レベルの差と意識の差。
浩二は徐に歩き出し、勇者達の前に立つと口を開いた。
「なぁ、勇者様達。アンタ達はこのまま戦場に出て生き残れると思うか?」
肩で息をしたり、剣を杖替わりにしてようやく立ち上がっている勇者達に浩二は問いかけた。
何人かは浩二の言葉を聞いて顔を見合わせたりしているが、誰一人として返事を返す者はいない。
だから浩二は続けた。
「はっきり言って、死ぬぞ?お前達皆だ。魔族ってのがどれ程の手合かは分からないが、今のお前さん達よりは強いだろうさ。」
はっきり言い切った。
死ぬと。
「そ、そんなのやってみなけりゃ分からないじゃないか!」
勇者の一人がなんとか言葉を返してくる。
最悪の答えを。
やってみなけりゃ分からない?
分かった時には既に遅いって事すら分からないのか?
「レベル1の俺にすら適わないのにか?」
「嘘をつくなっ!お前がレベル1な訳無いじゃないかっ!」
「いや、間違いなく1だよ。俺はここと牢以外には行った事すらないからな。」
「そんな話が…信じられるかっ!」
話にならない。
聞く耳もたない以前の問題だ。
自分の弱さを人のせいにし始めている。
俺が強いからだ…と。
何とかならないものかと思っていると
「ハイハイハーーイ!それじゃさ、見てみれば良いじゃん!」
「出来るのか?」
「うん、多分ね!…えーと…あ!いた!栞ちゃん!ちょっとお願い出来る?」
蓮が元気に手を挙げて発言する。そして、栞ちゃんと呼んだ女生徒にブンブンと手を振った。
すると数人の勇者の中から、一際小さな女の子がひょこっと顔を出した。
見たことの無い女の子だ。
多分非戦闘系なのだろう、訓練で手合わせした記憶が無い。
蓮は栞の元へ走り寄ると、その手を引いてこちらに向けて戻って来た。
「お兄さん!この子は栞ちゃん!「鑑定」ってスキル持ってて、この間スキルレベル上がったらプレート作れる様になったんだ!凄いでしょ?」
まくし立てる様に言葉を連ねる蓮。
幾つか聞いたことの無いワードが混じっている。
「鑑定…ってのは何となく分かるけど…プレート?」
「あぁ、うん!コレっ!」
蓮はズボンのポケットから薄い板のようなものを取り出すと浩二に差し出す。
その薄青く光るプラスチックのプレートの様なものには蓮のステータスが白く浮き上がるように映されていた。
「これは栞ちゃんが作ったんだよ!魔道具の水晶球でも作れるんだけど、こっちはタップすると詳細まで見られるんだ!しかも、ちゃんとステータス更新までしてくれるんだから!」
どこかで見たと思ったらここに来てすぐに勇者達が見せ合っていたあのプレートか。
しかも、その上位互換らしい。
何となく画面だけのスマホっぽい。
とりあえず目の前で小さくなってる娘にお願いしてみよう。
「あ、えーと栞ちゃん…でいいのかな?」
「え…あっ!は、はいっ!栞は栞ですっ!小鳥遊栞ですっ!すみませんっ!」
「いやいやいや、済まなく無いよ栞ちゃん。そんなに怯えないでくれると…嬉しい…」
尻すぼみに言葉が小さくなり、栞の露骨な怯え様に背景までズーンとなる。
そんなに怖いのかな俺…。
「あのー…食べたりしません…?」
「喰わんわっ!」
「ひっ!」
「いや、だからね?俺は君にお願いしたい事があるんだけど、良いかな?」
「せ、性…的なことですかっ!?栞はまだ子供なんでぇっ!」
「うりゃっ!」
「きゃっ!」
栞の額にチョップ。
おでこを抑えて栞が涙目で小さな悲鳴を上げる。
話が進まないので、とりあえず軽く入れてみた。
「少し落ち着こうか。」
「うぅー…はい、すみません…」
「とりあえず、食べたりも、性的に食べたりもしないから安心してくれ。」
「…本当…ですか?」
「一体君らの中で俺という存在はどんな生物のカテゴリーに入ってるんだよ…まぁ、いっか。それより、落ち着いたかい?」
「…はい。」
腰に手を当てて溜息をつく。
色々聞きたいことはあるが…主に自分の存在について…まぁ、それはこの際置いておいて…後で蓮にでも聞いてみよう、うん。
やっと会話できる…何だか異常に疲れた。
「さっき蓮の言ってたプレートって俺のも作れるの?」
「あ、はい。今からプレートを作るので、そこに血を一滴垂らしてもらえれば。」
「血か…分かった、今すぐいる?」
「わわわっ!待って下さいっ!今すぐ作りますからっ!」
すぐさま血を垂らすために指の先を噛み切ろうとしていた浩二を見て慌ててそれを止め、栞はプレートを作る準備を始める。
両手の掌を上に向けて重ね何やら小さく呟くと淡く青色の光を発し始め、やがてそれがプレートの形へと姿を変えた。
「へー…大したもんだなぁ…」
「ほぇ?」
「いやさ、何も無い所から物を作り出すなんて凄いなって。」
「…そんな事ありません…栞は、これしか出来ませんから…」
そう言って俯いてしまう。
なんと言うか…小動物みたいだな。
何となく放って置けなくなり、浩二は栞の頭を優しく撫でた。
「栞ちゃん、君は今凄いことをしているんだよ?少なくとも俺には出来ない。自分と誰かと比べて優越感を感じても、きっとそれはその場の自己満足にしかならない。」
最初は頭に手を置かれビクッとしたが、頭を撫でられながら上目遣いで黙ってこちらを見つめる栞に浩二は続ける。
「だからさ、栞ちゃんは自分が出来ることを一生懸命やれば良いんだよ。誰かと何かを比べるんじゃなく、自分だけを見て自分が納得出来るように。そうして得た力は、絶対自分を裏切らないから。」
「…はい。ありがとうございます、お兄ちゃん。」
「ははっ、お兄ちゃんか、不思議と違和感は感じないな。」
「あっ!す、す、す、すみませんっ!栞、お兄ちゃんがいてっ!それでっ!」
恥ずかしかったのだろう、栞は無意識に出た「お兄ちゃん」という言葉にアワアワと慌てふためく。
その時、出来上がったプレートが栞の両手から滑り落ちる。
「よっ!」と声を上げて間一髪地面に落ちる前にキャッチした。
「大丈夫だよ、栞ちゃん。ほら、落ち着いて。コレに血を垂らせば良いの?」
「うぅ…恥ずかしい…はい、そのプレートに一滴だけで良いので垂らしてください。」
「了解…っと。」
左手の人差し指を少しだけ噛み切り、滲んだ血を一滴プレートに垂らす。
プレートへと落ちた一滴の血は波紋のようにプレートを小さく波打たせ、やがて青かったプレートが赤く染まる。
そして、波紋が収まった頃再び青色に戻った。
「完了です。これでそのプレートはお兄ちゃん専用になりました。プレートの操作もお兄ちゃんと栞にしか出来ません。」
「栞ちゃんも操作出来るんだ?」
「あ、はい…一応製作者ですから。」
「あ、そっか。で、どうすればステータスが表示されるの?」
「えーと、プレートを手に持った状態で頭の中で「ステータス表示」って思い浮かべれば大丈夫です。」
「へー…どれどれ…」
浩二は右手にプレートを持ったまま頭の中でステータスが表示されるように思い浮かべた。
するとプレートが淡く光出し、やがて数字や文字の羅列が浮かび上がってきた。
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