そして。
「違うのよ!」
崩れ落ちた瓦礫を一箇所に集めながら、もう何度目かの言い訳をするソフィア。
言い訳をしながらも、その身体に似合わない量の瓦礫を運んでいるのだから『剛力』の面目躍如と言ったところか。
「だから言ったろ?手加減しろって。物理結界じゃ、振動まで防げないんだからさ。」
同じく城壁だった瓦礫を運びながら浩二が言う。
こちらも同じく驚く程の量の瓦礫を上手くバランスを取りながら運んでいる。
「…いやぁ、姉貴と兄貴がいれば土建屋要らずだな。」
100m程に渡って崩れてしまった城壁の瓦礫も、二人の手でほぼ一箇所に集められつつあった。
そんな光景を目にしながら猛が呟く。
「ええ、人間重機ね…あ、ドワーフか。」
隣で腕を組みながら納得した様に頷く麗子。
「お前ら…手伝うって選択肢は無いのか?」
「無いわね。…ってより、かえって邪魔になるんじゃない?」
「そうだな。『剛力』のスキルもねーし。」
「はい!そこ!無駄話しない!」
生き残った城壁の上からビシッ!と浩二を指差し大声で注意するシルビア。
「そんな所登ってないで、アンタも手伝いなさいよっ!」
「…ソフィア?貴女がそれを言う?」
「…何よ。」
「誰があの訓練所に出来たクレーターを平に均したと思ってるのよ。」
「ぐっ…!」
グウの音も出ないソフィア。
まぁ、仕方の無い話だ。
訓練所にクレーターを作ったのも、城壁に止めを刺したのも彼女なのだから。
「ま、こんなもんか。」
目の前に堆く積み上げられた瓦礫の山。
それを目の前にして浩二は腰に手を当て一息つく。
「それで?それで?やるんでしょ?」
いつの間にか浩二の後ろにスタンバっていたシルビアが目をキラキラさせながら、次の工程に期待している。
更にいつの間にか勢揃いしている魔王&勇者&監視者達。
「別にそんなに難しい事をする訳じゃ無いですよ?ちょっと規模が大きいだけで。」
「それは私が決めるの!」
「…了解しました。それじゃ、チャッチャと済ませますね。」
徐に魔核を作り出す浩二。
この段階で監視者二人が目を剥く。
「あ、そうだ。ソフィア?ついでだし、城壁に何か機能追加しようか?」
出来立てホヤホヤの魔核を掌で転がしながらソフィアに訊ねる。
「…んー、そうね…サキュバス領の壁みたいに自動修復付けられる?あると便利なんだけど。」
「あぁ、大丈夫だよ。それじゃ、早速…」
最近ソフィアも浩二の非常識に慣れて来たのか、平然と常識外れな注文をする。
そして、それをあっさり了承する浩二。
やがてシルビアが凝視する前で魔核に命令を刻み始める。
魔核は時折色を変えながら淡々と浩二の命令を受け入れてゆく。
「…よし、こんなもんかな?」
数分後、魔核への書き込みが完了する。
そして、ギャラリーが見守る中、出来上がった魔核を無造作に瓦礫の山へと放り投げた。
次の瞬間、眩い光が瓦礫の山と城壁の一部を包み込む。
その光は徐々に形を変え、城壁の崩れた部分を埋めてゆく。
やがて静かに光が収まると、そこにはまるで何事も無かったかのように崩れる前と何も変わらない立派な城壁が聳え立っていた。
「うん、こんなもんかな?」
満足気に頷く浩二が振り返ると…
「…間違い無く『魔王』だな。」
「…ええ、それで良いんじゃないかしら?」
呆れた様子で城壁を眺める『黒龍帝』と『妖精女王』がいた。
「…シルビア…説明を頼む。」
「…えーと、『分解』と『再構築』で瓦礫を石材に戻した後に『模倣』と『形状記憶』を同時に行いつつ同時進行で『模倣』で生きている城壁をコピーして『土魔法』で組み上げつつ魔核に刻まれた『自動修復』と『魔素高速収集』を完成した城壁に『付与』したようね。」
「…うむ、分からん。」
詳細説明を求めたシュナイダーがシルビアの説明に首を傾げている。
説明しているシルビアですら呆れている様だ。
「兄貴は相変わらずだなぁ…」
「ええ、これで『魔王』じゃなきゃ、只の変態じゃない。」
「麗子ちゃん…それは言い過ぎじゃ…まぁ、常識外なのは同意するけど…」
「お兄ちゃん…凄いなぁ。」
「ねー!流石はお兄さんだよ!」
「ふふっ、やっぱりコージ君ねぇ♪」
「あぁ、規格外にも程がある。」
驚きはするものの、浩二を良く知るメンバーの反応は軽い物である。
そして、浩二という存在自体を知らなかったとある王族はその非常識な光景に腰を抜かしていた。
「…アレは…何なんだ…?」
「彼が新しい『魔王』となるコージじゃ。そして、彼は人族とも友好関係にある。下手な事をして敵に回さん方が身の為じゃよ?」
腰を抜かしたルガーに手を差し出し、引っ張り起こしながら注意を促すギル。
「…そう…なのか?」
「あぁ、しかも『女神』にも愛されているようだしな。王族とは言え、一種族の手に負える存在では無いぞ?」
ギルの横から現れた『黒龍帝』が更に釘を刺す。
「………」
「彼は『魔王会議』が責任を持って監視をする。しかし、それはあくまで世界の敵にならない様にする為。過剰に敵対して機嫌を損ねても我らは関与せんからな。」
監視者の一人である『黒龍帝』にここまで言われたのだ、ルガーはただただ頷くしかなかった。
「さて、ギルよ。どうする?今更円卓を囲む必要などあるまい?」
「そうじゃな。最早誰も何も言うまい。彼…コージは本日を以て『魔王』じゃ。」
「うむ。で?二つ名はどうする?」
「…そうじゃのぉ…『魔導』といきたいところじゃが…既におるしの…」
ギルは太い腕を組み唸る。
「では、『傀儡』などどうだ?…彼の作ったマシナリー達はどれも素晴らしい出来映えだったが。」
「…ふむ。イマイチ聞こえが悪いが…良しとするかの。」
「では決まりだな。コージよ!」
『黒龍帝』が声を張り上げ浩二を呼ぶ。
仲間達に囲まれ笑い合っていた浩二は、佇まいを直し『黒龍帝』の前へと歩み出る。
「はい、何でしょうか?」
「たった今お主は『魔王』となった。二つ名は『傀儡』」
「…『傀儡』」
「皆の者よ!異論はあるか?」
誰一人として首を縦に振るものは居ない。
それどころか、今にも叫び出しそうな雰囲気さえ有る。
「ならば決定だ!数多くのマシナリーを作成し従えたコージに『傀儡』の二つ名を与えると共に、サーラ地方を領地として与える!」
「サーラ地方!?」
地名を聞いたソフィアが酷く驚いた声を上げる。
そこに何かあるのだろうか?
「ソフィア?そのサーラ地方って何か問題でもあるのか?」
浩二が少し不安になり聞いてみる。
「儂が代わりに話そう。サーラ地方とは、このラシア大陸の最西端にある巨大な半島じゃ。その面積は優にこの大森林の数10倍。」
この大森林って…確か端から端まで300km以上あったよな…
「そして…」
この後に続く言葉を聞いた浩二は一瞬何を言っているのか分からなかった。
「…陸地の8割が砂漠地帯じゃ。」
どうやら浩二は『魔王』になっても何かと苦労が絶えないようである。
少し長くなりましたが、これにて四章は終了です。
次話からは第五章になります。
ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございます。
これからも頑張って更新を続けますので、引き続き『あれ?ドワーフって魔族だったっけ?』を宜しくお願いします。




