圧縮空気式ホバーバイク。
「仕方ないな…取り敢えずホバータイプも作っておこうかな。」
浩二は自分の横で横倒しになったままのバギーをむんずと掴みゲートを抜けラボへと戻って行った。
早速バギーのタイヤの部分を取り外し、簡素な板に変える。
「んー、ホバーって言ったら風を下向きに吹き出す感じだよな?」
ハンドルの付け根にあるボックスを開けるとそこには光り輝く魔核が埋め込まれており、バギーの全ての動作を制御している。
浩二は魔核にそっと触れ、「タイヤを回す」と言う命令を「風を下向きに吹き出す」書き換える。
続いてアクセルに当たる命令を「回転を上げる」では無く「後方に風を吹き出す」に変えた。
そして、徐にバギーに跨りスイッチオン!
それなりに広い蔵の中で吹き荒れる暴風。
「あー…これ、周りに迷惑かけちゃうやつだ…」
浩二を乗せたまま30cm程浮かせようとすると、この位の風量が必要らしく周りに迷惑をかけること請け合いだ。
この辺りなら砂埃を吹き上げまくりそう。
それなりに音も五月蝿い。
「……うん、色々考え直しだな。」
アクセルを吹かしたにもかかわらず、風量とトルクがイマイチ噛み合って無い感がある。
ノロノロと進むバギーに跨り悲しくなりながら、浩二はゆっくりとスイッチを切った。
考える。
タイヤの代わりに風を使うのは悪くないと思う…思うが、まず五月蝿い。
そして、効率が悪い。
あっちの世界みたいにゴテゴテと大きな機械を取付けなくても、ある程度の風量は得られる事に関しては魔法万歳だが。
ホバークラフト的に考えるから悪いのか…?
いっそ圧縮空気をクッションにして…前に進む為の何かを後ろにつければ…
「よし、やってみよう。」
またボックスを開き魔核に触れ命令を書き直す。
「風を吹き出す」のでは無く「圧縮空気を維持する」に変更。
「おっ!悪くないな、サスペンションも要らない感じ。」
跨りスイッチを入れると先程同様30cm程浮き上がるが、無音かつ程よい弾力で押し返してくる。
今現在は前に2箇所、後ろに2箇所圧縮空気の球体がタイヤの代わりに車体を支えている。
問題はどうやって前に進むかだが…地面との摩擦がほぼ無いせいで、前後左右どの方向も前になってしまう。
後ろの方向に風を送っても…今度は曲がれない。
いや…
ハンドルの傾きに応じて…左右の圧縮空気を爆発させれば…
なら…車体を安定差させるだけなら4箇所の圧縮空気は要らないな。
大きめの少し潰れた球体を前後に2箇所にして…右に曲がる際には左前と右後ろで同時に小規模爆発させれば…
つまり、姿勢制御用に前後の潰れた圧縮空気の球体を用意し、左右の操舵は前後に2箇所づつ取り付けた斜め下向きの圧縮空気発射管から発射された空気で曲がる。
トルクは背後斜め下向きに取り付けた少し大きめの管から操舵と同じ様に圧縮空気を爆発させる事で得られる。
ブレーキも同様だ。
そして細部のデザインを微調整した結果、バギーとは程遠い…何方かと言えばエンジンを外してスリム化したスノーモービルの様な姿をしていた。
何とも未来的なフォルムだ。
やはり小型化していたとは言え、ゴーレムエンジンを外したのはデカい。
基本動力が全て魔核による風魔法だけで済んでしまうのだから。
しかし、挙動の制御がどうなるか分からないから試運転は必要だ。
圧縮空気を爆発させる段階で蔵内での試運転は却下。
早速横断道路前の広場へ転送して、スイッチオン!
一瞬ブォン…!と言う音がして車体が浮き上がる。
直ぐに跨り、ゆっくりとアクセルを回してゆくと、パン!パン!という破裂音と共にスーッと加速する。
道路との摩擦がほぼ無いため、破裂音が響くのと比例して驚く程に安定したスピードを叩き出す。
「おおっ!思ったよりもずっと速いなっ!」
第一拠点へと真っ直ぐに引かれた横断道路。
その緩やかな下り坂も手伝って浩二は700kmの距離を2時間半程で走破した。
つまり…時速200km以上は出ている計算になる。
「ヘルメットとかいるかもな…いや、エアコン弄るか。」
案外と速いスピードに多少の危機感を覚えた浩二は、エアコンに新たに頭を守る機能と体を守る機能…つまり、擬似的なヘルメットとライダースーツを魔法で作ろうと。
浩二自身は平気だが、他のメンバーには怪我をされたら大変だからな。
そして、タイヤじゃなく圧縮空気を使うと決めた時点で試したい事があった。
「うっし!いくぞーっ!」
パン!パン!パン!と破裂音を連続で響かせ一気に加速されるバイク。
向かうは…湖!
そしてそれほどかからずに噴き上がる水飛沫。
「ヒャッホーーッ!!」
道路と違いスピードが乗っていないと沈む可能性がある為、定期的に破裂音を鳴らしつつ、まだ使っていない操舵のテストする。
若干身体を傾けるようすると、二つの破裂音が重なって響く。
同時に多少クイック気味にバイクの方向転換を終え、次は逆方向へと向きを変える。
続け様に左右のカーブを経験し、満足行く結果を得た浩二は、二人目の試乗を頼む為にバイクに乗ったまま丘へ上がり、道路を通り第一拠点へと乗り入れた。
向かうはガラス工場。
そして、浩二がここを覗くと大抵…
「ほらっ!アンタはキリキリ運びなさいっ!」
「ちょっ!?アホか!?詰め込み5人に運び1人とか割合おかしいだろ!つーか、ナオはこっちだ!何サラッと詰め込み組に紛れてんだよ!」
「へへー!」
「いい笑顔してもダメだかんな!」
修羅場真っ盛りの様だ。
横断道路を作り終えた時点で案の定、石英ガラスの生産量が増えた。
西側には湖があるが、東側には小さいながらも砂砂漠がありそこを突っ切った道路は、豊富な砂を工場へと運び込む結果となった。
よって、バイトは人族組+ナオ時々タロスとほぼ浩二組全員でカバーしている。
そろそろ何らかの対応を考えないと苦情が来そうだ。
まぁ、今は忙しそうだし…また後にしよう。
「逃がさねーよ?」
回れ右した浩二の肩にガッシリと猛の手が置かれた。
割と力強く。
読んでいただきありがとうこざいます。




