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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第七章 大地を行く。

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馬車は行く。


とは言っても馬車ではないのだが。


馬で引いているわけでもなく、何より車輪がない。

最早『馬車』要素が無い。


唯一の救いは傍から見れば立派な箱馬車が二台並んで走っているように見える事ぐらいか。

あくまでそう見える・・・だけだが。



「いやぁ、試験走行の時も思ってたけど…本当に揺れねーなこのマシン。」



乗車スペースに備え付けられた簡易テーブルの上で小さな波紋を作る麦茶入りのコップを見て猛が呆れたように言う。



「マシンって何よマシンって。せめて馬車って言っときなさいよ…じゃないといざって時ボロが出るわよ?」


「でも、馬車要素全然無いよねー」



蓮の発言にコクコクと頷く舞と栞。


好き放題言われているこの自称馬車は、時速30kmで1週間かけて一路城塞都市ルグルドを目指す。



「時速30kmって実際どの位の速さなんだろ…」



窓から見える景色はまだ見渡す限りの荒野が続いている。

変わり映えのないその景色を眺めながらボソリと呟く舞。



「えーとな…確か…」



その呟きを拾った猛が顰めた眉の間を指で押さえながら何かを思い出そうとしている。

マメな男だ。



「あ!えーとな、「ギアチェンジ無しのママチャリで平坦な道をフルパワーで漕いだ時の最高速くらい」だった筈だ。」



思い出した妙な雑学を披露する猛。



「何でアンタそんな妙な事知ってんのよ?」


「あぁ、前に先輩が原付の速度制限が30kmだって言ってた時に同じ様に聞いたんだよ、30kmってどの位のスピードなんスかね?って。そしたら別のロードバイクやってる先輩が話に入ってきて教えてくれたんだ。」


「ロードバイク?」



栞が聞いたことの無い名前を口に出して首を捻る。



「あぁ、凄いスピードが出るレースとかに使われる自転車だよ。その先輩は巡航…普通に走って40km位出すってさ。プロだと70~100km出す人もいるらしいぞ?」


「ひゃあー、凄い自転車だね。自転車乗れない栞でも速いことぐらいは分かるよ。」


「まぁ、このマシンも本気出せば200km超え出すんだけどな。」



自分の座るシートの横を拳で軽く小突きながら呆れ顔で言う。



「流石に200kmは速かったよねー!試験走行の時、速すぎて意味が分からなかったもん!」


「しかもカーブ曲がり切れねーのな!」


「あの時は色々覚悟したわ…死んだら絶対アイツも殺してやるって思ったけど。」



試験走行の時の事だ。

今のメンバー全員が乗る中、ハンドルを握る浩二が最高速度の実験を急に始め、目の前の緩やかなカーブを曲がり切れずその先の湖へと着水した。

全員から散々小突かれた浩二は改良を重ね、爆発のタイミングや規模や位置等を何度も実験し、今のマシンに組み込んだ。

今のこのマシンならば200kmで巡航しつつ45度位のカーブならばバンクなしに曲がることが出来る…但し、きちんとシートベルトをするのは必須だが。



「まぁ、暫くはのんびりしようぜ。大森林までまだかかるしな。」


「具体的にはどのくらい?」


「んー…ちょっと待ってくれな…」



一応運転席に座る猛は、浩二に聞いたマニュアルを思い出しながら側にあったスイッチを押す。

ヴゥン…という音を立てて猛の左手辺りの虚空に立体地図が浮かび上がる。



「えーと、今この辺りだから…」



ホログラムの様に映し出された地図の1箇所…現在位置を指差し、薄らと見える道のような線を指でなぞる。



「ここが大森林の入口だ。ここから大体600kmは森を出たり入ったりしながら進む事になるみたいだな。湿地やら川やら滝やらを色々避けて道が通されてんだと。」


「何でこんな所に道を作ったのかしら…って、地図を見たら簡単に分かったわ。この山のせいね?」



麗子は大森林の北と南を指差すと、山脈沿いに指を滑らせる。



「大森林って、大陸中央の大山脈と南の海沿いにある山脈に思いっ切り挟まれてるのね。」


「そう言えば、大山脈って切り立った崖みたいになっていて簡単には越えられないってシュレイド城の書庫で読んだ気がする。」



舞が麗子に情報を追加する。



「南の方は比較的森も深くない上に平坦な土地らしいから、北の大山脈沿いに作るよりは簡単だったんだろ?…ってより、兄貴が修復するまで殆ど獣道みたいになってたらしいけどな。」


「だって、大森林の向こうは秘境中の秘境って言われてたサーラ地方に、その北にも多数の獣人族が殆ど他の種族と交流しないで暮らしてるんでしょ?…なら大森林より西に行く意味が無いわ。」


「…そう考えたら、お兄ちゃんの領地って本当に凄い所なんだね。」


「あんな場所だもん、サーラ半島ごとポンとくれる訳だよね!きっとお兄さん以外が貰ってもなんにも出来なかっただろうけど 。」


「全く、ツイてんだかツイてないんだか良くわからんよな兄貴は。」


「まぁ、アイツには丁度良かったんじゃない?浩二を下手に狭い所に押し込んだら、何が起きるか想像もつかないしね。」


「ははっ、確かに。」



どこからともなく「失礼な。」という声が聞こえてきた気がして笑い合う一同。



「とりあえずこのまま行けば大森林入口に着くのは夕方位の筈だから今の内に色々野営の準備しといた方が良いかもな…って言っても…」



猛は運転席のシートから首だけ後ろに回して乗車スペースの一番後ろを見る。

そこには両開きの扉が鈍い銀色の光を放っていた。

意外と大きいその扉が開いても邪魔にならない様に扉の前には物は置かないようにしている。



「それ見て、兄貴って過保護だなってつくづく感じたよ。」



観音開き金属製扉を開くと…ひんやりと流れて来る冷たい空気。

そう、冷蔵庫だ。

しかも、開いた扉の内側にもしっかり収納が存在する徹底ぶり。

収納容量にして1000Lとほぼ業務用冷蔵庫と変わらないサイズだ。


そこにビッシリと納められた食材の山。

調理済みの食べ物や、飲み物等が所狭しと詰め込まれている。

ハッキリ言って、往復2週間では食べ切れないこと確定だ。



「これ、調理済みの分だけで十分行って帰って来れるよね?」


「全く…」



猛は結構離れたサーラ領の方を見ながら呟く。



「兄貴の子供じゃねーけど、そろそろ親離れしないとな。」



何時までも頼ってばかりもいられない。

猛の言葉を聞いて、女性4人は何とも複雑な表情を浮かべていた。

読んでいただきありがとうこざいます。

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