『百獣の魔王』
「何だ…アレは…」
見た目は人族だが、中身は絶対に別物だと簡単に理解できる。
行動に制限が掛けられるほどの殺気。
人族という種族から出せるものでは決して無い。
そして、その化け物に気を取られていた彼はルガーを止めることをすっかり失念していた。
「ヤバっ!間に合わんっ!」
その事に気付いて振り返った時には既に剣は振り抜かれていた。
ギィン!という金属音を残して。
そして、綺麗に折れた剣を振り抜いたままのルガーを拳一つで城壁まで吹っ飛ばす猫族のメイド。
妙な気配を感じてはいたが、彼女も普通では無いようだ。
「…ふぅ。」
ルガーが吹っ飛ぶと同時に放たれていた殺気が緩む。
「とりあえず最悪の事態は避けられたな…ったく、あの殺気の中動けるとかある意味大物だよ…あの阿呆。」
そう言って彼はルガーの所へと走って行った。
主に精神的に疲れた身体に鞭を打って。
□■□■
「ナオ、大丈夫だった?…って聞くまでもないわね。」
「うん。痛くも痒くも無かったよ!…服は切れちゃったけど…」
自分の服を見て少し悲しそうな顔をする。
「ソフィアさん、あの獣人は一体誰なんですか?この城では見たことありませんが。」
「あぁ、アレは獣人族の王族よ。第一王子のルガー。多分だけど…魔王会議に来るシュナイダーに無理を言って付いて来たのね。」
舞の質問に若干嫌な顔をして答える。
「そうなんだよ…全く、何度も断ったんだがな…」
不意に背後から声がする。
そこには、気絶したルガーを無造作に担ぎ上げた白い虎の獣人がいた。
「そう、やっぱりそうだったのね。紹介するわ、彼が…」
「ちょっと待ってくれソフィア。先にやらなきゃならない事がある。」
虎の獣人はソフィアの言葉を遮ると、担いでいたルガーをその場に投げ捨てるように放り投げ舞の前に片膝をつく。
「え?…あの…」
「さっきは俺のツレが済まなかった。許して欲しい。」
突然目の前で頭を下げ謝罪する獣人を見て目を白黒させる舞。
「あ、あの、もう大丈夫ですから、頭を上げて下さい。」
「ありがとう。全ての獣人がこんな奴と一緒だとは思わないでくれると嬉しい。」
「はい。それはこの城に居れば分かります。」
「あぁ、そうだったな。次コイツが同じ事をしそうになったら殴ってでも止めるから安心してくれ。」
「あ、はい。」
投げ捨てたルガーの襟首を掴み親指で指差しながらニカッと笑う虎の獣人。
「そんな事したら貴方が大変じゃないの?」
「構わないさ。他人に迷惑をかけるより数万倍マシだ。」
「ふふっ、貴方らしいわ。あ、紹介するわ。彼が『百獣の魔王』シュナイダーよ。」
ソフィアが思い出した様に紹介する。
「シュナイダーだ。ここから遥か西の広い地域に点在する多数の獣人族を束ねている。一応それなりに力はあるつもりだったんだが…今日ちょっとその自信が揺らいだよ。ソフィア…彼がそうなんだな?」
「ええ、彼がコージよ。」
「見た感じ人族の様だが…」
「あぁ、それは…」
浩二は見た目を人族にしている事に気付き『隠蔽』を解除する。
すると、黒かった髪が銀髪に戻る。
見えはしないだろうが、ステータスもエルダードワーフに戻っている。
「成程な、隠蔽のスキルか。」
「はい。スキルのレベル上げも兼ねてずっと変えっぱなしでした。」
「それにしても…さっきの殺気は凄まじかった。あれ程の殺気はそうそう出せるもんじゃない。」
「あー…恥ずかしながら、頭に血が上ってしまって…」
頭をボリボリ掻きながらバツが悪そうに口にする。
「君が好戦的な人物じゃなくて良かったよ。改めて謝罪する。君の仲間を傷付けて済まなかった。」
「あ、いいえ。舞自身が許したのならば俺からは言う事はありません。シュナイダーさんも大変そうですね。」
気絶したまま地面へ転がっているルガーに視線を送りながら苦笑いをする。
「全くだ。王族自体は色々頑張ってくれているから悪くは言えないが、その中でも少数の派閥が未だに人族排他主義でな…運悪くその少数に今の国王も含まれているのが痛い。」
「…まぁ、そればかりはすぐにはどうこう出来ませんからね…」
「あぁ、面倒臭い事この上ないよ。だが、今回の件で君の力を見せ付ければ案外どうにかなるかも知れない。獣人は良くも悪くも実力主義だからな。」
「…そうですか…なら少しでもお役に立てる様頑張ります。」
浩二は軽く拳を握り気合を入れ直す。
そんな浩二を見ながら満足そうに頷くシュナイダーにススッと近寄るソフィア。
そして徐にその脇腹に肘を入れる…割と本気で。
「ぐあっ!ソフィアっ!一体何を…」
「アンタ…この城に何かあったらアンタのせいだからね…」
激痛に耐えながら抗議しようとしたシュナイダーの言葉をソフィアが遮る。
「は?何を…」
「あ~あ…知らないんだ…」
その様子を見ていたシルビアがソフィアに便乗する。
「焚き付けたのはアンタだからね?」
「もう、諦めるしかないね。」
「おい、何の事だよっ!」
事情を知っている二人に挟まれ事情を知らないシュナイダーが狼狽える。
今浩二に火がついた。
然程乗り気では無かった今回の戦い。
その戦いに明確な理由が生まれた。
今回自らの力を知って貰えれば、今後あのような事が起きなくなるかも知れない。
力で押し付ける形になるかも知れないが…
それで自分の大切な人達を守れるのならば…
そこに何の躊躇もない。
「ソフィア、魔王会議はいつだった?」
「明後日よ。」
「そうか…少し訓練しときたいな。ナオ、頼めるか?」
「うん!私は何時でも良いよ!」
「そんじゃ、早速始めるか。」
「りょーかいっ!」
そう言って顔を見合せた途端にその場から消える二人。
「なっ!?」
「兄貴気合入ってんなー。んじゃ、俺達も行くか。」
「そうね。蓮も行くでしょ?」
「とーぜん!」
「…なんだ…やっぱり二人相手かよ。」
「男がグジグジ言わない。」
「そうだー!」
「いや、お前ら二人の相手は正直怖いんだが…容赦ねーし。」
「それじゃ、私達は兵士さん達の所に戻るね。行こう栞ちゃん。」
「うん!あ、猛君、怪我したら言ってね?すぐ回復するから。」
「…怪我するの前提かよ。」
二人が消えた事に驚き固まるシュナイダーを他所に何時もの会話を繰り広げる人族組。
少し異常事態が起きたものの、シュレイド城はどうやら通常営業のようだ。
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