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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
フォーリンエンジェル〜天使と悪魔の聖譚曲〜
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第八十六話 傲慢の魔神

「・・・は?」


突然やって来て、珍しく真剣な表情でリリスさんがある事(・・・・)を言った。


「もう一度言うからよく聞きなさい。ワールハッドという街に魔神が現れたわ。そして、その街にはシオンちゃんが居る」

「い、いやいや、シオンは迷宮に行ってるはずですし。それに何でそんな事が分かるんですか」

魔神が(・・・)そう言ったからよ」


おいおい、訳が分からないぞ。


「会議中に魔法で語りかけてきてね。どうやらシオンちゃんを人質にしてるらしいわ」

「なんで、だよ」


なんでシオンが人質になってんだ。


「落ち着いて、ジーク君。まだ魔神は誰にも手を出してない。だから───」

「ふざけやがってッ!!!」


俺の怒りに呼応するかのように、魔力が全身から溢れ出た。


「ジーク、落ち着くんた!」

「無事なのは分かったんだから」


エステリーナとレヴィに二人がかりで押さえられ、俺は拳を握りしめた。


「くっ、悪い」

「それで、ギルド長。敵の目的は?」

「《住民達を、風魔法使いを助けたければ、急いで来るがいい・・・ジークフリード1人(・・・・・・・・・)でな》」


・・・なるほどな。


「上等だよ、魔神ッ・・・!!」


何が目的なのかは知らねえが、それにシオンを巻き込むってんなら、容赦はしない。


「リリスさん、ワールハッドってどこにあるんですか」

「安心なさい、今回は私が連れて行ってあげる」


そう言うと、リリスさんは魔法を唱えた。すると床に魔法陣が浮かび上がる。


「これは・・・」

「転移魔法よ。ジーク君、準備はいいわね?」

「はい、ありがとうございます」


礼を言い、俺は魔法陣の上に立った。


「ジーク、気をつけてね」


レヴィが心配そうな表情でそう言ってくる。


「役に立てなくて申し訳ないが、シオンを頼むぞ」

「ご主人様、どうかご無事で」


共に行けないことが悔しいのか、エステリーナとシルフィの表情は少し暗い。


「ああ、任せとけ」


そして、俺の身体はその場から消えた。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「・・・っ、ここは」


ワールハッドにたどり着くまでは一瞬だった。

気がつけば、先程まで居た自宅ではなく、見知らぬ街の前に立っていたのだ。


「ここが、ワールハッドか」


まだ昼間だというのに、とても静かだ。まるで街に誰も居ないかのような・・・。


「とにかく、行ってみるとしよう」


この中に、魔神とシオンがいるはず。必ず助け出さないと。




そして、俺が街に足を踏み入れた瞬間、突然空が暗くなった。


「なっ!?」


よく見れは空には月まで浮かんでいる。これはどういうことだ?


『来たか、ジークフリード』

「っ・・・」


その声は、俺の正面にある教会の上から聞こえた。顔を上げれば建物の上に何者かが立っているのが見える。


「お前が魔神か」

『そうだ、待っていたぞ』


不気味に声を響かせる・・・黒騎士?

どうやらあの魔神は全身を黒い鎧で覆っているようだ。


「シオンはどこだ」

『案ずるな、殺してはいない』

「どこだっつってんだよ」

『ふん、教会の中だ』


それを聞き、俺は教会の中に駆け込んだ。


「っ、シオン!!」


シオンは床に寝かされていた。見たところ怪我もしていないようだが。


「ぅ・・・ジーク、さん?」

「シオン、大丈夫か!?」


俺はシオンのもとに駆け寄り、彼女の上体を起こしてやった。


「大丈夫・・・です」

「そうか、よかった」


ほっと胸をなでおろす。本当に無事でよかった。


「ここは・・・」

「ワールハッドって街の教会だ」

「ジークさんは、どうしてここに・・・?」

「それは───」

『さて、再会は済んだようだな』


不気味な声が響く。振り返ると、黒騎士が剣を手に持って教会入口前に立っていた。


「てめえ、何が目的だ?」

『クク、分からないか?』

「ああ、さっぱり分からん。・・・けどな」


俺は全身に魔力を纏った。


「てめえは俺の仲間に手を出した。つまり敵だ」

『なるほど』


対する黒騎士も全身から殺気を放つ。


『目的・・・、それは貴様を抹殺することだ』

「あ?」

『貴様は必ず我が計画の邪魔になる。今のうちに殺しておこうと思ってな』

「計画・・・だと?」


また王都に攻め込んだりするつもりか?


「その為にシオンを巻き込んだってのかよ」

『ああ、そうだ』

「なら、手加減はしないぞ。男だろうが女だろうがなぁ!!」


腕に魔力を集中させ、俺は黒騎士に全力で殴りかかった。


『来るがいい、ジークフリード───』

「消し飛びやがれぇ!!」


黒騎士を殴った衝撃で、教会の壁が吹き飛ぶ。


「っ!?」


しかし、俺の目の前に殴ったはずの黒騎士はいなかった。避けられてはいないはずだが・・・。


「なるほど、それが噂の破壊力か」

「てめえ・・・」


黒騎士は浮かんでいた。その背から漆黒の翼(・・・・)を生やして。


「だ、堕天使・・・」


俺のもとに駆け寄ってきたシオンがそう呟く。


「知ってるのか?」

「罪を犯して天界から追放された、堕ちた天使・・・と伝えられています」

「堕ちた天使・・・」


この世界には天界なんてもんもあるのかよ。


「ってか、お前・・・」

「まさか鎧を破壊されるとは思わなかったが」

「女・・・なのか?」


身にまとっていた鎧と兜は衝撃で砕け散ったようだ。それにより魔神の正体が顕になった。


月明かりに照らされた魔神は、銀色の髪を肩ほどで切りそろえ、翼を羽ばたかせる女だった。


「さて、そろそろ始めようか」

「っ・・・」


魔神のもとに魔力が集まり始める。

なんだよこれ、これまで戦ってきた魔神達とケタが違うぞ。


「ああ、自己紹介がまだだったな」


まるでこの空間が揺れているかのように、辺りが振動する。そんな中、空中に浮かぶ魔神は剣を掲げた。


「我が名はルシフェル。《傲慢スペルビア》を司る、絶界の十二魔神の一人だ」


そして────


「ひれ伏すがいい、《傲慢なる神帝の威光(ジェノサイドフルゴル)》!!!」


次の瞬間、尋常ではない重圧が俺とシオンを襲った。


「ぐっ!?」

「きゃあっ!?」


俺はなんとか踏ん張ったが、シオンは膝をついた。顔を上げればこちらを見下ろしながら口角を吊り上げているルシフェルと目が合う。


「何を・・・しやがった」

「我が禁忌魔法、《傲慢なる神帝の威光(ジェノサイドフルゴル)》。絶対なる王の前に、愚民共がひれ伏すのは当然のことだろう?」

「くっ・・・」


効果はよく分からないが、これはまずい。


「そして・・・」


その時、魔神が剣を振りかぶる。


「っ、ジークさん、避けて・・・!!」

「え─────」


それを見たシオンがそう叫ぶが、もう遅かった。


「─────あ?」


何かドロドロする液体が飛んできた。そして肩から感じる違和感。


「っ・・・!?」


ドロドロする液体は、俺の肩から噴き出していた。

それの正体は、大量の血。


「ジークさんっ!!」

「ぐっ・・・!!」


あまりの激痛に顔を歪め、俺は肩を押さえた。あいつ、一体何をしやがった・・・!!


「この魔法を発動している間、私が放つ攻撃は敵の耐久を無視してダメージを与える」


まじかよ。じゃあアイツ相手に俺の無駄に高い耐久は何の意味も無いってことか。


「・・・反撃ぐらいしてきたらどうだ?」

「てめえ、舐めんじゃねえ!!」


俺は地面を蹴り、ルシフェルに飛びかかった。しかし、放たれた数発の斬撃が俺の身体を切り刻む。


「ッ─────」


激痛がはしる。この世界に来てこれ程までの痛みを味わったのは初めてだ。


「がはっ!!」


そのまま墜落した俺は、地面に激突して無様に転がった。

くっそ、激痛と重圧のせいでうまく動けねえ。


「呆気ないものだな。大罪を司る魔神を4人も破った人間も所詮この程度か」

「くっ・・・」


強過ぎるだろ、こいつ。けど、シオンだけは何がなんでも守らなきゃならない。


「・・・動けないのなら、これも止められないか?」

「あ?」


ルシフェルが剣を振るう。それにより放たれた斬撃は、次々と民家を破壊した。


「な、やめろ!!」

「この街の住民達は私の魔法で眠らせているが・・・ククッ、抵抗も出来ずに死ぬことになるとは思っていなかっただろうな」

「てめえ!!」


動け、動けよ俺・・・!!この状況で動かなかったら、どれだけの死者がでると思ってやがる!!


「さあ、動かなければお前は大切なものを失うことになるぞ」

「っ!!」


ルシフェルは、シオンを見つめていた。まさかこいつ・・・。


「ぬあああああ!!!」

「じ、ジークさん・・・駄目です!!」


俺は無理やり身体を起こし、シオンの前に立った。


「ククッ、それでいい」

「ジークさん、逃げてくださいっ!!」

「絶対、守ってみせる・・・」

「滅びるがいい、ジークフリード!!」


そして、ルシフェルが放った斬撃は、俺の身体を深々と切り裂いた。視界が真っ赤に染まる。


「う・・・ぐ・・・」


そのまま俺は地面に倒れ込んだ。駄目だ、これは死ぬかもしれない。


「ジークさん!!」


悪い、シオン。もう身体が動かねえ・・・。


「さて、止めを刺すとしよう」


どうすりゃいい。

最悪俺はどうなってもいいが、シオンだけは、何としても・・・。


「さらばだ、ジークフリード─────ぐぅっ!?」


死ぬ。

そう思った時、突然ルシフェルは胸を押さえた。


「ぐっ、ククク、小娘・・が・・・まだ抵抗するか・・・!!」


苦しそうにそう言うルシフェル。何があったんだ?


「ジークッ!!」

「っ、レヴィ・・・?」


突然レヴィの声が聞こえた。それと同時にルシフェルが勢いよく吹っ飛ぶ。


「だ、大丈夫!?」

「おー、なんとか」


視界はぼんやりしているが、どうやらレヴィが駆けつけてくれたようだ。


「チッ、この状況でレヴィアタンまで・・・。いいだろう、今回は見逃してやる」

「待ちなよ、逃がすと思ってんの!?」


そう言うレヴィからは尋常ではない魔力が溢れ出していた。こいつ、完全にキレてやがる。また禁忌魔法ぶっ放すつもりじゃないだろうな。


「ククッ、覚えておくがいい、レヴィアタン。この抵抗・・さえ無ければ、貴様等簡単に殺せるということを」

「っ、タイダルウェイブ!!」


ルシフェルが転移魔法を唱えた。それを見たレヴィが魔法を放つも、それが届く前にルシフェルは俺達の前から姿を消した。


「くっ、逃げられた・・・!!」


悔しそうなレヴィの声が聞こえるが、意識を保てなくなってきた。


「ジークさんっ!!」


駆け寄ってきたシオンが俺に何かを言ってるけど、うまく聞き取れない。


傲慢の魔神ルシフェル・・・。

小娘・・・抵抗・・・、あの言葉の意味は一体────

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