お仕置き。
優雅に舞う。
小さな身体を目一杯使い両手に持つ扇子がまるで生き物の様に舞い踊る。
見ているだけで胸の底から湧き上がる高揚感。
今なら何をしても成功するのではないかと錯覚する程に膨れ上がる士気。
「『戦の舞《百華》』!!」
栞の声が凛と響く。
そして、それに応える様に見蕩れていたメンバーの身体が紅色に淡く輝き出す。
『戦の舞《百華》』
あのエルフのお姉さんに栞が舞を教えていた時の事だ。
一緒に教えを乞いに来ていた数名のエルフの内の一人が『癒しの舞』以外で栞の知る舞を舞っていたのだ。
それを見て栞が正確に舞ってみたところ、ステータスプレートに刻まれたのがこの『戦の舞《百華》』である。
これは、舞を見た人物のステータスを全て30分間1.5倍に底上げするというもので、バフが掛かった人物は全身から紅色の淡い光を放つ。
「ありがとう、栞。」
「いいえ、皆さん頑張って下さい!」
「さぁ!後は手筈通りに!」
ソフィアの言葉に頷いた面々は赤い光を纏いながらそれぞれ所定の場所に散って行った。
「さて…一番手、行かせてもらうかな。」
そう言ったシュナイダーは大きく息を吸い込む。
厚い胸板が更に膨らむ程吸い込み…最上位種二人を睨み付ける。
そして、
「ガアアァッッッ!!」
空気が激しく震えるほどの咆哮を上げる。
咆哮に殺気と闘気を込め吼える『覇王咆哮』という名のスキルだ。
自分より弱い者ならば、その場で意識を失う程の強烈な殺気。
それがたった今、爆音と衝撃波を発した二射目を終え互いにニヤリとしていた最上位種二人に届く。
「ぐっ!?なんじゃ!?」
「うおっ!?」
肌に纒わり付く強烈な殺気。
しかし、流石は最上位種。
意識を失う所か、ほんの数秒の硬直を作り出すので精一杯だった。
「シュナイダーさん、お疲れーっ!」
両手にブラックロアとシルバーロアを持った蓮がシュナイダーを掠めるように飛び出す。
「二番手蓮!行くよーっ!」
元気に叫ぶ蓮が持つ二丁の銃は既に溜を終え、その銃口を二人に向けていた。
そして、二匹の獣が咆哮を上げる。
凄まじいスピードで直径1.5m程の無属性魔素の塊と、同じ位の氷属性魔素の塊がそれを追う。
硬直する二人へと向かって。
そう、シュナイダーの仕事は蓮の銃弾が届く迄の時間を稼ぐ事。
メンバーの中で一番出が早く、到達も速く、回避不可能なシュナイダーの咆哮が一番手に選ばれたのだ。
本人はイマイチ不完全燃焼の様だが。
全ては回避されずに全員の攻撃を二人に当てる為。
そして、やがて無属性魔素の塊が二人に届こうとしたその瞬間、後続の氷属性魔素の塊が追い付き…無属性魔素を全て喰らった。
氷属性魔素は無属性の魔素を取り込み、一回り大きくなりその姿を変える。
超低温の暴風へと。
極狭い範囲にこれでもかと圧縮された超低温の暴風は、やがて二人を包み…一瞬にして二体の氷のオブジェを作り出す。
あくまで体表面が凍結しただけではあるが、動きを封じるには充分。
全身に力を込め氷を砕こうとしていた二人が次に目にしたのは弓を構える麗子の姿だった。
「三番手は私よっ!」
そう言い放つ麗子は弓を引き絞る。
但し、普通の弓では無い。
「おいおい…」
嫌な汗が出る浩二。
巨大な弓の弦を軽々と引いてゆく麗子。
正確には幻影の様に麗子の腕だけが巨大化し、本体である麗子の動きをトレースしていた。
最早ソレは弦と言うより綱だ。
その綱のように太い弦に番えられた一本の矢。
その太さは優に10cmを超え、長さに関しては3m以上。
そして、鏃とは呼べない金属の塊が先端をこちらに向けギラリと殺意を放っていた。
「バリスタだって弓よね?」
機械式の攻城兵器たるバリスタを生身で引き絞り、城ではなく生き物に向けニッコリと笑う麗子。
そして、何の躊躇いもなく弦を引き絞る指を離す。
空気を切り裂き迫る金属製の凶悪な鏃。
二人は氷が砕け切れない下半身を諦め、矢を受け止めようと腕を前へと伸ばす。
「ぐっ!」
「っ!」
次の瞬間、受け止めようと待ち構えていた二人の足に痛みが走る。
しかも、目の前に迫っていたバリスタの矢はまるで空気に溶けるように消え失せたのである。
残された物は、二人の足に針山のように無数に突き刺さる黒金の細い矢だった。
鏃にはドリルの様に螺旋に溝が彫り込まれており、突き刺さる事を重視した作りのようだ。
痛みに膝を付く浩二。
視線を麗子へと流すと…
そこには小さくガッツポーズをする麗子と…隣に佇みペロッと舌を出す栞の姿があった。
「やられた…!」
「してやらた…わい。随分と強い幻覚のよう…だの。」
続いてギルも片膝を付く。
しかし、容赦ないお仕置きは続く。
「四番手ぇっ!獅童猛っ!行くぜっ!」
声の先に二人が視線を向けるとそこにはキャノンボールを右手で振り回す猛が獰猛な笑みを浮かべていた。
振り回されるオリハルコン球。
そして、鎖を持つ右手の紅蓮の篭手が眩く光り、その力は余すところ無くオリハルコン球に注がれてゆく。
最初は赤…やがて白へと色を変えながら巨大化するキャノンボール。
その猛烈な熱気はやがて二人にも届き始めた。
「アレはヤバイですよ…!」
「…アレも…主の作品か…?」
「…はい…」
「…いやはや…とんでもないのぉ…」
やや呆れた様子で口にしたギル。
そして、徐に自分の足を殴り付ける。
「動けるか?」
「はい、何とか。」
「それじゃ、さっさとここから…」
「逃がさないわよぉ~?」
間延びした声と共に、逃げようとしていたギルと浩二の影から現れた無数の腕が二人の足に絡みつく。
丁度猛の反対側。
そこにはミラルダとその後からミラルダの両肩に手を置くドルギスの姿が見えた。
「ふふっ♪コージ君♪お楽しみの時間よぉ♪…主に私の!」
「…程々にな…」
ミラルダは窘めるドルギスを他所に意味のわからない言葉を発しつつ妖しく瞳を輝かせ舌なめずりをした。
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