受け入れ準備。
浩二がタロスから謹慎処分を言い渡されてから早2ヵ月。
その間、ずっと黙って静かに過ごしていられる筈もなく…
「領から出ちゃダメだって言われたからってこれは色々やり過ぎじゃね?」
「いやいや、いつかは必要だろ?」
「そうね。出来上がるスピードは普通じゃないけど。」
「…………」
3人の目の前には立体地図。
そして、そこへ縦横無尽に刻まれた無数の線。
手始めに領境の城門から第一拠点まで。
第一拠点から東の海岸沿いへ真っ直ぐ進み、海岸沿いにサーラ半島をぐるりと半周して浩二の屋敷前の広場まで。
第一拠点から西へ湖までのラインから枝分かれして、そこから湖沿いに南へ進み人口河川沿いに更に南へ進んで海沿いの線へと合流。
第一拠点から南へ真っ直ぐ進み、サーラ大砂漠手前で東と西に分かれ西は人口河川沿いの線に、東はサーラ大砂漠沿いにぐるりと回って南の海沿いの線へと。
以上、今挙げたラインが太いラインだ。
そう、今のは本線だ。
それ以外に無数にある…正確には23箇所の仮拠点の外周と、それらを最短で結ぶ細いライン。
そして、その細いラインも最終的には太いラインに合流する。
近くにある仮拠点同士も細いラインで結ばれている。
実際仮拠点同士は100km以上離れているので現場にいれば分からないが、地図上で見れば分かるその細さ。
「ぱっと見蜘蛛の巣みたいだよな。」
猛が何とも分かりやすい例えを口にする。
半島をぐるりと囲み、縦横十時に走る太いライン。
それらを細かく結ぶ細いライン。
正しく蜘蛛の巣だ。
「でも、こんだけの道を作るのに一月かかって無いのよね?…ただの変態じゃない。」
「…まぁ、変態じゃ無いけど馬鹿だなぁとは思うな。」
「…お前ら本当に失礼だな。」
心底心外そうに口にする浩二。
やっぱり自覚は無かったのだ。
浩二は実際1ヶ月も掛からずにこれらの道路網を作り上げた。
全てはこの間施行した街道整備のお陰だったりする。
どんどん効率化され、浩二の走るスピードとほぼ変わらずに舗装されて行く大地。
しかも、こちらはハニカム構造と風の魔法による砂回収システムを備えた別物なのだ。
これにより、砂の回収率が1200%を超えた。
これはもう既に増えたと言うより別な何かだろう。
言うまでもなく石英ガラス製造機が圧倒的に足りなくなった。
まぁ、既に手は打ってある…と言うより、こうなる事が分かっているから道を作ったのだ。
製造機の大型化&効率化、倉庫を地下へ拡大、ゴーレムリフトによる運搬と倉庫内への積み上げの自動化、そして…
「だって、兄貴のせいでバイトクビだぜ?」
「クビじゃなくて自主退社だろ?」
「…あんだけ一斉に来たら俺の居場所はねーよ。」
そう。
働きたいという人が大量に現れたのだ。
それはソフィアから齎された。
「コージ、ガラス工場で働きたいって人達が居るんだけど…」
当たり前の様に入浴に来たサーシャに付き添って来たソフィアが麦茶を啜りながら口にした。
「それは構わないけど…何人くらいだ?」
「………人。」
「…ん?何?」
「…50人くらい。」
「はぁ!?何でまたそんなに?」
いきなり50人とか何があったんだ?
驚く浩二にソフィアが溜息混じりで説明を始める。
「…教会にガラスを持ち込んだじゃない?それを見たまだコージのガラスを見たことが無かった職人達がざわめき出してね…うちの職人達と揉めるかな?って思ってたら…私の所に来て「是非生産地で働きたい」って言って来たの。」
「何となく分かるよ。多分、その方がガラスに触れる機会が増えるからだよな?」
「うん。間違いなくそうね。「生産地はサーラ地方よ?」って言ったんだけど、それでも構わないって言うから…聞いてみるから待つように言って来たわ…ってコージ?」
ソフィアの話を聞きながら人差し指と親指で顎を摘みブツブツ言い始める浩二。
「……生産力を上げるか……でも住む場所……いや、まてよ…」
「コージ?…コージっ!」
「うおっ!?びっくりしたぁ!」
「びっくりしたのはこっちよ!いきなりブツブツ言い始めるし。」
「あぁ、ごめんな。色々考えててさ…住む場所とか工場の規模の拡大とか生産力の底上げとか食糧とか…後、工房とか。」
「…コージ…何もそんなに無理しなくても良いのよ?」
「んー…だって生産地が「サーラ地方」だって言っても来てくれるんだろ?なら大切にしなきゃ。」
「…前の事結構気にしてたのね?」
以前浩二はガラス工場のバイトをシュレイド城内にて募集した所、領地の名前を聞いた途端に誰1人その場に残らなかったのだ。
故に猛や皆にバイトをして貰っていた。
しかし、遂にこの地が「サーラ地方」だと分かっていても来たいと言ってくれる人達が現れたのだ。
この地で働いてくれるかも知れない最初の人達が。
「ソフィア。少し待ってくれ…そうだな…1ヶ月位貰えれば全て用意しておける。」
「…へ?全部?」
「あぁ、働く場所と住む場所だ。後はガラス工場の規模も少し大きくしとくよ。」
ソフィアは驚く。
幾ら浩二がお人好しでも、いきなり50人もの人を受け容れるのは難色を示すと思っていた。
だから、話すのは気が重かったのだが…
浩二は言った「1ヶ月待ってくれ」と。
本気なのだと顔を見れば分かる。
ならば…
「当面の食糧は私が用意するわ。いずれ陸路でのガラス輸送が始まればそっちを使って空の馬車に荷物を積んでこっちに送れるしね。それまでは私が何とかするわ。」
こっちも本気で取り組まなければ。
言い出しっぺはこっちなのだから。
「ありがとう、食糧関係は正直助かる。こっちはまだなんにも食糧生産出来てないからさ。陸路が開通したら店なんかもこっちで開いてくれる人とか探さなきゃな。」
「そうね。いずれは…ね。今は工場で働く人が最低限の生活が出来るようにこっちで整えましょう。」
「分かった。それじゃ準備が出来たら教えるよ。」
ソフィアに言った浩二から連絡が来たのは…浩二がそう言ってから26日後の事だった。
読んでいただきありがとうこざいます。




