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ゼロフェイス・第二話 美しい夏ニッポン

 一九三九年。九月一日。

 第三帝国とソ連によるポーランド侵攻により、第二次世界大戦が勃発する。


 一九四一年。一二月八日。

 大日本帝国による真珠湾攻撃が開始。日本も第二次世界大戦に参戦する。


 一九四三年。九月八日。

 イタリア王国、降伏。


 一九四四年。八月一日。

 マリアナ沖海戦の敗北から一か月後。本土大空襲を受けた大日本帝国は、一人の超常能力者からの進言もあり、照和天皇はこれ以上の連合国との戦争の続行は危険であると判断し、アメリカ合衆国との和平交渉の後に大日本帝国、降伏。

 以後、連合国軍として、最後に残った枢軸国であるナチス・ドイツと戦う。余談ながらこの後、日本人という言葉は、世界的に裏切り者の代名詞として長く残ることになる。


 一九四五年。七月一五日。

 人類史上にその名を永遠に刻むことになる狂気的な独裁者であったアドルフ・ヒトラーの自殺を持って、最後の枢軸国であった大ドイツ国は連合各国に対する無条件降伏を受諾し、滅亡する。


 そして、これをもって、この世界史上最大の殺し合いは、終結した。



 ☆★☆★☆




 一九五〇年。七月十五日


 第二次世界大戦の終了から丁度五年が経った。


 大日本帝国は名実ともに、アジアの盟主となっていた。 

 ナチス・ドイツに対する裏切りを手土産に、アメリカと同盟を結んだ見返りは大きかったらしく、今では欧米諸国、共産主義国家と並ぶ第三世界として急成長していた。

 北アジアの国々や東南アジアの島々に出向いていた日本兵は続々と日本本土へと帰参しており、壮絶な殺し合いがあったのが嘘であったかのように、にこやかに商売に精を出している。

 あれだけ鬼畜米英を叫んでいた新聞各社やラジオの国営放送は、こぞってアメリカ製の電化製品や自動車を褒めまくり、イギリス王室の使うブランドを皇族が使ったとか言うどうでもいいことで雑誌が売れまくっている。

 あれだけ敵対視していた贅沢は、今では素晴らしい味方となってくれたようで、東京の空には今では普通にアメリカ製の旅客機が飛び回り、デパートには夏のお中元を販促するための宣伝広告の垂れ幕がぶら下り、景気のいい謳い文句と共に高価なハムを売り出していた。


 色々な意味で、平和になったという事なのだろう。


 そんな平和な日本の、愛知の片田舎で、幾つかの本と実験器具に囲まれた狭い研究室の中で、一人の青年が籠っていた。三白眼の鋭い目つきと、薄い唇に引き締まった頰と細い顎をした瘦せぎすながらもスラリとした背の高い男、清宮・一二三は、何やら得体のしれない物質が溶け煮え滾った鍋釜を掻きまわしていると、その溶液をお玉から一掬いすると耐熱ガラスでできた注射器の中に入れ、別の大きめのビーカーの中に垂らしていた。


「……失敗だ」


 一二三が垂らした謎の溶液は、ビーカーの底で液状になって広がり、冷えるにしたがって、白っぽい塊となってビーカーの底にへばりついた。


「何度やっても、繊維の形にならない。無理矢理冷え固めたらボロボロと千切れるし、これ以上細くするとそもそも注射器の中から出て来ない。やっぱり、新種の蚕か何かを作る方が早いのかな?」


 顔中に大きな汗の粒をかきながら一二三は独り言ちると、大きなレンズの嵌った丸い黒縁眼鏡を外して、首にかけた手拭の端で顔を拭ったが、汗まみれの顔を拭くと、汗を吸ったシャツとベージュ色のスラックスがことさらに鬱陶しく感じてしまい、熱さからくるイラつきでやや乱暴に服を脱ぐと、褌一丁になって椅子に腰かけた。


 季節は、八月。

 雲一つなく突き抜けたように青い空から地上を照らす太陽は、空気を焦がす光線を容赦なく大地に向かって叩き付け、湿り気を帯びた空気は温い熱風となって、周囲を通り過ぎる。

 実家の物置を改装しただけの狭い研究室の中には、開け放った窓から温い熱風が滑り込み、気休めとばかりに軒下に下がる風鈴だけを揺らしていくばかりで、涼を得るのに何の足しにもならない。

 そんな気を失いそうになる状況で鍋釜に火をかけてかき回すなど、地獄の苦行に他ならず、今この場に居るだけで気を失いそうになってしまう。

 こうして、褌一丁の殆ど全裸の姿になっても、ちっとも涼を得た覚えを感じないのは、きっと期の性ではないのだろう。

 

 一二三は、思い通りにいかない研究の有様と、夏の暑さの両方に苛立ち、頭を乱暴に掻き毟ると、手ぬぐいを椅子の背もたれに引っかけて眼鏡をかけ直し、水差しの中から最早ぬるま湯と化した水をコップに注ぎ、一気に飲み干すと、首筋に掛かった手拭で顔を拭き、一先ずは服を着ようと、イスから立ち上がった。


 するとその時、

 

「ひっふみー!!!私が来たわよー!!!ってか、此処本当に、熱っい……わ、…………ね」


 ノックも何も前兆が無く、いきなり一二三のいる研究室のドアが大きな音を立てて開き、短く切り揃えた茶髪をした美女が入り込み、そのまま入り口前で固まってしまった。


「キャー!変態ー!」

「何でえ!」


 そしてそのまま、部屋に立ち尽くす一二三をぶん殴り、一二三は悲鳴を上げて後ろに倒れた。


 ♦♠♣♥


「んんんーーーーさいっこうー!やっぱり、東京で流行っているお菓子っていいわねー!頬っぺたおっこちちちゃいそう!どこかの誰かさんが、露出狂の変態じゃなければね!」


 清水・色葉は、未だに少しだけ赤く染まったままの頬を膨らませながら、向かいに座る一二三をじっとりと睨みつけて、たっぷりの氷が入ったアイスティーを啜った。

 そんな色葉を見て、一二三は溜息を吐いた。

 別に見せびらかすつもりもない裸を見られたのはこちらだというのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう

 先程研究室に何の前触れもなく現れたのは、一二三の幼馴染である清水・色葉。

 歳は一二三の一歳年下の二十五歳。日本人にしては珍しい生まれながらの茶髪に、小動物を思わせる様な大きな瞳をした童顔の美女で、艶のある唇の形がやけに色気のある女だ。

 身長自体は年齢の平均を越えている筈なのだが、体の発育はあまりよく無く、そこに童顔の愛らしい顔立ちが加わって、どうにも年齢詐称のイメージがぬぐえない。


 彼女の家と一二三の家とは、この町の古くから続く神社とそれを守護する武士の家系と言う、それこそ先祖代々から続く腐れ縁で、一二三は、それこそ生まれた時から彼女にはいろいろと振り回されていた記憶しかない。

 まさか、御先祖様も三百年も因縁の続く相手に、慰謝料と称して、喫茶店でケーキを奢る間柄になるとは思いもしなかっただろう。

 一二三は、自分の見えざる運命に対して溜息を吐きながら心の中で独り言ちると、目の前に置かれているこの店で一番安い珈琲を啜った。


「はあ、どちらかというと、被害に遭ったのは僕の方だろう?それなのに、わざわざ昼飯を奢らされた挙句、紅茶だのケーキだのまで食わせてやってるんだ。いい加減、愛想位は直してもいいだろう?」


「うっさいわね!私が受けた精神的苦痛を考えれば、これくらいは当然の償いでしょう!むしろ、私の様な美女を相手にデートさせているのだから、必要経費だけで許しているこの状況を感謝しなさい!」


「無茶苦茶な事を言うな。それと、わざわざ無い胸を張り出そうとするなよ?必死過ぎて、恥ずかしぞボロロロおおおおおおお―――!」


「ブッコロスワヨ、アンタ?」


「…………あい、ういあえんえいあ」


「ま、今日の所はこの程度で済ませてあげる。それと、小豆屋のあんみつ奢りなさい。それで、今日の所はチャラにしてあげるわ」


 色葉の的確に横隔膜を撃ち抜く右ストレートを直撃して、母音しか発せなくなった一二三は、ほとんど呻き声に等しい声で謝罪の言葉を呟いたが、その言葉に色葉は鷹揚に鼻を鳴らして見せると、喫茶店のテーブルに突っ伏す一二三に向かって、無慈悲に追い打ちをかけるのであった。

 戦時中に陸軍で鬼軍曹と呼ばれた指導教官に受けた制裁でも、此処まで酷い一撃を貰ったことは無かったが、それを今この場で言うほど、一二三は空気の読めない男ではない。


「……と言うか、姫巫女様なら、わざわざボクに集らなくても好きな物を食い放題だろう?ボクをパシラセる必要あるのか?」


 一二三は、通り一帯を貸し切られた駅前の風景を見て、溜息を吐いた。

 そこには、田舎とは言え夏休み前の忙しい時期の駅前の大通りとは思えないほどに人気のいない街の風景が広がっており、それもこれも全部、目の前の幼馴染が国を動かしてまで無理矢理に貸し切り状態にしたからだ。

 それを思い、一二三はやや皮肉気に述べたのだが、その言葉を聞いた色葉の変化は劇的だった。


「そんなんじゃない!」


 一二三の何気ない不満の言葉に対して、色葉はまるでいじめられた幼子の様な声で、必死な形相で一二三に噛みついた。


「私は、そんなわけ分かんない凄い人じゃない!アンタまで言わんといてよ!」


「……ごめん。悪かった。流石に言いすぎたよ」


 先ほどまでの、どこかじゃれつく様に拗ねて見せたのとは違い、少しだけ目尻に涙を浮かべて怒り出した色葉の姿に、一二三は、軽く頭を掻きながら悪いことを言ったと、反省する。

 色葉が、超能力者としての力、予知能力によって起こるはずであった未来の惨事を防いでから、既に十余年が立つ。

 一番新しいものでは、先の第二次世界大戦の勃発と、日本の敗戦、そして滅亡を予知した結果、帝国政府に囚われるも、そこから逆に日本の勝ち筋を見たことで、照和天皇への謁見と進言を許され、日本を亡国の危機から救ったことは、記憶に新しい。

 その後も、直近の未来を幾つか言い当てた彼女の進言により、戦前にあれだけ停滞し、戦争によって壊滅的にダメージを受けていた経済は急激な成長を始め、今では大日本帝国は第三世界と謳われるほどの政治的経済的な影響を誇るようになった。

 今のこの日本の豊かさは、彼女の能力によってもたらされたと言っても過言ではない程だ。

 そんな彼女は、いつしか『姫巫女』と呼ばれて、大日本帝国が誇る世界最大の超能力保有者となっているほどである。

 今現在も尚、政府関係者や各種研究機関を始め、様々な勢力、組織、国家が、彼女の能力によって未来を読み取ろうと必死になっているほどだ。


 そんな彼女が、幼馴染とは言え、木っ端学者の卵でしかない一二三と一緒になって、幾ら貸し切り状態にしたとは言え、こうして普通の喫茶店で食事を楽しむなんてことは、本来はあり得ないことでしかないのだ。


 恐らくは、大都会の東京から離れて、こうして普通の話をするだけの為に数少ない休日を使っているのだろ。そうして、その休日を取る事だけでも、相当な我儘だったはずだ。


 それを思えば、先ほどの一二三の言葉は悪意が無いとはいえ、否。悪意が無いからこそ、心無いにも程がある。

 目の前のふくれっ面を見て、一二三は気まずそうに頭を掻くと、その場をごまかす様に軽く咳をして言う。


「あ~、その、何だ。埋め合わせは必ずするよ。だから、機嫌を直し」

「本当に!」


 すると、一二三の科白を聞いた途端に色葉は食い気味に返事を返し、席から立ち上がって一二三の顔を覗き込んだ。


「っじゃあ!八月十日に私の家に来なさいよ!あ、勿論東京の家にね。その日も仕事なんだけど、何とか無理言って半ドンにしてもらったの!だから、その日には私の東京の家に招待するから、そこで私と一緒に遊びなさい!」


 喜色満面な笑みを浮かべてそう誘いをかけて来るその顔は、まるで子供の頃の様に天真爛漫で、その笑顔を見ているだけで、一二三も溜息混じりに子供の頃の様に二つ返事で頷きそうになる。


 だが。


「無理だ」


 一二三は、純真無垢に喜ぶ色葉の顔が凍り付くのにも構わず、にべもない答えを返した。

 ああ、そう言えば、子供の頃も彼女の誘いを断ると、こういう顔をされたなあ。と、どことなく場違いなことを考えながらも、一二三の口はまるで自分のものではない様に勝手に動いて、続きの科白を口に出す。 

「その日は、イヤ、その日もか。ボクは顔を出せない。研究がある。だから、埋め合わせって、言ってもそうだな……。欲しい物か、食べたい物が有ったら言ってくれ。一応、ボクが出せる限りの」


「研究、研究って、何よ!ほとんどごく潰しみたいな状況で、よくそんなことが言えるわね!一日二日くらいの遅れでどうにかなるような研究を、アンタみたいな貧乏学者がこなしている訳ないじゃない!」


 一二三の謝罪は、辛辣な罵倒と共に遮られた。

 だが、感情的に発された色葉の言葉だったが、言っていることは正しかった。

 元々、繊維の研究は一二三が好きでやっている事。いうなれば趣味だ。

 戦争の混乱で入学や卒業に至るまでの過程に多少の混乱があったとはいえ、この春漸く大学を卒業し、大学院に上がっただけの一二三の研究など、田舎青年の絵空事に等しく、だれも見向きもしない物だ。

 別に企業に勤めている訳でも無ければ、極秘の研究に身を投じている訳でもない。

 一日二日ほど時間を取られること等、どうという事もないはずである。

 そんな事は知っている。誰よりも一二三自身が一番よく知っている。


 だが。


 その上で一二三は言う。


「繊維の研究は、ボクにとっては、人生を生きる事の意味全てだ。……この研究を辞めてしまえば、ボクに生きる価値など無い。自殺でもするか、薬中にでもなって人間を辞めるしかない」


 その瞬間、一二三の左頬にひりつくように熱い衝撃が走り、やがてそれがじんじんとした痛みに変わった。

 正面を見れば、そこにはいつの間にか立ち上がった色葉が、肩を怒らせながら右手を握りしめる姿があり、その姿を見て、色葉に頬をひっぱたかれたのだと悟るのに、数瞬の時を擁し、理解したのと同時に、色葉から涙で震えた聲がかけられた。


「…………バカなことを言わないでよ……バカなこと言わないでよ!あの戦争で、私が、私がどれだけアンタを心配したと思ってんの!一体、どれだけアンタのことを想っていたと思ってんの……?それなのに、なんでそんな事を言うの?別に、良いじゃない……普通に生きてるだけで……。平和で、平凡な毎日を送るだけで良いじゃない…………。アンタだって、それで幸せになるじゃない……」

 

 それは、異様な姿だった。

 涙を押し殺した悲痛な声を上げて、ただ切々と訴えて来る色葉の姿は、いつもの、自信と元気の塊で、常に溌溂とした笑みを浮かべる色葉の様子からは遠くかけ離れたもので、痛ましさする感じる程であった。


 だが、一二三はそんな色葉の声を聴いても、無感動に色葉の瞳を見返すと、ただ静かに息を吐いて、無表情に言い返す。


「いいや。そんなことは無い。僕には、繊維の研究をする以外に、生きている意味など無い……。もしもそれ以外のことにうつつを抜かすことが有れば、それは僕という人間が死んだ時だけだ」


「…………いい加減にしてよ。いい加減にしてよ!」


 無機質なガラス玉のような瞳で機械の様に言い返す一二三の様子に、色葉はまるで泣き喚く寸前の子供の様に表情を浮かべて、怒鳴り声を上げた。

 先の大戦で、確かに一二三は激戦地で生き残るほどの戦いを繰り広げた。

 けれども、あの戦争では待つことだって命がけだった。色葉自身、何度も死にかけ、殺されかけ、歴史ある実家の神社は空襲によって焼き払われ、両親を亡くした。知人や友人だって、二度と会えなくなった者もいる。

 そんな死と隣り合わせの日常の中で、それでも強く生きられたのは、一重に一二三の帰りを待ち続けたからだ。

 戦争の中で待つ三年間は決して短くはなかったし、そこからの五年間も又、短くはなかった。

 

 そんなどうしようもない思いをぶつけるように一二三を怒鳴りつける色葉だったが、それでも当の一二三は、無感動に色葉の瞳を見返して来るだけだった。


「私が、あの戦争で能力を使ったのわね、ただアンタが!」


「姫巫女様、そろそろ飛行機のお時間が迫っております。申し訳ありませんが、そろそろこの辺りで……」


 一二三の態度に苛立って、更なる罵倒を口に仕掛けた色葉を止めたのは、スーツ姿の体格のいい男だった。

 色葉はその姿を見て、一瞬、睨みつける様な険しい視線をやったが、すぐにしょげ返る様にその視線を落とすと、乱暴に席の近くに置いていた鞄を手にとって、その場を立ち去った。


「もういい!とにかく、埋め合わせだけはしてもらうから!それだけは覚悟しない!」


 大股で駅前の喫茶店から去りゆく色葉の後ろ姿を眺めながら、一二三は軽く頭を掻くと、先ほど色葉に時間を立ち去った体格のいい男が音もなく近づいてきて、会釈した。


「それでは、清宮様。今日の所はこの辺りで失礼させていただきます。あと、出来れば、姫巫女様とお会いになられる時間は、手短に終わらせるようにお願いします。また、お手を煩わせるような言動も慎みください。姫巫女様の行動は、貴方様の様に決してご自由なものではございませんので」


「……ええ、分ってますよ。自分が分不相応な身分であることは。じゃあ、もう帰ります。えっと、お代は何処で支払えばいいですかね?一応、色葉の奴に奢らないといけないんですけど?」


「いえ、代金ならば既に国の方から支給されております。みすみす余裕のない方から金銭を巻き上げる様なことはしませんよ。どうぞ。あなたはそのまま立ち去られて頂いて、結構です」


「……そうですか。それじゃあ、色葉に誕生日プレゼントは必ず用意しておくとお伝えください。ついでに、品物についてはあまり期待するなよ、とも」


「分かりました。伝えておきましょう」


 いやに仰々しくイヤミを織り込む護衛の言葉を聞きながら一二三は立ち上がると、一度取り出した財布を再び懐の中にしまって、家路を歩き出した。

 どうやら駅前の封鎖は解除されたらしく、一斉に街の喧騒が蘇り、通りの向こうからは人の群れが波のように押し寄せて来た。

 一二三は、人ごみの波を逆行しながら、何となくまだ赤い手形のついた頬を押さえた。

 頬に走った衝撃は、痛いというより、熱く痺れるような気がした。

 その部分に手を触れると、その衝撃が戻って来るような感じがした。 


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