鎧の魔王。
「すぐに会えれば良いけど…」
吹雪の中高速で飛行しながら、悪い視界に目を細めながら呟く。
考えてみれば、ドルギスがバルへイムにいる時に何をしているのかどころか、何処にいるのかさえ全く知らないのだ。
器用に腕を組み、どうしようか考えながら飛行する事数十分…「知らないものは考えても仕方が無い」と結論が出た辺りで前方にぼんやりと明かりらしきものが見えて来た。
「…ん?…随分と……これは酷い。」
思いの外光が少ないと思い近付いた浩二を待っていたのは、立派な城壁は既に機能しておらず街の半分以上を雪に覆われた『古都バルへイム』の姿だった。
いつからこの姿だったのだろう?
何者かの攻撃を受けたのだろうか?…にしては積もりっ放しの雪に何の跡も見られない。
「…入り口は……アレか?」
良く見なければ分からないほど小さな篝火が2つ、簡素な石造りのアーチの前に掲げられ、そこを守るように2体の鎧が扉の無いアーチの入口を塞いでいた。
警戒されないように静かに着地した浩二は、歩いてゆっくりとアーチに近づいて行く。
なるほど、そのアーチは何やら植物園か公園のものだったようで、そこから先は結界の力により雪がまるで無く枯れた木々が所々に見られた。
「…あの…すいません。」
「……!!!」
「あぁっ!驚かないでっ!」
それは無理な話だ。
唯でさえ他の地方からの往来が皆無なバルへイムに、こんなに軽装かつ夜に吹雪の中人が現れれば普通は驚く。
ドルギスの部下だろうか?リビングアーマーであろう彼等は、剣と盾を構え油断無くこちらを見ている。
「えーと、ドルギスさんに会いに来ました。浩二…『傀儡の魔王』が来たって伝えて貰えますか?」
「…!!」
2人のうちの1人が『魔王』の言葉に反応し静かに頷くと、足早に鎧をガチャガチャ言わせながら奥へと走り去って行った。
もう1人は、相変わらず油断無く構えている。
それで良いと思う。
こんなに怪しい奴そうそう現れないだろうしな。
「えーと、ここの結界は何でこんなに狭い範囲しか覆ってないんですか?」
「………」
「…あ、もしかして…言葉が?」
コクリと頷く。
「そっか…待ってる間話し相手になってもらおうと思ってたんですけど…」
「そんなに待たせるつもりはないぞ?」
「うおっ!?びっくりしたぁ…」
篝火が浩二を照らし揺らめく影から突然現れたドルギスは、心外とばかりに抗議する。
「いきなり影から現れないで下さいよ…心臓に悪い。俺が死んだらどうするんですか。」
「お前の心臓は「特別製」だろう?簡単には壊れんから安心しろ。」
「冗談ですよ。」
「俺もだ。」
「「………」」
どうしよう、この微妙な空気。
「まぁ、立ち話もなんだ…何の用事かは知らんが歓迎する。ようこそ、ここが古都バルへイムだ。まぁ、今では見る影も無いがな。」
苦笑いしているのが鎧姿でも分かる。
そして、案内しようと歩き出したドルギスを浩二が止める。
「ドルギスさん。今は掻い摘んで話しますが、時間が無いかも知れません。一緒に来て貰えますか?」
「…誰か困っているのか?ならば直ぐにでも行こう。」
これから自分が大変な事になるかも知れないのに…この人もお人好しだな。
「えーと…『大魔王のマシナリーが起動した』って言ったら分かりますか?」
「っ!!コージ!それを何処でっ!?…って、俺を訪ねて来た段階で既に色々と知っているか。」
「はい。そして『黒龍帝ルドラー』の依頼でもあります。」
「そうか…しかし、そうなれば尚更ここから離れられん。俺がここを去れば、生き残りのアゲイト族は完全に滅んでしまう。」
確かに、大魔王はそう言ってドルギスさんに鎧を守らせていたんだっけ。
でも、俺の知る悪役って絶対に約束守ったりしないんだよなぁ…「フハハハハッ!我の贄となる事を誇りに思うが良いッ!」とか言って皆殺しとか平気でしそうだし。
ならいっそ…
「えーとドルギスさん…一つ提案があるんですが…」
「…提案?」
「はい、提案です。もう、鎧取りに来た大魔王さんをその場で殺っちゃいません?」
「…コージよ、物言いが物騒極まりないぞ。」
「んー、でもあくまで俺のイメージなんですけど…大魔王さんって悪者ですよね?」
「まぁ、善か悪かで言えば…悪だな。」
「なら問題ないですよね?」
「いや、待て待て!何故そんなに殺りたがるんだ?」
「理由なんて簡単ですよ。ドルギスさんが鎧を奪われたら、ドルギスさんの魂はどうなるんです?」
「………」
急に無言になるドルギス。
薄々は気付いていた筈だ…いや、魂を無理矢理剥がされた段階で鎧から解放されたら通常通り死を迎えられるかさえ怪しい事ぐらい分かっていただろう。
下手をすれば…魔物に堕ちる事だって有り得る。
「ね?簡単でしょう?返り討ちにすれば万事解決です。」
「しかし、簡単に言うが…相手は大魔王だぞ?」
「んー、案外大丈夫な気がするんですよね。」
「…お前が言うと強ち冗談に聞こえないから不思議だ。」
「ははは、まぁ返り討ちは別として…ちょっと考えがありまして。」
ドルギスは笑顔の浩二を見た筈なのに、何故か寒気を感じた。
既に肉体はない筈なのに。
□■□■
「あの肖像画ですか?」
少し大きめの屋敷の玄関ホール。
出迎える者も居らず、寂しく2人の足音だけが響く。
丁度真正面の階段の踊り場辺りにその肖像画が豪華な額縁に飾られながらもひっそりと存在していた。
「あの絵が俺がまだアゲイト族だった頃の姿だ。」
懐かしそうに肖像画を眺めながらドルギスは呟く。
この屋敷はもう数十年前から使っておらず、睡眠も食事も必要としないドルギスはいつも外で魔物等から民を守り続けて居るそうだ…文字通り不眠不休で。
アゲイト族達からは慕われているようで、持ち回りで屋敷の掃除などをしてくれている。
お陰で肖像画も綺麗なままだ。
「それで、あんな肖像画を見てどうしようと言うんだ?」
昔の姿が分かるものが見たいという浩二の頼みを聞いれこの肖像画を見せたが…まだその理由を聞いていない。
すると浩二は至極真面目な顔でとんでもない事を言い放った。
「えーと、ドルギスさんマシナリーになる気は無いですか?」
読んでいただきありがとうこざいます。




