パワーレベリングの弊害と基礎能力。
名前 岩谷浩二
年齢 26
種族 ドワーフLV1
職業 人形師 氣法師
筋力 250
頑強 350
器用 150
敏捷 200
魔力 25
スキル
『黄昏の人形師』LV1
『黄昏の傀儡師』LV1
『魔核作成』LV1
『操気術』LV6
『見様見真似』LV--
『火魔法(見習い)』LV1
『パワースラッシュ(見習い)』LV1
『パワースラスト(見習い)』LV1
『鑑定(見習い)』LV1
□■□■
「へ?」
変な声が出た。
え?何この数字。
何このスキルの数。
色々おかしい。
確かにLVは1だが、明らかにおかしい。
軽くパニックを起こす浩二。
すべて記憶していた訳では無いが、初めてステータスを見た時の数字とは明らかに違う。
「まずは…落ち着こう…」
目を閉じてゆっくり深呼吸。
目を開き再びステータスを見る。
(何で職業二つなんだよ…それにスキルの『操気術』って俺が自分で付けた名前なのに…何より『見様見真似』って何だよっ!…火魔法!?俺って魔法使えないんじゃ…ってか見習い?)
更にパニック度が増した。
額からダラダラと嫌な汗を流していると、不意に横から声が掛かる。
「どうしたの、お兄さん?ちょっと私にもプレート見せてっ!私のも見て良いからっ!」
蓮は自分のプレートを浩二に渡すとキラキラした瞳で浩二のプレートを受け取りそれを見る。
やがてその目が見開かれ、やがて口をパクパクさせ、そして叫んだ。
「えぇ~~~~~っ!!」
蓮の叫び声が訓練所に響き渡る。
浩二や蓮、栞とのやり取りを見ていた勇者達も何事かと集まってくる。
そして、浩二のプレートを見て一様に同じ反応を繰り返す。
更に嫌な汗が出始める。
今度は冷たい汗だ。
浩二は嫌な予感を振払うように蓮のステータスプレートに目をやる。
□■□■
名前 刻阪蓮
年齢 17
種族 人族LV30
職業 勇者
筋力 150
頑強 100
器用 100
敏捷 80
魔力 350
スキル
『火魔法』LV5
『MP自動回復』LV3
□■□■
(あ…れ?随分と…低い?)
浩二の予想とは遥かに違う低いステータス。
確かにレベルは30だ。
でも、それにしたって低すぎる。
(まさか…!)
思い当たる節がある。
いや、多分間違いない。
パワーレベリングのせいだ。
「あぁ、こりゃパワーレベリングのせいだわ。」
浩二の思考と重なる様に言葉を発したのは、どさくさに紛れて勇者達と一緒に浩二のステータスプレートを見ていたスミスだった。
そしてスミスは彼等に向けて話し出した。
「いいか?浩二のレベルが1なのにお前らより数値が高いのは、単純に基礎能力値のみでお前等のレベルアップ上昇分を超えてるだけさ。簡単だろ?普通じゃないがな。」
浩二を普通じゃないと言いながらガハハハハと笑うスミス。
「ステータスの数値ってのはな、レベルアップしなくても上げられるんだよ。どうすれば良いか分かるか?」
勇者達は誰も口を開かない。
ただただ無言でスミスの次の言葉を待っている。
「簡単だよ。ひたすら訓練を積めば良いのさ。走り込めば『敏捷』、攻撃に耐えれば『頑強』『筋力』、魔法を使ったり受けたりすれば『魔力』、色んな武器等を使い込んだり、道具を作ったりすれば『器用』みたいな感じでな。」
「そんな当たり前の事であんなに上がるのかよ!」
スミスの言葉に声を荒らげ食いつく勇者。
「上がるさ。ただし、その当たり前を当たり前以上にこなせばな。だから言ったろ?普通じゃないって。」
食いついてきた勇者の一人に歩み寄り、スミスはさらに言葉を続ける。
「他人事みたいに言ってるが、お前等だって協力してたろうが。」
「な、なんの事だよ!」
「毎日繰り返してたろ?集団リンチをよ。一対数十だぜ?普通じゃねーよな?」
スミスが若干だが語気を荒くする。
「まぁ、それだけじゃないんだがな。お前等がお日様の下で楽しくやってる間にコージは何をしてたと思う?」
スミスの問い掛けに答える者はいない。
想像すらしていなかったのかもしれない。
地下牢で過ごすという事を。
「浩二はな、レベルが上げられない代わりに…と言わんばかりにずっと基礎訓練を積みまくって来たのさ。来る日も来る日も地下牢でひたすら自分に出来ることを反復して来た。しかもそれを日課と言い切りやがった。お前らが金魚の糞みたいにレベル上げをしている間にも浩二はひたすら訓練を積み続けていたんだよ。」
無言の勇者達。
「基礎能力ってのは、レベルアップ時に相乗効果を生む。レベルアップ前に訓練を積めば積むだけその恩恵は何倍にもなる。」
勇者達は浩二を見た。
複雑な表情を顔に浮かべながら。
そして、スミスが最後の言葉を投げ掛ける。
「つまり、これからお前らは誰一人としてコージに敵わなくなるんだよ。だってよ、レベル1の時点での基礎能力が既にレベル30のお前らを超えてるんだからな。これからコージがレベルを1でもあげてみろ…たちまち超えられない壁になるぜ?」
「そ、そんなの…やってみなきゃ分からないじゃないかっ!」
やっとの事で絞り出した儚い抵抗。
しかしスミスはそれをあっさり打ち砕く。
「分からないか?お前等はもうレベル30なんだぜ?今からレベルアップ前に頑張って頑張って訓練をしても、そんなのあっさり覆されるさ。だってよ、コージは多分レベルアップの度に日課の訓練をしちまうんだからな。ハッキリ言って俺ですら想像がつかん。恐らくコージがレベル30になった時の数値は…お前等の数十倍なんて生易しいもんじゃない…って事位は覚えておくといい。」
勇者達は言葉も出ない。
訓練などしてこなかった。
楽にレベル上げして、楽に強くなろうとした。
浩二などすぐに追い抜けると思っていた。
誰一人として言葉を発せないまま、兵士のオッサンに連れられて勇者達は訓練所を後にした。
その時の兵士のオッサンの顔が真っ青になっていたのが妙に気になったが。
浩二は自分のプレートを手にしたまま、その光景を黙って見つめていた。
□■□■
「今すぐにでも処刑すべきです!!」
広い空間に声が響く。
「それ程の事なのか?」
「はいっ!既に今現在でステータスは私を超え、近衛騎士にすら届く勢いです!」
「なんと!近衛騎士だと!?」
「現在はレベルが1なのが唯一の救い…罷り間違えてレベルが上がってしまえば…」
「しまえば…?」
兵士は言葉を選ぶように目を閉じ…やがて口を開く。
「この城内で…奴に勝てる者はいなくなるでしょう…」
兵士の報告に辺りが静まり返る。
「くそっ!忌々しい魔族めっ!良かろう!理由などどうとでもなる!」
声の主は煌びやかな玉座から立ち上がり高らかに宣言する。
「3日後!岩谷浩二の処刑を行う!!」
そう宣言した国王はドカッと玉座に座ると、嫌な事でも思い出した様に顔を歪めた。
「何としても…奴のレベルが上がる前に…処分しなくては…」
その呟きが「処刑」ではなく「処分」になっている事にすら気付いていない国王。
その玉座の少し上方。
壁に張り付くように佇んでいた紫色のイモリの様な生物の目が妖しく光る。
そして、その生物は細長い舌をチロチロと数回出すと、霞のようにその場から姿を消したのだった。
読んでいただきありがとうございます。




