『魔法』と『気』
「いらっしゃい。」
浩二が自分の家の様に二人を迎える。
「今日はどうしたの?」
「えーと…ナオちゃんを連れて来た…って言うのは言い訳で…蓮ちゃん…この子がどうしても来たいって…すみません。」
「昨日ぶりです!お兄さん!ヘー…こんな所に住んでるんだ?」
「「住んで(ません!)ねーよ!」」
舞と浩二の息が合う。
もうそろそろ二週間になろうとしているが…決して住んでいる訳じゃない。
「本当に…すみません…。」
「いやいや、新堂さんが悪い訳じゃないし。」
「ナァーーォ」
そんなやり取りをしていると、ナオが舞の腕の中から飛び降り浩二の肩…定位置に飛び乗る。
「お帰り、ナオ。」
「ナァーォ」
浩二は久しぶりの感触に癒されながら、彼女の顎下をコリコリと撫でる。
彼女も嬉しい様で、一声鳴くと気持ち良さそうに目を細める。
「あーーっ!良いなぁ…。ナオちゃん、何故か私には撫でさせてくれないんだ…。」
「ナオって、結構人見知り激しいからね。」
「でも、舞は平気みたいだし。」
「生命の恩人だからね。」
「ズルいなぁ…私、魔法は攻撃しか使えないもんなぁ…。」
余程羨ましいのか、本当に悲しそうだ。
あ、そう言えば魔法の事聞こうとしてたの忘れてた。
「ねぇ、二人にちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
「何ですか?」
「ん?」
「魔法って、どうやって使うの?」
「え?魔法…ですか?ん~…説明が難しいですが…。」
「え?簡単だよ?こう…お腹に力を入れて…ググッて来たら…火の玉よ出ろ出ろっ!って。」
「???」
「蓮ちゃん…岩谷さんが困ってる。」
きっとこの蓮ちゃんって感覚で生きてるんだ、うん。きっとそうだ。
腹に力を入れる以外何も分からん。
「えーとですね…想像するんです。傷口が塞がる所を…と言うか治る所を。」
「想像?」
「はい。でも、やっぱり素質は大事らしくて…スキルって言えばいいのかな?ある程度その人が出来る範囲っていうのがあるみたいです。」
「成程…つまり、スキル欄に魔法の魔の字も無い俺には無理なのかな?」
「どうでしょう?試してみたらどうです?」
「どうしたらいい?」
「まずは…集中して…頭に描くんです…出来るだけハッキリと…。」
舞はそう言って人差し指を立てるとそっと目を閉じて集中し始めた。
すると、指先が淡い光を放つ。
やがてその光は指から離れ、指先10cm程で丸くなり輝き出した。
「これが『ライト』の魔法です。攻撃、回復、補助等の戦闘系で無ければ、魔力を使って簡単な魔法ならこうして使えるらしいです。」
「ライト…ねぇ…良し!やってみる!」
浩二は胡座をかいて人差し指を立てると、目を閉じて想像した。
指の先が光って明るくなる…明るくなる…明るくなる…
「………。」
「………。」
「………ダメみたいだね…。」
うーん…難しい。
漠然とし過ぎてて上手く想像出来ない。
「俺が魔力1なのも関係あるのかな?」
「1!?…あ、すみません…。」
「良いよ。うろ覚えだけど…確か魔力が1だった気がする。1って…やっぱり低いの?」
「えーと、魔力って言うのは簡単に言えば魔法適正なんです。」
「魔法適正?」
「魔法を使ったり、魔法から身を守ったりする為のです。」
「つまり…コレが低いと…魔法を使うどころか、防御さえ儘ならない…と。」
「……そうなります。」
これは困った。
このままでは、いつか魔法を使う勇者に火達磨や氷の彫像にされてしまう。
「んー…参ったねぇ。」
「大丈夫じゃないかなー?」
ずっと浩二と舞のやり取りを不思議そうに見ていた蓮は、実にあっけらかんとしながら言い放った。
「ふむ。一応聞こうじゃないか。何故大丈夫だと思ったの?」
「お兄さんなら、何と無く大丈夫な気がするんだ。剣とか折れるんだし。」
「アレはたまたま……じゃないな…待てよ…」
そう言えば、あの固いと言われる木剣を素手で折って拳に傷も付かなかったっけ。
アレも気の効果なのか…?
「蓮ちゃん、…あ、ごめん名前で呼んじゃって。」
「良いよ、良いよー!呼び捨てで蓮って呼んで!あ、ちなみに苗字は刻阪ね、刻阪蓮。」
「んじゃ、遠慮なく。えーと蓮は魔法使う時に腹に力いれるんだよね?」
「うん。お腹からグググッ!って込み上げてくるから、それを火の玉にするんだ!」
「そうか…やっぱり丹田が関係してるのかな…気を循環…硬くなるイメージ…表面を覆うように…」
「お兄さん…?」
何やらブツブツ言い始めた浩二を見て蓮が首を傾げる。
浩二は頭の中で色々考え、やがて考えが纏まったのかその場に立ち上がる。
「良し!やってみる!」
浩二はその場で立禅をすると、ゆっくりと丹田に力が集まるイメージを固める。
ユラユラと揺れる様に熱い霧の様なものが渦巻く…それをゆっくりと全身に行き渡らせる…ゆっくりでも隅々まで…。
いつもより遥かに疲れるが…何やら身体が暑くなってきた気がする。
「岩谷さんっ!」
「お兄さんっ!」
二人が何やら慌てた様に声を掛けてきたので目を開けてみると、
何やら蒼白い靄のようなものが全身を覆っていた。
「何だこれっ!?」
「え?意識してやったんじゃないんですか?」
「いや、丹田で練った気を全身に行き渡らせるイメージをしただけなんだが…。」
「気…ですか?」
「うん、何か…上手く行きそう…」
そう言って浩二はイメージを固め、靄を薄い膜へと変えていく。
全身が薄青色に淡く光る感じに。
「おおーーっ!お兄さん、格好良いよー!」
その姿を見て蓮がはしゃぐ。
まだ、実験はこれからだ。
強度を確かめないと。
「蓮、悪いんだけど…火炎球撃ってくれないかな?」
「いいの?」
「頼むわ。あんまり長くは続かなそうだしね。」
実際、ジリジリと体力が削れているのが分かる。
「分かったっ!行くよっ!火炎球っ!」
ソフトボール大の火の玉が顔に向かって飛んでくる。
うおっ!容赦ないね蓮は。
すかさず左手を広げ、飛んできた火炎球を受け止める。
「おおっ!あんまり熱くない!」
「ホントっ?」
「あぁ、全くって訳じゃないけど…これなら、手だけに集中すれば剣も素手で行けるかも。」
「やったーっ!やっぱりお兄さんは凄いよ!」
自分の事のように喜んでくれる蓮。
「ありがとうな、蓮。蓮のお陰だよ。」
「へへーっ!」
「舞ちゃんもありがとう、イメージの大切さが分かったよ。」
「…あ、いえ…そんな…あの…」
「ん?…あっ!ごめん!新堂さんまで名前で呼んじゃって!」
「いえ…良いです…その…私も…その…舞…で…」
顔を真っ赤にして俯いてしまう。
でも、呼び捨てが許されました。
「舞、蓮、本当にありがとう!もっと修練してものに出来るまで頑張るよ!」
「頑張ってね!お兄さんっ!」
「頑張って下さいね!」
蓮は元気に、舞は真っ赤になりながらも応援してくれた。
良し!もっと修練だな!
継続は力だからね。
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