第八十五話 思惑
「で、なんでお前がここにいる」
「貴様がレヴィ様に手を出していないか確かめに来たのだ」
「出してねえから失せろ」
「失せるのは貴様のほうだ」
「ここ俺ん家だからね?」
次の日、何故かリビングに変態吸血鬼のキュラーがいた。案の定レヴィが理由で。
「てか聞いたぞ変態。お前アスモデウス様一筋〜とかレヴィの前で言ったんだってなぁ」
「っ、違う、あれは操られていたからだ!!」
「ふーん、お前のレヴィへの愛はその程度だったってことだな」
「う、うるさいぞこのゴミが!!」
「んだと幼女愛好会会長さんよぉ!!」
「うるさいぞ二人共」
変態と言い合っていたら、エステリーナとシルフィが二階から下りてきた。
「いや、なんかこいつが不法侵入してたから」
「こいつがレヴィ様に手を出していたから」
「ジーク、詳しく話を聞かせてもらおう」
「なんでまず俺なんだよ!出してねえよ!」
確かに毎日気が付けばベッドに潜り込んでくるけど、別に変な事はしていない。
「お前こそなんかズボン湿ってない?あれ、なんかしてきたの?」
「濡れてないわ!!」
「あ、そうか。アスモデウス様一筋だから────」
「殺すぞ貴様ァ!!」
「おはよ・・・」
そんな時、レヴィが起きてきた。
「・・・なんでいるの?」
「そ、それは、レヴィ様の安全を・・・」
「噛み付こうとしてきたくせに」
「あ、あれは、その・・・」
俺の背後から少しだけ顔を覗かせ、レヴィはキュラーを見つめる。
「へー、噛み付こうとしたんだ。流石だな、変態」
「ぬ、ぐぐぐ・・・」
操られていたとはいえ、主人に手を出しかけたキュラーはついに何も言えなくなってしまった・・・と思ったら。
「────ほんっとうに、申し訳ございませんでしたぁぁ!!」
ドゴォン!!
突然のフライング土下座発動。その衝撃で床にヒビが入る。
「ちょ、ヒビ入ってんじゃねえか!!」
「関係あるか!!レヴィ様に許してもらうためなら、私は何だってする!!」
「外でやれ、外で!!」
凄まじく綺麗な土下座をしているキュラーだが、エステリーナ達は引いていた。
「ぷっ、あははは!もー、冗談だよ冗談。別に怒ってないってば」
「れ、レヴィ様・・・?」
「反応が面白いからからかってただけー」
「レヴィ様!!」
うわ、泣き出したよこの変態吸血鬼。
「貴女のような主人に仕えることが出来て、私は幸せです・・・!!」
「うん、分かったから泣くのはやめて」
あのレヴィが引いている。それほどまでにこの変態の泣き顔はキモい。
「あれ、そういえばジーク。シオンはどこに行ったんだ?」
そんな中、エステリーナが俺にそう聞いてきた。
「昨日危険度Cの迷宮にいたフロアボスをシオンだけで倒したんだ。だから今日は1人で簡単な迷宮に挑んでみるんだと」
「ふむ、なるほど」
「あああ、でも心配だ。怪我とかしてないかな、迷ったりしてないかな」
「過保護か」
でも確かに、シオンなら1人で大丈夫か。危険度Cの迷宮だし。でも魔神とかも出てきてるしなぁ。
「まあ、気持ちは分からんでもないけどな。とりあえず私達は依頼でも受けて帰りを待とう」
「おう」
最近あんまりギルドで依頼を受けたりしてなかったし、丁度いいか。
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「《破壊嵐》!!」
放たれた上位風魔法が迷宮の最奥で吹き荒れる。そして雑魚魔物達を巻き込みながら、フロアボスを壁に叩きつけた。
「やった・・・!」
シオンは、1人でフロアボスを倒せたことに喜びを感じ、思わず笑顔になった。
「私だって、戦えるんだ」
古代都市の事件で自分は何も出来なかった。しかし、レベルは順調に上昇している。
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~シオン・セレナーデ~
★ステータス★
レベル:35
生命:450
体力:280
筋力:220
耐久:240
魔力:684
魔攻:600
魔防:470
器用:400
敏捷:230
精神:220
幸運:200
★固有スキル★
・ハデスの魔眼
3秒間目を合わせた者を上位石化させる。
・風魔攻上昇
風魔法によるダメージを増加させる。
・魔法上昇
魔力、魔攻、魔防が上昇する。
★装備★
魔導士のローブ強
革の靴強
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これなら、自分だって活躍出来るはず。
そう思いながら、シオンは地上に戻るために振り返る。
「っ!?」
その時、尋常ならざる気配を感じ、彼女は立ち止まって辺りを見渡した。
「い、いまのは・・・」
完全に、自分に向けられていた『殺気』。汗が全身から滲み出てくる。
「誰か・・・いるんですか?」
『なるほど、風魔法使いか』
「っ!!」
顔を上げれば、少し離れた場所にある岩の上に、全身を黒い鎧で覆った何者かが立っていた。
「黒い・・・騎士?誰ですか、あなたは」
『教えるつもりは無い。少し質問させてもらうぞ、人間』
そう言うと、黒騎士は剣を抜く。
「っ・・・」
『案ずるな、質問に答えるのなら殺しはしない』
「質問?」
『まず、お前はジークフリードの仲間だな?』
「え────」
突然彼の名が出たことにシオンは驚いた。
『どっちだ?』
「そう、ですけど・・・」
『次、ジークフリードは今どこにいる?』
それを聞き、シオンは魔力を纏って戦闘体勢に入る。
『・・・何のつもりだ?』
「あなたは、魔神ですね。ジークさんに何の用ですか」
『質問に答えろ』
「《山崩しの暴風》!!」
黒騎士の言葉を無視してシオンは魔法を放った。
『やれやれ』
しかし、黒騎士が軽く剣を振っただけで魔法は弾け飛んだ。
「なっ・・・」
『質問に答えろと言ったんだが─────』
「っ!?」
一瞬。
シオンが瞬きをした直後、魔剣の切っ先が喉元に突き付けられていた。
「あ、ぅ・・・」
『死にたいのか?』
死の恐怖がシオンを襲う。身体はガタガタと震え、嫌な汗が流れ落ちる。
「な、なんで、ジークさんのことを調べようとしているんですか」
しかし、それでもシオンは黒騎士に聞いた。
『決まっているだろう?この手で葬るためだ』
「っ!!」
仮面で顔は見えないが、きっと笑っているのだろうとシオンは思った。一体何故、何が目的で。
「ま、まさか、ガンダラで住民達を殺したのは・・・」
『ガンダラ?ああ、あの港町か。あれだけの事をしたのだから、ジークフリードが姿を現すかと思ったんだが』
「ジークさんをおびき出すために、あんな事を・・・?」
『そうだ』
それが当たり前かのように、黒騎士は即答した。
『・・・ふっ、いいことを思いついた』
「え────」
突然黒騎士が何かを唱えた。
それと同時にシオンは意識を失い、地面に倒れ込む。
『いずれ邪魔になるのなら、今のうちに消しておかなければなぁ、ジークフリード』
そして黒騎士はシオンを抱え、転移魔法を発動する。
『魔神と人間、どっちが上か思い知らせてやろう』




