大口注文。
「なぁ兄貴?」
「んー?」
「これそろそろ人力じゃ限界じゃね?」
軽い返事をしながら馬鹿みたいに高い位置にヒョイとガラス満載の木箱を重ねる浩二。
「そうか?重ね方さえ工夫すれば…」
既に積み上がった木箱を一部崩し、その隣に並んで重ねる様に階段状に積み直す。
そして階段状の一番上から順に積んでいけば…
「な?」
「…成程なぁ、スゲーな兄貴!」
「まぁ、でも生産量がアホみたいに上がったからなぁ。確かにそろそろキツいか。」
「満載の木箱は結構重いしなぁ。」
次から次へと出来上がる石英ガラス。
そして、次から次へと出来上がる満載の木箱。
確かにそろそろ木箱を積み上げるのに人力では限界だろうか?
そう考えていると…
「コージ!!ガラスを売ってっ!取り敢えず木箱で200!!」
工場の入口からこちらに向かい大声で叫ぶソフィアの姿があった。
□■□■
「…ふぅ…ありがとう。」
浩二の屋敷の居間に案内され、ベータのいれた緑茶を啜り一息ついたソフィアがお礼を言う。
にこやかにお辞儀をしたベータはキッチンへと下がって行った。
「で?何でまたいきなりその量なんだよ。」
「あぁ、それなんだけどね…ドワーフの街にある大教会のガラスを全て石英ガラスに交換しようって話が出たのよ。」
「大教会って言われてもイマイチ規模が分からないけど…木箱を200だからそれなりにデカいんだろうな。」
「教会も大きいけど…一番は女神像の後ろにあるステンドグラスの取り換えが決まった事が一番大きいわ。うちの職人の1人が石英ガラスの色付けに成功しちゃってね…美術肌の職人がそれを使って簡素なステンドグラスを作って教会に持ち込んだら…」
「あー…食いついたと。」
「丁度お爺様が一緒に居たのが決め手ね。「工費は全て儂が請け負う!」って。」
あぁ、ギルさんなら言いそうだ。
「ある程度纏まった数が欲しいって言うから、取り敢えず200箱お願いした訳よ。」
「丁度良かったと言うかなんと言うか。ここの所生産量が上がっちゃって、どうしようかって思ってたんだ。助かるよ。ざっと見ても1000は超えちゃってるから、今日の内に運び込んじゃって良いか?」
「良いの?」
「うん。転送でチャッチャと運んじゃおう。」
「…こんな感じで取り引きが続くなら、陸路の輸送路も整備しなきゃ駄目ね。」
確かここからドワーフ領まで結構な距離だった筈。
毎度転送を使う訳には行かないから、やっぱり陸路を使って届ける手段は必要だ。
道の整備は地面さえあれば幾らでも俺が整地するけど…それだとドワーフ領の皆の仕事を奪いかねないしな。
「ソフィア、半分位は俺が道を整備するよ?」
「あー…うん。正直助かるわ。ドワーフ領から獣人族領までなら荒いけど道はあるのよ。でも、コージの領地までの道がまるで整備されてないから…と言うか…道が無いから。」
「それならまずはその道にこっちから道を繋げるよ。ドワーフ領までの道は追々ね。それに車はこっちから出すから道なんか無くても行けるんだけどね。」
ここまで来てソフィアの首が傾く。
「車?ゴーレム馬車の事?」
「んー…違う…かな?まだ試作段階だから、これから皆に試乗をして貰おうと思ってたんだ。」
「…嫌な予感がするわ。」
「いやいや、今回は至って普通だぞ?」
全く失礼な。等とブツブツ言いながら、ジト目を向けるソフィアを連れて第一拠点へと戻る…と、
「凄ぇっ!!滅茶苦茶速いぞ、コレっ!!」
転送して来た浩二とソフィアの目の前をパンパン鳴らしながら猛スピードで走り抜ける猛。
当然、バイクに跨ってだ。
「この馬鹿タレっ!!」
瞬動で文字通り瞬く間に追い付いた浩二は、むんずとバイクのハンドルを握る。
急ブレーキによる慣性で景気よく吹っ飛ぶ猛。
「うおっ!?危ねぇっ!!」
「危ないだろっ!」
綺麗に体を捻り着地して喚く猛に素早く回り込み拳骨を落とす浩二。
「痛ってぇっ!!おかしいって!絶対あの止め方の方が危ないって!」
「アホか!轢かれたら怪我するだろうが!」
「俺の心配は無しかよ…」
「心配する前に乗ってたんだろうが!」
何とも力技で理解させた感じだが、エアコンを改造してからの試乗のつもりが、勝手に乗り回してるとは思わず驚いた。
「このバイクは結構なスピードが出るから、エアコンを改造して圧縮空気製のヘルメットとライダースーツを追加してからの試乗を頼もうとしてたのに。」
「…そうだったんだ…すまん兄貴。」
「全く。一応この領には飛び出してくる野生動物は居ないけど、何があるか分かんないんだから、あんなスピードで走るなら道路で頼むよ。」
「あー、了解したよ。」
頭をポリポリ掻きながら浩二の元へと歩いて来た猛のエアコンに触れ、ヘルメットとライダースーツを追加する浩二。
圧縮空気を使い、柔らかさと硬さを両立した浩二の自信作だ。
「なぁ…兄貴?」
「ん?どうした?」
「あのよ…これってどう見ても日曜朝に放送してる…」
猛がヘルメットから見える範囲で見た身体のスーツの感想を口にする。
「あっはっはっはっ!!猛っ!アンタ私を殺す気っ?!」
そして、その全体像を捉えた麗子が猛を指差し大爆笑する。
「…麗子の笑い方を見たら…やっぱりマスクもそんな感じなんだな…」
ヘルメットとは言わずマスクと言う辺り既に自分がどんな格好をしているのか理解したのだろう。
ガックリと膝を落とし両手を地面につけて項垂れる猛。
「はっはっはっはっ!!その格好でそのポーズは狡いって!!」
もうすっかりツボに入った麗子が笑い転げる。
舞と栞は苦笑い。
そして…何故か蓮は瞳をキラキラさせていた。
ナオと並んで。
「猛!レッドじゃん、レッド!!」
「いいなぁ猛っち!私もレッドが良い!」
「あっはっはっはっ!」
「お前ら!巫山戯んなっ!」
某戦隊物のレッドに扮された猛は、白いグローブに包まれた手で皆を指差して憤慨していた。
正義の味方のように表情は見えないが。
読んでいただきありがとうこざいます。




