戦闘狂。
「どうしてもですか?」
「出来るならだが…な。」
なんだろう…食い付きが異常にも思える。
「理由を聞いても良いですか?」
「んー…まぁ、良いか。あんまり面白い話でも無いんだが…それでも聞くか?」
「出来るなら。」
分かったよ。そう言ってスミスは牢の前にドカッと腰を下ろす。
浩二も鉄格子をはさんで向かい合う様に胡座をかいて座る。
「アレは俺がまだ兵隊長だった頃の話でな。」
スミスは思い出すように話し始めた。
今から数十年前、この国と魔族領との国境付近で小さなイザコザが絶えなかったそうだ。
今でも前程ではないがそう言ったイザコザはあるそうで、一進一退の攻防…とは成らず、一方的に人族が敗走しているらしい。
そして、驚くべき事に仕掛けているのは人族のようだった。
魔族はあくまで防衛するだけで、決して人族の領土を支配や占領などはしなかったそうだ。
「魔族は強いぞ?多分本気で攻められたら、数カ月と持たずにこの国は墜ちる。」
とスミスは断言した。
今まで十数年かけて攻め続けているが、最高でも魔族領の五分の一も攻め込めていないという。
しかも、ものの半月で押し戻され振り出しに戻されたそうだ。
多数の犠牲を出したにも関わらず…だ。
更に痛い事に、この魔族領はあくまで魔族の国からすれば辺境の小国…所か街に近いものらしい。
両側を山脈に囲まれ、その麓に築かれた天然の城塞都市。
守る側にしてみれば、これ程心強いものは無い。
逆に攻めるとなれば…言わずもがなである。
「無駄戦してるなぁ…。」
浩二の率直な感想にスミスは苦笑いを浮かべつつも頷く。
「ムキになる意味も分からんから、一度だけ聞いてみたんだ。」
「誰にです?」
「国王に。」
「なっ!?国王!?」
声が裏返る。
聞くって、いきなりトップかよ。
「なんて答えたと思う?」
「さ、さぁ?」
一国のトップの話など想像もつかな……国王って…
「まさか国王って今のあの国王ですか?」
「……おう。」
嫌な予感がする。
あの魔族って種族に対する反応…何か、人族は世界を統べるべきなのじゃ…とか言いそうだ。
「人族が世界を統べるべきなのじゃ!…だとよ。」
「ぶはっ!」
まんまだった。
頭が痛い…よくこの国保ってるな…。
「よくもまぁ…支配欲ここに極まれりって奴ですね…。」
「全くだ。世界全体にしてみれば、人族の国なんざ豆粒程の地域しか無い。運良く海、山、肥沃な土地があったからここまで来れただけなのにな。」
「スミスさんは反対なんですか?侵略。」
「もちろんだ。疲弊するだけでメリットが全く無い。」
「仲良く出来ないんですかね…魔族と。」
「そうだ、その話が今回の話と繋がる。」
危なく世間話に発展しそうな所をスミスが軌道修正する。
「数年前、最前線からの退却命令が出た時に俺は殿の隊にいたんだよ。」
「スミスさん、最前線まで行ってたんですね。」
「おう。でだ、追撃隊を退けながら撤退してたんだが、旗色が悪くてな…百数十いた兵が数十人位まで減っていた。」
「それはまた…。」
「ひでぇだろ?まぁ、その頑張りもあって俺の隊以外はみんな無事退却出来たんだが。」
「俺の隊?」
「あぁ、隊長副隊長共に戦死してな、繰り上がりで俺が隊長やってた。」
スミスさんはどうやら見た目だけじゃなく本当に強いみたいだ。
じゃ無きゃ、繰り上がりとはいえ殿の隊で隊長なんて出来るはずがない。
「そろそろ限界だと思っていた頃、一騎駆けで一人の魔族が現れたんだ。隊長はどいつだって。素直に出たよ、俺だって言ってな。」
「うわぁ…何か一騎打ち始まりそうな雰囲気ですね?」
「おっ!分かるか!」
「何で目をキラキラさせてんですか!」
スミスは少年のように輝いた目をして食いつく。
「どうせこっちは全滅寸前。ならばとこっちから提案した。一騎打ちしてくれと、勝ったら見逃してくれと。」
「わざわざ自分から…。」
「勝てるかも知れないって思ったんだよ。何せ相手は鎧も武器も持たずに現れたんだからな。まぁ、いざ向き合って後悔したがな。」
「え?」
「威圧感が半端なかったんだよ。殺気とでも言おうか…そんな感じの強者の雰囲気がプンプンしてた。寸前まで全くそんな素振り無かった癖にな。」
「まさか…」
「そうだ。そいつが使ったのが浩二の使う技に良く似た突きだったんだよ。」
「………。」
「結果はコレだ。」
そう言って右腕の付け根をポンポンと叩く。
そこに腕は無い。
「全力だったよ。全力の袈裟斬りに突っ込んで来やがった。相手の右肩に剣の根元が喰い込んだ時点でヤバイと思って剣から手を離して腹をガードしたんだが…次の瞬間には右腕が無かった。」
「咄嗟に腹をガードしたのは正解でしたね。じゃ無きゃきっと身体が二つになってたと思います。」
「腹にもかなりダメージ受けたんだがな。部下がクソ高いポーションぶっかけてくれたお陰で死なずに済んだ。」
一撃でそれなら、多分師匠と同等かそれ以上かも。
「でも、別な何か違う攻撃かも知れないじゃないですか。」
「多分…多分同じだ。攻撃前の立ち姿がコージのアレと一緒だった。もしかしたら違うかもしれないが…だからこそ試してみたかったんだよ。」
「再戦するんですか?」
何となくそんな気がした。
「よく分かったな。あの魔族は右肩に俺の剣を刺したまま俺に向かって「いやぁ!驚いたぞ!まさか俺の拳が当たる前に剣が届くとはな!」って言った後、「気に入った!右腕が治った暁には再び相見えようぞ!」とか言って大声で笑いながら凄くいい笑顔で帰って行ったよ。」
「武人だなぁ。」
「あぁ、あれ程の武人には出会った事がない。戦争なんてして無けりゃいくらでも手合わせ出来たのにな。」
「手合わせって…右腕がそんなになってもまだですか?」
「無いならない成りの戦い方が有るんだよ。」
「全く…。」
戦闘狂だ。多分相手の魔族さんも。
きっと少しでも対抗策が欲しいんだろうな。
仕方ないな全く。
「一発だけですよ?ちゃんと何かでガードして下さいよ?」
「ん?おう!分かった!ちょっと待っててくれ!」
又もや少年のように瞳をキラキラさせて詰所に走って行った。
そして少しした後、腹に何枚も布をグルグル巻にしたスミスが現れた。
吐いた。
「うぐぇ…っ!」とか言って。
気絶しないだけマシだが。
当然全力じゃない。カウンターでも無いしね。
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