後妻の想い
私は、幸せになりたかった。幸せが欲しかった。
私は、後妻になった女。娘に嫌われて殺された女。
誰かが私に言ったのだ。呪われていると、赦されないと。
全てに拒絶されていた、私を救ったのはある夫婦だった。
その夫婦は、明るく、まるで太陽のようだった。暗闇に埋もれていた私にふと差した光だった。
二人は、黒いフードに隠れていた私の姿を見ても笑って迎え入れてくれた。
この、忌み嫌われる黒の髪を持つ私の姿を。
そんな私が作った物も食べてくれた。贈り物も貰ってくれた。逆に贈り物をくれたりした。
ある日、夫婦の妻が亡くなった。原因は流行り病にかかったことだった。
夫の方は見ていて痛々しくなるぐらい荒れた。愛娘にも手をあげていた。
そんな彼をただ見ているなんて出来なかった。
ただ、それだけだったのに、彼は私を後妻にすると言った。
最初は、ただ戸惑った。私に彼女の代わりは出来ないと言った。
しかし、彼はそれでも良いと、私だからだと言ってくれた。
私は嬉しかったのだろう。浮かれたのだろう。
だから、娘の気持ちを考えなかった。それは、私が現実を考えたくなかったのと同じだったのだと今なら言える。
彼は、すごく尽くしてくれた。娘はその様子をただ冷たい目で見ていた。
私に尽くす彼は、娘への態度を軟化させていた。しかし、彼女はまるで相手にせずに、ただ、まるで彼が見えないように振る舞っていた。
それが暫く続いた。村の人達は、私を忌み嫌った。
弱った心に入り込んだ悪女だと、黒い髪の魔女だと。
それを聞いた娘は、まるでそれが事実だというような態度をとりはじめた。
村の人もそれが事実だと思いはじめた。私はやはり呪われていて、赦されないと思った。
そんなときだ、娘が忽然と消えたのは‥‥‥
村の人は私が犯人だと噂した。それはやがて事実のようになった。
彼さえ、疑いの目で見てくる。
消えてから三日後、娘は現れた。
ただ、狂ったように嗤いながら。
綺麗だった黄金の髪は、燃えるような赫い髪にかわり果てて。
綺麗だった蒼い目はぎらぎらと光る琥珀色になり。
そして、娘の手には輝く刃物が握られていた。
それは、あっという間に終わった。
その刃物に操られるように周りにいたものすべてを斬りつけた。
娘の事を心配していた老婆も、若者も、子供さえ。
ああ、神よ。赦したまえ。彼女は悪くないのです。
悪いのは、すべてこの忌みの黒を持つ私だけです。
彼女が魔に呑み込まれたのも、その原因を作ったのも、私です。
だからどうか、娘を赦したまえ。
▼▽▼▽▼▽▼▽
それを眺めていたのは、紅い髪をたなびかせ面白そうに瞳を光らせた男だった。
彼は、口をゆっくりと開いた。まるで、碧い髪を持つ奴に聴かせるように。
「彼女は、清らかな心を持っていた。偽ったのは娘だ。だから、狂った。ははは、ヒトとは面白いなぁ~ さあ、彼はどんな反応をしたのかがとても楽しみだよ♪ 」
紅い髪を指に絡ませながら、とても楽しそうに言った。
それは、輝く空間に吸い込まれていった。




