土魔法訓練。
あれから二日程して浩二は再び人族領へと来ていた。
要件は二つ。
一つは王女様からアダマンタイトの対価となる貴金属の量と種類の書かれた書類を受け取る事。
そして、もう一つは…
「…と、言う訳でお願い出来ないだろうか?」
両手を合わせてお願いする浩二の目の前には一人の勇者の姿があった。
「あの…頭を上げて下さい…土魔法を見せるのは構いませんから。」
頭を下げられどうしていいか分からずアタフタする勇者。
彼女は浩二が土魔法を返したうちの1人だ。
浩二は自分のスキルの中に魔法系スキルである四属性魔法の内『土魔法』だけが無い事に気付き、こうして勇者に頭を下げ『土魔法』を見習いさせて貰いに来ていたのだ。
たまたま訓練所にいた彼女に走り寄りこうしてお願いしている訳だが…
いきなりの事に戸惑っていた彼女も、浩二に地下牢から助けられた上スキルまで返して貰えたことに感謝している様で、快く応じてくれた。
こうして浩二は『土魔法(見習い)』を手に入れると、王女様から書類を受け取りシュレイド城へと戻った。
「随分と…遠慮しているみたいね…」
浩二から渡された書類を見ながらソフィアが口にする。
「そうなのか?」
「ええ、買い取るアダマンタイトの量に対して対価が少な過ぎるわ…少なくともこの倍はする筈よ。」
鉱石や貴金属の価値を知らない浩二には今一ピンと来ないが鉱石のスペシャリストであるソフィアが言うのだからそうなのだろう。
「で?どうする?」
「こんなの受け入れられないわ。なんの遠慮をしているのか知らないけど、こういう取引は物に見合った対価を支払うべきよ。」
「少なくてラッキー…って訳にはいかないよな…その辺は俺も同意だ。」
「…そうね…少し色を付けて支払いましょう。今から用意するわ。コージ、申し訳無いけど後から人族領まで運んでアダマンタイトを受け取って来て貰える?」
「分かったよ。まだ少しかかるだろ?俺はやりたい事があるから用意が済んだら訓練所まで呼びに来てくれるか?」
「訓練所ね?分かったわ。」
浩二はそう言って訓練所へ向かう。
理由は簡単、『土魔法(見習い)』のレベル上げだ。
□■□■
「それじゃ、やりますか。」
軽くストレッチをした後、訓練所のド真ん中に立った浩二は丹田に意識を集中する。
そして、両足に純白の気の鎧を纏わせる。
と次の瞬間、物凄い勢いで迫り上がって行く浩二の足元。
大体直径1m位だろうか、円柱状に伸びた地面は浩二を乗せたままどんどん空へと運んで行く。
「あっ!ヤバっ!」
慌てて急停止する地面。
「……大丈夫……だよ…な?」
そして、浩二の目の前にはキラキラと光るシュレイド城の結界があった。
まさかこんなにスピードが出るとは思わなかった浩二は結界ギリギリで冷や汗をかく。
「あっぶねぇー…危うくソフィアに殴られる所だった…」
「間違っても城の結界に触れないでよね!」と口を酸っぱくして言われていた浩二は円柱の上で安堵の息を漏らす。
そのまま今度はゆっくりと円柱が縮んて行き再び訓練所の地面へと一体化する。
「これは別の訓練方法探さなきゃな…」
腕を組み、ウンウンと唸る事数分。
何かを思い付いたのかその場でしゃがみ込み右手の掌を地面へと付ける。
すると、目の前に縦横1m厚さ30cm程の土壁が地面から迫り上がる。
そして、今度は直径30cm位の円錐が地面から伸びて行き出来上がった土壁目掛け襲いかかる。
円錐は土壁を貫通すると土壁諸共崩れ去り、訓練所の土へと還った。
「うん。こんなもんだな。…後は互いの強度を上げていこう。」
浩二は地面に掌を付けたまま呟くと、次々と壁を作っては壊す事を繰り返し続けた。
□■□■
「コージ、ちょと遅くなったわ…って…何をしてるの…?」
浩二が訓練を始めて二時間程経った頃、アダマンタイトの対価の用意に手古摺っていたソフィアが訓練所を訪れ…呆れた様な声を上げる。
そこには、物凄いスピードで土壁を作っては円錐で貫き壊す浩二の姿があった。
それ自体は大した事では無いのだが…
その数が普通ではなかった。
浩二は女神様の「コージ君、『土魔法(見習い)』がレベルMAXになったよ。」と言う声を聞いても訓練を止めなかった。
実際『土魔法(見習い)』がレベルMAXになったのは訓練を始めて一時間くらいで、その時点でソフィアの姿が見えなかった為何ならそのまま『土魔法』のレベル上げをしてしまおう…と言う浩二ならではのドMっぷりが発揮されたせいだ。
ドMの理由はそれだけでは無い。
『土魔法』を使う負荷を上げるためどんどん硬くしていった土壁と円錐。
その硬度は既に鋼鉄を超え、アダマンタイトに届こうとしていた。
更に見習いを終え10%の制約が外れた時点でその数を20倍…つまり、同時に二十箇所で土壁と円錐を作り出したのだ…尚も硬度を上げ続けながら。
普通ならばとうにマインドアウトしていてもおかしくない状況にも関わらず、浩二は涼しい顔でドMな訓練を続けていた。
「あぁ、ソフィア。準備は終わったんだ?」
最後の土壁がギィン!!と土から鳴る筈の無い音を立てて崩れると立ち上がりソフィアに歩み寄る浩二。
額を押さえて首を振るソフィアの前に。
「…前も言ったけど…もう少し大人しく訓練出来ないのかしら…?」
「ん?そんなに五月蝿かった?」
「違うわよ!音じゃなくて…いや音もだけど!規模の話よっ!」
夢中で気付かなかった様だが…良く見ると…兵士達が唖然とした顔でこちらを見ている。
「少しは周りを気にしなさい!」
「…すみません…」
「全く…ほら、皆に謝る!」
浩二はキビキビした動きで後ろを振り向くと
「お騒がせしてすみませんでしたっ!!」
と、綺麗な角度で頭を下げた。
その姿を見た兵士達は笑いながら浩二に手を振り自分達の訓練を始める。
最上位種の威厳など欠片も見当たらない。
しかし、そんな浩二の存在をシュレイド城の兵士達は親しみを持って受け止めている。
そして、後ろで見ていたソフィアもそれに釣られるように笑顔を浮かべていた。
あけましておめでとうございます。
今年も頑張って1日おき更新続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。




