白い世界。
「~~~!!!」
声を発する器官が無いのだから仕方の無い話だが、無造作に握られた右腕のみがビチビチと後打ち回る姿を見るのは余り気持ちの良い物じゃない。
余程の激痛だったのだろう、暫くは激しく暴れていたが今は静かに痙攣するに留まっている…あ、今ビクンと跳ねた。
生まれて間もない人格にはとても耐えられる代物では無かったのだろう、ナオは力無く震える右腕を感情の篭らない瞳で見詰めていたが…
「…充分楽しんだ…?」
そう言ってライトから手を離す。
そのまま落下する右腕を見守り…地面へと落ちる瞬間に…大地が陥没するレベルで踏み付ける。
ズゥン…!と地響きを1回残し、ライトとナオだけが半径5m程のクレーターの底に移動した。
それで終わりかと思いきや、今度はナオの足の裏が眩く輝き始める。
そこには…無傷とはとても言えないライトの姿が。
やがて光はライトを踏み付けたままのナオの膝辺りまでを包んだ後、まるで逆再生の様に急速に集約してゆき…
カッ!と辺りを白色で包んだ後、耳鳴りが残る様な大爆発を起こした。
そして…土煙が晴れたそこには、降り積もっていた雪など数十mの範囲で溶けて蒸発し、先程より遥かに巨大になってしまったクレーターの中心で佇むナオの姿があった。
振り向くナオ。
そして、浩二に向かい流れる様な綺麗なモーションでのサムズアップ。
「ははは…心配して損した。」
若干苦笑いをしながら、親指を立てて返す浩二。
こうして、一応事件は終息した訳だが…
ガイアと女神様に色々聞いておかなくてはならない事が増えた。
取り敢えずは…
「ガイアさん、もう右足とか左足は出て来ないですよね…?」
「…色々迷惑をかけて済まん。だが、あの2体で最後だ。まさか俺も両腕が魔物になるとは予想していなかったんだ。」
「あー…その辺りは詳しそうな人に聞くので大丈夫です。」
真っ白な空間でビクッとする女性の姿が頭に浮かぶ。
「それじゃ、お疲れ様と言う事で!ナオっ!帰るぞっ!」
兵士2人とドルギス、ガイアに片手をシュタッ!と上げて軽く挨拶すると、クレーターの中にいるナオに向かい叫ぶ浩二。
「うんっ!帰ってご飯にしよう!」
「おお!もうそんな時間か!すぐ帰ろう!」
目にも留まらぬスピードで浩二の首に抱きつきクルクル回るナオ。
それを気にもとめずゲートを開き飛び込むと、先程までの騒がしさと共にゲートは空気に溶けて消えた。
「……あっと言う間に帰っちまった…まだお礼も言ってないのに。」
「…嵐みたいな2人だったな。」
兵士が2人顔を見合わせ苦笑い。
「あれが『サーラ地方』の領主兼『傀儡の魔王』コージと、そのコージが全てを使い創ったマシナリーのナオだ。覚えておけ。」
ドルギスが兵士の一人の肩をぽんと叩き口にする。
「忘れようにも…なぁ?」
「あぁ、あんなのどう忘れろって言うんですか。」
再び顔を見合わせ笑う。
「今回幸いにも死人が出なくて何よりだった。」
「あぁ、後からコージには正式な礼をせねばな。」
「まぁ、あの感じだと…何とも思って無さそうだがな。」
「…全く…少しは大変だった素振りぐらい見せればいいものを。」
「ハッハッハッ!愉快な時代に復活出来た俺はラッキーだった様だ!」
頭を抱えるドルギスの横で盛大に笑うガイア。
今回はひとまず1人の犠牲者も出さずに事を終えられた事を喜ぼう。
そう頭で整理したドルギスは、浩二の作った石壁に手で触れるとゆっくり居住区へ向かい歩き出した。
□■□■
ここに来るのはもう何度目だろう。
白い世界。
地面も空も全て白。
そして、目の前には白い女性…女神様と………!?
「ナオっ!?」
ナオがいた。
□■□■
ゲートをくぐり屋敷に戻った浩二とナオを待っていたのは、全てをタロスによるドローン生中継で見てドン引きした人族組メンバーと、逆に何処か誇らしげなマシナリー達だった。
人族組は改めて見たナオの強さに驚愕し、顔面からライトを引き剥がしてからの一連の流れを見た後に揃ってドン引き…と。
マシナリー達に関して言えば、彼等にとってナオとはリーダーに近い存在らしく、負ける事は絶対に有り得ないと分かっていても、やはり嬉しい様で口々に賞賛の言葉を送っていた。
その日の夕食は超が付くほど豪勢であり、皆で笑い合いながら夜遅くまで宴会だった。
眠りについたのは翌日になってからだと思う。
何時ものように温泉に浸かり、床について眠りに落ちた後の話だ。
何度も訪れすっかり見慣れた女神様がいる世界。
何処までも続く真っ白な世界で目が覚めた。
そこまでは特に驚く事ではないが…そこには
「浩二っ!やっと来たぁっ!」
何故か居るはずの無いナオがいた。
どうやら今回は女神様、俺、ナオの三者面談の様だ。
□■□■
「まずは結果から話そう。ナオは最上位種になった。」
何処か気品が感じられる丸いティーテーブルを三人で囲み、どこからとも無く出現したティーセットで女神様自ら紅茶を容れてくれた後、その紅茶を1口啜り女神様が口にした言葉がソレだ。
それを聞いた瞬間、浩二は額を押さえ首を振り、ナオはテーブルを引っくり返しそうな勢いでガッツポーズ。
「…一応聞きますが…やっぱりあの右腕を倒したからですか?」
「うん。詳しく話すとね、本来種族進化するには自分よりも高位の存在に勝たねばならない。ナオの場合だと『最上位種』一択だ。」
浩二は頷く。
ナオも自分の事だけに、真剣に聞いている。
「で、今回の件なんだけど…あの右腕に種族的肩書きが無かった。だって仕方が無いだろう?本来は目覚める事すら無い筈の存在だったんだから。」
女神様は深い溜息の後額を押さえ…
「まぁ、ぶっちゃけ『大魔王システム』が完全停止する前に大魔王が復活しちゃったから、その両腕も一緒に復活しちゃったってだけなんだけどね。」
そしてぶっちゃけた。
読んでいただきありがとうこざいます。




