土建屋岩谷再び。
「あ、見えて来たわ!コージ!お疲れ様!」
ブンブンと手を振り浩二を出迎えるソフィア。
場所はルグルドの城門前大階段の真ん前だ。
時刻はそろそろ日が落ちる頃であり、ソフィアが指定した時間でもある。
早朝から日中は馬車の行き来が激しく、街道を修繕するには少し都合が悪いため、浩二の作業スピードを見越して夕方から一気に終わらせるようにソフィアがお願いしたのだ。
本来は街道の修繕ともなれば距離にもよるが何ヶ月もの時間をかけ馬車などの通行を規制して行われる。
間違えても狙った時間に数時間では終わるものではない。
ソフィアが手を振る姿が見えた浩二は、少し作業スピードを上げ瞬く間にソフィアの目の前に到達した。
これもひとえに数千kmと言う変態的な距離を黙々と舗装し続けたからに他ならない。
「うっし…!これで終わり…っと。ソフィア、多分これで全部終わった筈だよ。」
「途中の村や町の道まで整備してくれたんだってね。棚ボタとは言え本当に助かったわ。それにしても…改めて何をしてるのよコージ。」
ソフィアが本当に呆れた顔で口にする。
「いや、俺自身も始めた時はこんな大事になるなんて事微塵も思って無かったよ?」
話は昨日のタロスとの舗装工事に遡る。
ルグルドまで半分の距離の下準備を済ませた二人は、続けて舗装工事に入った。
舗装は次の日にしようとかそんな話は全く出なかった。
何故ならば…
「マスター…改めて思うんですが…」
「言うなタロス。ちゃんと分かってる、あの時俺はどうかしてたんだよ。」
目の前に堆く積み上がった簡易処理済みの石材。
簡易処理とは軽く圧縮し硬度を上げた状態という事…つまりこのまま使えると言うことだ。
堆くとは言ったが、実際はそんな生易しい物じゃない。
街道沿いに突如現れた石材の壁。
ある意味城壁だ。
それが遥か彼方まで続いている。
「マスター…やはり言わせて下さい。途中でおかしいとは思わなかったんですか?」
「あの時は全く。本当に何かに夢中になるとヤバいな俺。」
目の前に連なる石材の城壁を見て改めて自分は一体何をしているんだか…と呆れてしまう。
タロスの言葉じゃないが…山がひとつ平らになるはずだよ。
「次からは誰かと一緒に行動すべきですね。せめて我に返る事ぐらいは出来るでしょう…まぁ今は何より…」
石材を眺めるタロス。
「早く舗装工事をしてしまいましょう。このままでは色々不味いですから。」
「そうだな。さっさと終わらせてしまおう。」
何が不味いのか。
それは石材を置いた場所だ。
今目の前にある街道は獣人族領とドワーフ領と自領である『サーラ領』を結んでいる。
あ、『サーラ領』とは浩二の統治するサーラ半島の呼び名だ。
この間何時ものように温泉に入りに来た母を連れたソフィアに唐突に言われたのだ。
「この領って何て呼べば良いの?」と。
最初は『マシナリー領』とする案も出たのだが、言う程マシナリーはいない。
他にも『コージ領』『砂漠領』『辺境領』等など色々な意見が飛んだ。
会議場所は浩二宅の掘り炬燵。
水羊羹に麦茶を啜りながらの緩い会議だ。
まぁ、結果は「サーラ地方なんだからサーラ領で良いんじゃない?」と言う一言で終わった。
間違っても『コージ領』は避けたかった為、良しとした。
話を戻すが…
今石材が置かれている場所は『獣人族領』。
つまり、他人様の土地に勝手に私物を置いているのだ。
しかも…私物とか言うレベルを超えている。
ある意味『砦』と受け取られても不思議じゃない。
だから二人は急いだ。
びっくりする位のスピードで街道に石材が敷き詰められてゆく。
隙間なく…そう、隙間など無く石材は全て敷き詰めた後に一体化されていた。
ある意味アスファルト舗装の様だ。
途中、大森林を通している時に群れのマッドブルに襲われるというハプニングもあったが、何の問題も無く浩二宅の門前に全て転送された。
当然全て食材として。
後はベータに任せてある。
そうして、ものの数時間で舗装を終えた…が、
「全然減りませんね…マスター。」
「……もう3倍の距離は行けそうだな…結構厚めに舗装したんだけどなぁ…」
残った石材の前に佇む二人。
仕方ない…二人に相談しよう。
1人は獣人族領にいるシュナイダー。
ここから獣人族領までの街道を整備するから石材を置く事を許可してくれと。
もう1人はソフィア。
ルグルドまで街道整備しちゃうから近隣の村や町に連絡をしておいて欲しいと。
いきなりこんな道路工事を始めたらびっくりするだろうしな。
二人の返事は…
先ずはシュナイダー。
「別に石材を置いておく位構わないんだがな。まぁ、助かることに変わりはないし、こちらからも頼めるか?」
と言う事で快くOKしてくれた。
むしろ、街道が荒れていたのは知っていたが手をつける暇が無かったんだとか。
そして、ソフィアはと言うと…
「相変わらずコージね…舗装を見る限り文句なんて付け様が無い程見事な物だし、こちらに問題は無いわ。でも…本当に料金要らないの?…はぁ…こっちが助かるとは言え馬鹿な理由よね。」
と、額を押さえ首を振っていた。
主に山をひとつ石材に変えたら石材が余った…辺りの件で。
と言う事で、全く金にならない仕事を受注した岩谷工務店は、その日のうちに獣人族領までの街道を、次の日にルグルドまでの街道を舗装完了した。
途中にあった村や町の人達は凄く喜んでくれ、ある意味これが報酬で良いやと浩二は思っている様だ。
やはり村や町の道は荒れ方が激しく、馬車を走らせた方が歩くより遅くなってしまうような道さえあったが、この位の状態がこの辺りでは普通なんだとか。
そして驚いた事に何人かの人がタロスを知っていた。
なんでも、
「マスターや皆さんの食事に使う食材を定期的に仕入れています。」
だそうな。
厳選した結果らしく、この辺りの村や町の幾つかと取引があるらしい。
問屋を通さず農家から直接仕入れる辺りタロスらしい。
こうして久しぶりの土建屋岩谷の仕事は完了した。
「マスター…暫くは大人しくしていて下さいね?」
「…はい。」
読んでいただきありがとうこざいます。




