獣人の王族。
蓮の案内で駆け付ける…とは言っても同じ訓練所内の中心付近なんだが、そこには何やらゴテゴテした服を着た狼の様な獣人が喚き散らしながら、舞の前で両手を開き仁王立ちするナオに剣を向けていた。
「貴様っ!獣人のメイドでありながら王族である我に逆らうのかっ!」
「王族か何か知らないけど、舞ちゃんに酷い事するなら許さないからねっ!」
どうやらあの獣人は王族らしい。
そしてナオは獣人のメイドと勘違いされてるみたいだ。
まぁ、耳も尻尾もあるし、メイド服を着てるもんな。
見た目だけじゃナオがマシナリーなんてそうそう気付く筈も無い。
「あの人族の女の子を守ってるのがコージ君の作ったマシナリーか…素晴らしい出来栄えだね。」
あ、この人は別だ。
なんて言っても『魔導の魔王』だしな。
「あぁ、シルビアさん。良く分かりましたね。」
騒ぎを聞き付けやって来たシルビアの言葉に然程驚くこと無く言葉を返す。
彼女の後ろにはミラルダとソフィアもいた。
「ちょっと!コージ!?何落ち着いてるのよ!止めないの!?」
「いや、ナオを相手に剣を持ち出してる段階で話にならないよ。…それに、ナオも怒ってるみたいだしさ…」
「……あ!」
浩二の身体から立ち上り始めた靄を見て気付く。
浩二も怒っているのだと。
でも、舞を守り盾になっているナオの気持ちを察したのだ。
舞を見ると肩を抑え蹲る様にして目の前のナオを見ている。
見た目は大した怪我では無さそうで良かった。
まぁ、
怪我をした事に変わりはないが。
煮えくり返る腸を抑え見守る浩二。
その後で額を抑え首を振る二人。
ソフィアとシルビアだ。
「馬鹿だねぇ…あの…なんて言ったっけ?第一王子の…」
「…ルガーよ。」
「そうそう、そんな名前だった気がする。」
「…貴女覚える気無いでしょ?」
「興味が微塵もないからね。…それにしても、未だに人族排他主義とか頭にカビでも生えてるんじゃないか?…それに…」
「?」
深い溜息をついた後にシルビアがやれやれと口を開く。
「あれだけの殺気を放ってるコージ君に気付きもしないとか…救いようが無いね。一応獣人の端くれだろうに。」
「…とりあえずあまり事を大きくしないでくれると助か…あぁ、無理だったわ。」
切り付けてきた剣を身体で受け止めたナオが王族の土手っ腹に拳を入れ盛大に吹っ飛ばす姿を見て再び額を押さえるソフィア。
隣で、ビシッ!と音がするぐらいのサムズアップをする浩二。
浩二の後ろで見ていた蓮は、事態が収束したのを確認したのか急ぎ舞の元へと駆け寄ってゆく。
向こうから同じく駆け寄る栞と麗子、猛の姿も見える。
「舞ちゃん…大丈夫?」
「うん。ありがとうナオちゃん。」
「麗子ちゃん…ゴメンね…?服…こんなになっちゃった…」
項垂れるように麗子に告げるナオ。
その服は袈裟懸けに綺麗に切り裂かれていた。
「良いわよそんなの。後からまた仕立て直してあげる。」
「ありがとーっ!麗子ちゃん大好きっ!」
「きゃっ!」
パアッ!と笑顔になると麗子に抱き着くナオ。
浩二の場合とは違い一応手加減はしているようで、倒れ込む様な事も無かった。
「ナオ、お疲れっ!」
拳を前に出す浩二に同じくゴツッと拳を合わせニッコリ笑うナオ。
「手を出さないでくれてありがとうね浩二っ!」
「結構ギリギリだったけどな。」
「いやぁ…兄貴が殺気放ち始めた時はヒヤヒヤしたよ…あぁ、アイツ死んだな。って思った。」
「…私もよ。弓でどっちを狙おうか迷ったもの。」
「おい。」
「癒しの舞『桜花』っ!」
ワイワイ騒ぐ横でしっかり舞を終え舞を癒す栞。
「大丈夫?舞ちゃん?」
「ありがとう栞ちゃん。もう何処も痛くないわ。」
「良かったぁ。」
安心して笑顔になる栞の頭を撫でながら浩二は舞に事の始まりを聞くことにした。
「舞、一体何があったんだ?」
□■□■
浩二達がサキュバス領から帰って来る少し前。
シュレイド城にある無数の転移陣の内の一つが輝きを放つ。
やがて光が収まるとそこにはゴテゴテした…良く言えば豪華、悪く言えば成金趣味な服を着た狼の獣人とシンプルな黒の革鎧に身を包んだ白い虎の獣人が佇んでいた。
「おおっ!ここがシュレイド城かっ!」
「そうですルガー様。結構広いんで俺から離れないで……って、もう居ねーし。」
後頭部をグシャグシャと掻きながら溜め息を付く虎の獣人。
「はぁ~…だから王族のお守りなんて嫌だったんだよ…ったく。」
やれやれと首を振りながらルガーの気配を探し走り出した。
□■□■
一緒に来た獣人の言葉に耳も貸さず走り出したルガー。
最初に到着したのは訓練所だった。
「おおっ!結構立派な訓練所ではないか!」
感動した様子で辺りを見回していたルガーは列を成す兵士達を見付ける。
「ん?…あの兵士達は何を…なっ!?」
視線を兵士達の列の先頭へ流した彼は驚きに目を見開く。
この様な場所に居るはずのない人族がいたのだ。
それも、兵士達と親しげに笑い合っているではないか。
次の瞬間には走り出していた。
「貴様っ!人族の分際でこのシュレイド城で何をしているっ!」
□■□■
いつもの様に兵士達を癒していた私は、突然右肩に激しい衝撃を感じ前方へと吹っ飛ばされた。
突然の事で受け身も取れず地面をゴロゴロと転がる。
すると訓練所でも見た事の無い獣人が転がる自分の姿を見てニヤニヤ笑いながら腰にぶら下がっていた剣を徐に抜き放った。
「貴様如き虫ケラがこの栄えあるシュレイド城に足を踏み入れた時点で死罪に値する!即刻首を撥ねてくれるっ!」
そう口にして一歩こちらへと足を踏み出した瞬間、まるで稲妻の如きスピードで自分と獣人の間にナオちゃんが割って入る。
「なっ!?何者だっ!貴様っ!」
「…ナオちゃん。」
「舞ちゃんに何をする気っ!」
さっきまで麗子ちゃん、蓮ちゃん、猛君と一緒に訓練をしていた筈のナオちゃんが助けに来てくれた。
そんなナオちゃんに剣を向けたままマジマジとその姿を見て獣人は吐き捨てる様に言い放つ。
「貴様っ!メイドの分際で我に逆らうのか!」
「アンタこそ何処の誰よっ!」
身分の違いを諭したつもりだったのだろうか、獣人は歯軋りをしながら剣の切っ先をナオちゃんへと向けた。
□■□■
「おいおい…っ!何してんだよあの阿呆は!」
気配を追い訓練所へと辿り着いた虎の獣人は入口から見えた光景に頭を抱える。
「この城での殺しは御法度ってあれ程言ったろーがっ!」
何やら妙な気配のする猫族のメイドに剣を振り上げるルガーの姿を見た虎の獣人は、間に合うかギリギリではあったがその暴挙を止めるべく走り出そうとした。
「っっ!?」
次の瞬間、全身の毛が逆立つ。
心臓を直接鷲掴みする様な猛烈な殺気。
虎の獣人は大量の脂汗を垂らしながら恐る恐る殺気を感じた方向を視線のみで確認すると…そこには…
身体から輝く靄のような物を立ち上らせた一人の人族の姿があった。
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