呪いの魔道具。
『半人前の罪』
今朝目が覚めた後、足枷を『鑑定(見習い)』を使って見た結果だ。
名前しか分からないのは、『鑑定(見習い)』のレベルが低いからか見習いだからかは分からないが。
起きてから目に付くものを片っ端から調べまくって、現在『鑑定(見習い)』のレベルは6
どうやら、同じ物を調べても経験値が少ないらしく、地下牢ではこの辺りが限界みたいだ。
ちなみに体力的にも限界に近い。
浩二は体力の回復を計るべく、いつもの様にポーションを一気に煽る。
『あ”ぁ~っ!不味い不味いっ!…もう既に三桁に届こうと言う位は飲んでるのに…コイツの味はいつになったら慣れるんだ…』
「慣れないぞ?」
「うおっ!」
突然背後からの答えに変な声を上げて振り返ると、そこにはいつもの様にスミスがいた。
「よう!おはようさん。そいつは…慣れないぞ?…もう数百と飲んでるが…やはり不味い。最早呪いだ…」
「おはようございますスミスさん。呪い…ですか…。不味いだけとか…嫌な呪いだ…」
他の物を犠牲に味の不味さだけを突き詰めた呪い。
嫌がらせのレベルを超えてる。
呪い…そう言えば…
「あ、スミスさん。ちょっと聞きたいことがあるんですが。」
「ん?」
「この足枷って呪いのアイテムなんですか?」
「足枷…あぁ、その半人前な。そうだよ。うちの呪術師がコアに呪いの魔術を込めて作ったマジックアイテムさ。」
「どんな効果があるんです?」
「効果は単純だよ。『全ステータス及びスキル効果』が半分になるんだよ。」
成程、だから『半人前』か。
ん?まてよ?
「って事は…今の俺もステータス値もスキル効果も50%しか出せてないんですか?!」
「そうなるな。」
「マジか…知らなかった…」
色々試して来たが…アレで50%とか…結構ヤバくないか…?
昨日試した青白い炎のビー玉の威力を思い出し、倍になった威力を想像した辺りでスミスから声が掛かる。
「コージよ。足枷外したら、きっとこの城には今のお前さんの敵は誰一人居やしねーよ。」
「そうだったのか…っ!って!て事は…ポーション飲む頻度も半分で済んだんじゃ…!」
「驚くのそこかよ。」
スミスがジト目でツッコミを入れてくる。
「いやいや、大事ですよ?もう、いっそ外しません?コレ。」
「俺の一存じゃ外せねーよ。まぁ、お前さんなら軽く引き千切れるんじゃねーか?まぁ、止めとけ。あんまり勧められねーよ。」
「目立ちますからね。簡単にバレそうだ。」
「あぁ、これ以上目立ったら何されるか分からんぞ?」
スミスはきっとまだ知らないのだろう。
浩二の処刑が二日後に決まっている事に。
(…ここを出る事…教える訳にはいかないよなぁ…)
別れの挨拶も言えない事を心苦しく思う。
いずれ何らかの形で会いに来よう…そう思っていると
「そうだ、言い忘れる所だった。今日の訓練は無しだそうだ。」
「そうなんですか?勇者達は?」
「最後の追い込みみたいでな、ゾロゾロとダンジョンに向かったよ。」
「…そうですか。」
やはり、ここの国王は勇者達を戦線に投入する気らしい。
あのステータスでは、間違いなく死ぬ奴が出るだろうな…。
「ま、勇者共の心配は良いさ。浩二は逃げる手立てでも考えといた方が良い。」
「スミスさん?」
「あー…コレはあくまで独り言だが、コージはドワーフなんだ。人族領さえ出ちまえばいくらでも生きて行ける。」
「………」
「力もある。まだまだ死ぬには若過ぎるしな。」
きっと、ずっと考えていたのだろう。
浩二が「ドワーフ」と言う理由だけでココに閉じ込められてからずっと。
「スミスさん…必ず…必ずまた会いに来ます。色々お世話になりました。」
「おう!達者でな!また会おうや!」
スミスは左手をヒラヒラ振りながら軽い感じで地下牢を後にした。
思いがけない形で別れの挨拶。
誰にも告げずにここを去る筈だった。
浩二は去っていくスミスの背中に深く礼をした。
□■□■
「で、どうやって迎えに行くのよ。」
「何か手があったんじゃないのか?」
小柄な銀髪の美少女が身の丈2mをこえる鎧の塊のような人物に問いかける。
鎧の人は呆れたように口を開く。
「だって、ああ言った方が恰好いいじゃない!」
「馬鹿だった。」
「何が?」
「お前に言った俺が馬鹿だった。」
「何よっ!もう良いわっ!こうなったらドラゴンで飛んで行くから!」
言ったが早いか、すぐさま部屋を飛び出そうとする美少女。
「待て。少し落ち着け。それに今からではドラゴンでは間に合わん。」
「うっ…じゃあ、どうすれば良いのよっ!」
「諦めてミラルダに頼むんだな。」
「嫌よっ!あの淫乱サキュバスに頼んだらコージ君が食べられちゃうじゃない!」
どうやら手がない訳では無さそうだ。
但し、浩二の貞操がかかっているらしい。
「しかし、今の所間に合う『転送』持ちは彼女だけだが?」
「うぅ~~っ!」
「仕方あるまい。しっかりと見張っておけば大丈夫だろう。」
「…仕方ないわね…ここで威厳を見せなきゃ…」
浩二との一方的な約束を思い出し、仕方なく苦渋の決断をする。
「それじゃ、私はミラルダに頼んだら、そのまま精神飛ばすから後は宜しくね!」
「了解した。」
「…本当に頼んだわよ?」
「…了解した。」
銀髪の美少女…『魔王ソフィア』は一抹の不安を覚えながらも急いで部屋を出て行った。
間も無く深夜になろうかという頃。
事態は若干ドタバタ騒ぎの予感を残しながらも進んでいた。
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