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あれ?ドワーフって魔族だったっけ?  作者: 映基地
第一章 ドワーフは魔族!?
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巻き込まれたようです…。

丁度浩二がこの辺りでは少し有名な進学校である公立高校の横道を通りかかった頃だった。

時間帯からすれば授業中だろうか…静かな校舎横を通り過ぎようとした時、流石の浩二でも異変に気付いた。



「音が…しない?」



そう、静かなのだ。

不自然に。


静寂。


そう表現するのが妥当だろうか…音が全く聞こえない。

学校からの雑踏だけじゃない。

先程まで五月蝿いぐらいの街の雑踏、車の走る音、鳥の鳴き声、風の音さえも。



(耳がおかしくなったのか…?)



そう考えが頭を過ぎった時…



「ナァーーォ」



愛猫の鳴き声がそれを否定した。


嫌な空気を感じる。

纒わり付くような…でも温度を感じない…嫌な空気。

浩二は直ぐにこの場を離れる決断をし、ナオを肩から右手だけで素早く持ち上げると、大切に胸に抱えて走り出そうとした。


しかし、それは叶わなかった。



(身体が…動かない…っ)



身動き一つ出来ない。

金縛りにでもあったかのように只の身動ぎ一つ。

混乱する浩二の思いを他所に事態は更に動き出す。


浩二の足元に見たことの無い模様が浮かび上がる。

いや、正確には似たようなものを見た事がある。



(魔法陣…!?)



そう、アニメや映画で良くある円と文字と幾何学模様で出来た魔法陣…まさにそれが今浩二の足元で光り輝いていた。


そして、身動きの出来ない浩二を嘲笑うかのようにそのままスーッと地面から浮かび上がると、魔法陣が彼の足元から頭の先までを通り過ぎ…


その場には誰の姿も無かった。



最初から誰もその場には居なかったかのように。



そして世界は再び音を取り戻した。



□■□■



高所からの急降下と言えばいいのか…水中と言えばいいのか…

不快感が伴う浮遊感を体感で数秒感じたところで、それが徐々に収まってきた。


やがて完全に収まると、五感がゆっくりと戻って来る。



「うっ…気持ち悪い…。」



浩二は堪らず膝をつきその場で蹲る。



「ナァーォ…」



三半規管を激しく揺さぶられた様な吐き気を伴う不快感に呻いていると、不意に肩からこちらを気遣うような声が聞こえる。

そして、ザラザラの舌が浩二の頬を躊躇い気味に舐めた。



「…ナオ…ありがとう…心配かけたね…もう、大丈夫だよ…。」



気遣うナオを優しく抱き留めその毛並みを撫でていると、不思議なことに不快感が嘘のように消えていく。

同時にナオ自身も無事だったことに安堵した。


何とか体調を回復させた浩二はゆっくりと立ち上がる、そしてその肩には愛猫のナオ。

今まで周りの事に気を遣う余裕など無かったが、改めて辺りを見回す。



「ここは…何処だ…?」



石造りの大きなホールのような場所。

大体体育館ぐらいはあるだろうか…遥かに高い場所に薄ぼんやりとした光が見える。


眩しい理由でもなく暗い理由でもない、優しい光が周りの様子を伺える程度に辺りを照らしていた。



「ん…?人か?…結構いるな。」



浩二から少し…20m程離れた場所に人が数十人集まり何やら騒いでいる様子が伺えた。

立ち上がってキョロキョロする者。

蹲って胸元や口元を抑える者。

そしてその者の背中を擦りながら気遣う者。

それぞれ違った行動をしている中、たった一つだけ共通する事があった。



(制服…?アレは確か…あの高校の…。)



集団が着ている服が、学生服な事に気付く浩二。

そしてその制服は彼がつい先程通りかかった某有名進学校のものであることも。



(学生がこんな所で一体何を…まさか…俺と同じ様に…?)



未だに蹲る数人の生徒を見て、自分と同じなのでは無いかと考えていると、集団の中の数人がこちらに気付いたようで小走りに近寄ってきた。



「あの…貴方も転移されたんですか…?」



浩二が見ず知らずの人物に警戒を顕にしていると、数人の生徒の中から歩み出た一人の男子生徒が声を掛けてきた。


身長は浩二よりも高く、スラッとした体つきにも関わらず何処か隙のない立ち振る舞い…きっと格闘技なんかを嗜んでるんだろうなと思われる様な足運び。

そしてその容姿は、間違いなくモテる部類のそれだった。



「…転移…?転移って…一体…。」



突然男子生徒の口から出た転移という言葉に首をかしげていると、

彼は慌てて口を開く。



「あぁ、すみません。貴方には知らされていないのかも知れませんね。

僕達は成城学園の2年で、たった今勇者召喚で呼び出されたばかりなんです。」


「は?勇者召喚?呼び出された?…え?何を言って…」


「先程、クラスのホームルーム中に頭の中に声が響いて…」


「ちょっと待って!いきなり過ぎて意味が分からん!とりあえず少し待ってくれ!」



畳み掛けるように話を続けようとする男子生徒の目の前に掌を向けその言葉を遮る。



(転移?勇者召喚?何言ってるんだコイツは。)



取り敢えず胸に手を当て深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。



「ナァーォ」



不意に耳元で愛猫の声が聞こえる。

波打っていた心が驚く程凪いでいく…。



(ふぅ…本当に…お前はいい女だな…。)



馬鹿な事を頭で考えながら、愛しい彼女の頭をクシャっとひと撫で。

すっかり落ち着いた浩二は男子生徒に向かって口を開く。



「済まなかった…取り乱したりして。

俺は岩谷浩二26だ、こっちは飼い猫のナオ。

申し訳ないが、詳しく話をきかせてくれるかな?」



切り出した浩二に少しだけ驚いた顔を見せた男子生徒は、直ぐに表情を崩し「まずは座りましょうか。」とその場に腰を下ろすとゆっくりと浩二に経緯を語り始めた。


自分達は勇者召喚というもので召喚されたこと。

召喚前に頭の中で声が響き詳細を聞かされたこと。

この声はクラス全員に聞こえたこと。

そして、召喚は強制で拒否は出来ないということ。



「傍迷惑な…。」


「本当に…。」



苦笑いを浮かべながら相槌を打つ。

それからと口にして男子生徒は更に説明を続ける。


召喚予定人数は40人で、たまたま欠席していた生徒が2名いた為人数が足りなくなってしまったこと。


そして…


「数合わせはこちらで行う」と頭の中に響いた声が言っていたこと。


全て語り終えた男子生徒は静かに溜息をついてこちらを見た。

その視線に気づいた浩二はヤレヤレと首を振りながら、



「やっぱり…俺が頭数合わせの代理…って事か…。」


「はい…恐らくは。」



浩二は眉間を押さえるような仕草をしたあとゆっくりと天井を仰ぐ。

その浩二の様子を見てそっとしておいた方が良いと思ったのか、男子生徒はゆっくり立ち上がり一緒に来た生徒を引き連れて集団へと戻って行った。


帰り際に振り返った男子生徒が、



「自己紹介が遅れてすみません…自分は結城真(ゆうきまこと)って言います。岩谷さん、よろしく。」



と凄くいい笑顔で自己紹介してきたのが印象的だった。



(あーいうのがきっとモテるんだろうなぁ…。)



等と頭の片隅で考えながらも、本命は…



「明日…仕事なんだけどなぁ…。」


「ナァーォ…」



こんな時に何言ってるの…と言うようなナオの鳴き声が辺りに響いた。



読んでいただきありがとうございます。

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