拳と拳。
「ギルさん、これを。」
浩二はそう言って右手に巻いてあった鎖を外しギルに手渡す。
「ん?コレは?」
「『足枷の鎖』と言う魔道具です。これを身体の何処かに巻き付けておけばステータス、スキル効果共に半減します。」
「ふむ、つまり自ら手加減せんでも勝手に力が抑えられるんじゃな?…お主はいつもコレを?」
ギルは足枷の鎖を左手に巻き付けながら問いかける。
「はい。常時二本巻いています。」
そう言って鎖の巻いてある左手を見せる。
「つまり、お主は普段は25%の力で過ごしているんじゃな?」
「はい、そうなります。あと、俺の『諸手の極み』と言うスキルは素手の場合片手につき筋力と頑強が5倍になるので、この鎖を武器と認識させてスキルを発動しない様にしています。」
「……くっ…ガッハッハッ!わざわざ己のスキルを晒すこともあるまいに!」
「はぁ、まぁ、隠しても仕方ありませんし。」
「うむ、気に入った!ならば儂も一つ晒すとするかの。儂の唯一と言っても良いスキルじゃが…『拳聖』と言う。拳に聖と書いて拳聖じゃ。」
浩二の潔さが気に入ったのか、豪快に笑いながら自らのスキルを晒し始めるギル。
「『拳聖』…」
「そうじゃ。このスキルは武器を持たずに攻撃をした時のみ攻撃力が10倍になるんじゃ。」
成程。
ギルさんが『足枷の鎖』を装備した状態で武器を持たずに攻撃すれば攻撃力5倍という事か。
「それに、グローブやこの鎖程度の装備なら武器は持っていないと認識されるようじゃ。」
両拳を胸の前でゴッ!と打ち付けながら確認した様に口にする。
今の浩二は左手に『足枷の鎖』を装備している為、上昇率5倍で半減の呪いを受け実質2.5倍だ。
但し浩二の場合は筋力の他に頑強も上昇する。
しかし、ギルの素のステータスが分からない以上、倍率だけではなんとも言えないが。
「そろそろ始めましょうか。」
「そうじゃの。」
浩二の言葉に頷くもその場から動かないギル。
やがて二人はその場で体を捻り右拳を引いて力を溜め始めた。
距離は既にお互いの手の届く距離だ。
つまり…
「えーと…ソフィアの姉貴…?アレって拳をぶつけ合うつもりじゃないよな…?」
「…残念だけど…そのつもりみたいね…シルビアっ!」
「分かってるわよっ!」
ソフィアに促されるまでも無く既に物理結界の準備を始めていたシルビアは、城と城壁を中心に多重結界を張り始める。
その数20枚。
「今日はガンガン行けるわよっ!」
多重結界を張るという大掛かりでありながら緻密な作業を難なく熟すシルビアの腕には鈍い光を放つ腕輪が装備されていた。
猛と麗子に浩二が渡した魔素急速収集用の腕輪だ。
事前に麗子が「多分私の能力じゃ何の役にも立たないから、コレはシルビアさんが使って下さい。」と言ってシルビアに渡していたのだ。
丁度シルビアが結界を張り終えた頃、両者の溜めは最大値に達し…次の瞬間、まるで隕石でも地上に激突した様な爆音を発して浩二とギルの拳がぶつかり合った。
その衝撃は凄まじく、両者はその場から微動だにしないにも関わらず途轍もない衝撃波が波紋のように訓練所一面に広がる。
遅れて、地響きを伴い辺りが激しく揺れる。
シルビアの張っていた20枚もの多重結界も次から次へと紙でも裂くように破れ、やがて衝撃波は城と城壁に達する。
激しく揺れる城と城壁。
そして、当然の様に周りに集まっていた群衆にもソレは届こうとしていた。
「あっ!ダメっ!!」
衝撃波を両手をクロスさせ耐えていたソフィアが慌てて後ろを振り返る。
これだけの衝撃波だ。
耐えられる人がどれ程居るだろうか…
しかし、ソフィアは失念していた。
自分の後ろには…この世界の監視者が二人も存在している事に。
「大丈夫ですよ、ソフィア。」
「ギルの奴…少々遊び過ぎだ。」
二人の監視者。
『黒龍帝』と『妖精女王』だ。
その場を微動だにせず衝撃波を受け止めただけでは無く、その背後には向こう側が薄らとしか認識出来ない程の結界が張られていた。
基本ほぼ無色の結界をどれだけ重ねればこんな視界になるのか…途方もない枚数な事だけは確かだ。
二人が起こした衝撃波ですら、1枚たりとも破れたりはせず確固たる存在感を放っていた。
完全にオーバーワークだという事以外は規模、強度共に素晴らしい。
そして、結界を維持しながら黒龍帝が口を開く。
「あの二人は少々やり過ぎだ。力尽くで止めてしまえ。」
と、少々悪い笑みでソフィアに告げた。
ソフィアは軽く頷くと振り返り声を上げる。
「シルビアっ!結界維持頼むわよっ!」
「分かってる!何かするのね?」
「お仕置きするのよっ!」
「ふふっ、了解!意地でも周囲には被害を出させないから手加減無しでやっちゃって!」
「頼んだわよ!皆っ!集まって!」
ソフィアの声に気付き集まり出す魔王と人族勇者達。
「今からあの二人を止めるわ。皆手伝って!」
□■□■
確かな手応えを感じたのだろう、二人の口元には笑みが浮かんでいた。
「良い拳じゃ!」
「負けられませんからっ!」
最早周りが見えていない二人は、今度は互いの左拳で第二射を放つ。
そして、再び響く轟音。
半分の力。
この言葉に二人は安心し切っていた。
そして『足枷の鎖』の存在が更にその安心感に拍車をかけた。
自ら手加減をしなくてもこの魔道具が自動的に力を半分にしてくれる…と。
安心して振るった。
普段は絶対に出さない半分の力を。
『最上位種』である二人の半分の力を。
無意識に抑え込んでいた力を遠慮なく振るう。
片や全力で挑む為。
自分のスキルによる上昇率がギルの半分しかない事を考え、力を絞り出すようにして相打ちに持ち込んだ。
片や相手を試す為。
半分とは言え久しぶりに出す己の全力に身を震わせ興奮気味のようだが。
そして結果、互いの力の衝突が城と城壁を震わせる程の衝撃波を生んだ。
被害など出る筈がない。
半分の力しか出していないのだから。
と、勘違いしながら。
読んでいただきありがとうございます。




