数を相手にした場合、これがイナリと栞の戦法なのだ。

ただ、幻覚が見えるのは栞とイナリと相対する敵のみ。

周りには一切の影響が出ない為、先程のような奇妙な違和感が生まれてしまうのだが。



「……おっかない鼬よね。」



着物に姿を変えたイナリの真っ白な姿を思い出し呟く。

普段は栞の肩や首に絡みつき愛らしい姿をしているが、一度戦闘に入れば世界有数の魔物の巣窟である大森林のキラーエイプですら手玉に取るのだから。


そんな事を考えていると突如麗子の左隣からズドン!と何やら重い物同士がぶつかった様な音が聞こえた。



「あ!」



蓮に任せ切りだったマッドブルの1頭がスルリと蓮の横を抜け本来の目的であるエアトラックへの突撃を成功させたのだ。



「ごめーんっ!1頭そっちに行っちゃったっ!」



蓮がマッドブルの相手をしながら叫ぶ。

元々守備力の塊のようなマッドブルと蓮は相性が悪い。

軽い攻撃を幾ら重ねてもダメージの蓄積にはならず、重い攻撃が必要になる。

しかし、蓮の『ブラックロア』と『シルバーロア』の溜め撃ちには文字通り溜めが必要であり、2頭同時となるとその隙はなかなか生まれないのだ。

ここが森の中でなければ獄炎弾という選択肢もあったのだが…火の玉少女には少し酷な相手だったかも知れない。


そのマッドブルの首が右へと直角に曲がる。

不自然に曲がった首を痙攣させながらズシンと倒れ込むマッドブル。

その傍らには巨大なモーニングスターを振り回す猛の姿が。


そう。

魔法を使えない場所で守備力の塊を倒すならば、圧倒的な物理攻撃を弱点に叩き込めばいい。

今猛がした様に。



「うーん、やっぱり私の攻撃は軽いかなぁ…」


「マッドブルみたいな相手には蓮の攻撃は向かないんだよ。こんな場所じゃ火魔法も使えないしな。」



目覚まし代わりをしてくれた1頭をさっさと片付け蓮の助太刀に来た猛が、辺りを見回しながら蓮にフォローを入れた。

丁度それと同じ頃、最後のキラーエイプの眉間に矢が突き刺さる。



「さっさと先に進みましょ!ぐずぐずしてたらコイツらの死骸に群がる奴らに群がられるわよ!」


「だな。さっさと行こうぜ!」



直ぐに行動に移った一同は、急いでこの場を離れるべくエアトラックに乗り込んだ。



□■□■



「この辺りで今日は野営だな。」



大森林を3割程進み、曲がりくねった大きな川を避けて進む為、一度森を抜け南の山脈沿いに進む道に出る。

このまま止まらず進めば夕暮れ時は大森林の真っ只中。

大森林の中で野営をするのは完全に自殺行為なので、今日は少し早いがこの場所で野営をする事に決めた。


何より…



「…意外と魔物が多くて面倒臭いわね。」


「仕方ねーよ。一応この場所は天下の大森林なんだし。大森林でも端の方だから魔物のレベルが低いのが救いだな。」


「それであの魔物の数じゃ、あんまり救いになって無いよね。」


「でも、早めの野営は正直助かるなぁ…今日は早めに休んで明日早めに出ましょう。」


「だねー。疲れたー…腹減ったぁ…」



朝食を摂ってからもう昼過ぎになる今まで何も食べずに今に至る。

ひたすらに襲い来る魔物を必要最低限のみ倒してここまで来た。

時にはトラックから降り、時には窓から身を乗り出して。



「…本当に、私達以外この道往復出来る人いるのかしら?」



麗子の最もな疑問がトラック内に虚しく響いた。

読んでいただきありがとうこざいます。

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