価値観と対価。
浩二は訓練所の地面を平に均した後、ソフィアの用意した貴金属がある場所へと移動した。
「…えーと…これ全部?」
堆く積み上がった木箱を前に浩二は呟く。
「ええ。これでも少ない位よ。」
アダマンタイトって…意外と凄いんだな…
まぁ、女神様曰く城の隣に城が建つって言ってたし。
それって、人族領の一等地に城が建つって事だもんな…そりゃ高価だわ。
「それじゃ、お願い出来る?」
「あぁ、うん。分かった。取り敢えず一旦人族領に行って運び込む場所とか聞いてくるわ…この量だし。」
「そうね。アダマンタイトの方はいつもの倉庫に運んでおいて貰えるかしら?後から私が精製しとくから。」
「了解したよ。んじゃ、行ってくる。」
浩二はソフィアに手を振ると足元のゲートへと飛び込んだ。
一応城の外に転移した浩二は、城門を通って城へ入ると手近な兵士に話し掛けスミスさんを呼んでもらう。
これは次の為に城の中に転移出来る場所を作って貰った方が良いな。
いきなり訓練所とか玉座の間に転移する訳にもいかないしな。
そんな事を考えていると、先程の兵士がスミスさんを連れて来てくれた。
「よう、コージ。どうした?」
「えーと、ソフィアがアダマンタイトの対価を用意したんですが、運び込む場所を指定して貰いたくて。玉座の間とか訓練所に運び込むわけにはいかないですよね?」
「だな。それじゃ、付いてきてくれ。」
スミスは浩二を連れて途中王女と合流し、城の中にある倉庫のような場所へと案内する。
「ここに頼むわ。」
広めの地下倉庫には既にアダマンタイトが運び込まれており、この場で取引が出来るようにしてあった。
「分かりました。それじゃ、すぐに持って来ますね。」
浩二がそう言ってゲートに飛び込んで数分後、横向きに開いたゲートから浩二が次々と木箱を運び込む。
「…あの…岩谷さん…?」
「あぁ、あと少しで終わりますから。」
「いえ…あの…」
浩二がゲートを通り最後の木箱を運び込んだ時点で王女とスミスは高々と積み上がった木箱を見上げ唖然としていた。
「よし、これで最後ですね。王女様、これが内訳です。」
浩二は一枚の紙を王女へと手渡す。
それを見た王女と、覗き込んだスミスが目を見開き絶句する。
ミスリル、鉄、金、銀、銅、錫のインゴットがそれぞれトン単位。
更にルビー、サファイア、ダイアモンド等の宝石類がジャラジャラと皮袋に無造作に詰め込まれていた。
「あの岩谷さん…?コレは…何かの間違いでは…?」
やっとの事で声を絞り出す様に浩二に問いかける王女。
「いいえ、これは全てソフィア自身が用意したものですから、多分間違いでは無いですよ。」
「幾ら何でも…対価が多過ぎます!」
「ソフィアは逆に要求する対価が少な過ぎるって言ってましたよ。彼女はあれでも「鍛冶の魔王」です。鉱石や貴金属に関してはスペシャリストですから。」
「しかし!前回の事であれ程お世話になってしまったのに…!」
やっぱりその事で対価に色を付けたんだな。
「ソフィアは言ってましたよ。「取引は物に見合った対価を支払うべきよ」って。ですから、ソフィアには今回の対価はこの量が正当な量だと思ったんでしょうね。」
「…ですが…」
「それに、前回の事は前回の事。あの件は既に終わりました。今回の取引とは別件ですよね?」
「………」
「俺もソフィアももう気にしていません。王女様はこれから大変なんですから、気持ちは切り替えた方が良いですよ?」
「リリィ…ここは甘えとこうぜ?多分向こうは引かないだろうしな。」
俯いたままの王女の肩へスミスが手を置き浩二の方を見ると、浩二は静かに頷く。
「……本当に…すみません…」
「王女様…一つお願いがあります。」
「はい?何でしょう…?」
浩二はコホンとわざとらしく咳払いをすると真っ直ぐに王女を見て口を開いた。
「俺は王女様の笑顔を見た事がありません。お願いです、俯かないで笑って下さい。もっと前を向いて下さい。」
「…岩谷さん…」
浩二は前から思っていた事を口にした。
始めて見た時から王女はずっと沈んだ顔で俯いていた。
いつも何処か悲しそうに…辛そうに。
やはり女性は笑っていた方が良い。
「せっかくお綺麗なんですから…その…勿体無いです。」
「…え?…その…あの…」
言っていて恥ずかしくなってきた浩二は照れ臭そうに頬をポリポリと掻く。
王女は王女で頬を赤らめ更に俯いてしまう。
「何だよこれ…甘酸っペーな、おい。」
「あぁ、いえ、そんなつもりじゃ無くてですね!」
「ん?なら綺麗ってのは嘘か?」
「いえ、間違いなく綺麗です。」
「だろ?俺もそう思うぜ?」
二人の視線が王女に注がれる。
視線に気付いた王女は両手で真っ赤になった顔を覆い後ろを向く。
「…もう!馬鹿ですね…二人とも…!」
振り向いた王女の顔は真っ赤ではあったが…浩二が初めて見る笑顔だった。
□■□■
「それでは、ソフィアさんによろしくお伝え下さい。」
「分かりました。あ!」
浩二はアダマンタイトをシュレイド城の倉庫へと運び終え、去り際にあの事を思い出した。
「次に転移して来る時、城外からだと不便なので何処か都合の良い場所ありませんか?」
「あぁ、確かにいきなりゲートが開いたら色々不味いよな。」
「それでは…あの離塔なんてどうでしょう?」
一番最初に浩二が人族の城に転移して来たあの離塔だ。
「良いんですか?」
「ええ、その内ちゃんとした部屋を用意しますので、それまではあの離塔で我慢して頂けますか?」
「いえいえ、あそこで充分です!ありがとうございます。」
これで取り敢えず人族の城へと転移しやすくなったな。
浩二は満足すると二人に手を振りゲートへと消えていった。
帰り際に「また来ます!」と言葉を残して。
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