ポーションお供に一夜漬け。
「あ”~~っ!不味いっ!!」
浩二はポーションを一気に煽りながら叫ぶ。
叫ばなきゃやってられない不味さ。
浩二は二人を見送った(当然牢の中から)後ずっと気の修練に励んでいた。
立禅をしながら、ひたすら気を練り身体の各部位に集中して気を纏わせる訓練中だ。
既に日を跨いだ時間になっても、浩二が修練を止める気配は無かった。
最初は脱力感から倒れそうになり、蹲っていた所にスミスが現れ、慌ててポーションを差し入れてくれた。
凄く良い笑顔で。
兵士を引退してからもポーションの支給は続いているらしく、詰所には木箱単位でポーションがあるらしい。
「ホラホラ、グッと行けグッと!!」
等と酔っぱらいの上司のようにポーションを浩二に勧め、浩二は嫌々ながらもソレを煽る。
多少は体力の回復が望めるらしく、浩二も倒れる前にポーションを飲むようにしている。
どうやら気の運用は体力が消耗する。
前の世界の漫画で「気は体力、魔力は精神力」と書いてあったのを思い出す。
「漫画の知識も結構馬鹿に出来ないな…」
右腕に薄青く光る薄い膜を張りながら、それでも意識を切らさないように集中する。
「理想は常時展開だけど…今はまだ無理かな…」
ジリジリと体力が消耗する。
おそらくではあるが、まだ気の運用に無駄があるのだろう…使って使って使い倒して身体に染み込ませる、気の運用を…無駄のない運用を。
その為の修練だ。
しかし、浩二はその一部を既にものにしつつあった。
「最初よりは…疲れづらくなってる…と思いたい…」
実際に運用時間は長くなり、膜の厚さも自由自在…という訳にはいかないが出来るようになってきた。
不意に浩二の身体がグラつく。
頭がクラクラして、身体に力が入らなくなる。
「あぁ…キツい…」
フラフラした足取りで木箱に向かい徐に手を突っ込むと、ポーションをむんずと掴み親指だけで器用に栓を開け…一気に胃へと流し込む。
「かぁ~~~~っ!不味いっ!実に不味いっ!」
別に味の感想は要らないのだが、言わずには居られない。
この一見ドMとも言える気の連続運用訓練をする為には欠かせない存在。
感謝と悪意を込めて口にするのだ。
スミスの凄く良い笑顔が垣間見えてイラッとするが。
「俺……俺、自由になったら美味しいポーション作るんだ…」
変なフラグを立ててみる。
実際浩二はこの後フラグを回収するかのように本当に美味しいポーションを作るのだが…それは少し未来の話。
□■□■
「ねぇ、舞?」
浩二の牢からの帰り道、蓮は隣でナオを抱いて歩く舞に先程からずっと頭にある疑問をぶつける事にした。
「舞ってお兄さんの事が好きなの?」
「ぶはっ!」
舞は唐突な蓮の質問に乙女らしからぬ声を上げて吹き出す。
「な、な、な、な、何言ってるの蓮ちゃんっ!」
「うわぁ…凄く分かりやすい。」
誰がどう見ても明らかに誤魔化し切れていない。
両手を開いてブンブン振ってるし。
顔は真っ赤だし。
ナオは舞の肩に緊急避難していた。
「だ、だ、だって!好きとか言うからっ!」
「どうどう、落ち着いて舞。」
蓮もここまで動揺するとは思ってなかった。
軽い、ほんの軽い気持ちで聞いただけなのだ。
「だって、男の人とあんなに普通に話してるとこ見るの、ホントに久しぶりだったからさ。」
「あ……」
学園にいた頃、壁を作るように人付き合いをしなくなった舞。
中学に上がった頃はまだ普通とは言えないが、クラスメイトとの会話はあった。
しかし、徐々に成長していく身体。
二つの膨らみが明らかに過剰な自己主張を始めた頃。
男の視線が怖くなった。
所構わず向けられる好奇な視線。
それは当然、クラスの思春期真っ盛りの男子からも向けられる訳で。
無神経な言動などは蓮が防波堤になってはいたが、全てを防ぎ切れる訳もなく、男性への不信感が人間不信に変わるのにそう時間はかからなかった。
蓮はいつも心配していた。
このままではいけないと。
しかし、蓮一人に出来ることなど高が知れている理由で。
いつか…いつか魔法の様に舞の心を癒してくれる存在が現れるのを、神にも祈る気持ちで待ち続けた。
当の舞もきっとそうだったのだろう。
そして現れた。
あれだけ人嫌いで男性不信だった舞が普通に話が出来る男性。
猫を肩に乗せ、牢屋で過ごす変わった男性だが。
しかし、今の舞の反応を見る限り、嫌悪感など欠片も見当たらない。
寧ろ好意的とすら思えた。
「あのね、舞。あのお兄さんはきっと大丈夫だよ。」
「蓮ちゃん…」
「だからさ、もっともっといっぱい、い~~~っぱい話してさ、もっと仲良くなろうよ!」
「……うん。」
「ナオちゃんとも仲良くなりたいしねっ!」
「あ!…蓮ちゃん…そっちが本命でしょ?」
「バレた?」
「もう!」
幼稚園の頃からの幼なじみ。
いつも二人で一緒に遊んで、時々喧嘩もして。
辛い時は気遣うようにいつも笑顔で側に居てくれた。
「ありがとう…蓮ちゃん。」
「ん?何?」
「んーん、何でもない。」
いつか彼女の力になれる時が来たら…迷わず力になろう。
舞はそう心に誓った。
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