第八十二話 女神との再会
「あああ、情けないですわ・・・」
「まあまあ、元気出せよ」
アスモデウスが飛び去ってから、俺は一階に降りたのだが、何故かシャロンが机に突っ伏していた。
理由を聞けば、エステリーナを元に戻そうと頑張っていたら自分までアスモデウスの魔法にやられてしまったことを、実はかなり気にしているとのことだ。
「それに比べてジークフリード様は流石ですわ。無事今回の事件を解決してしまったんですもの」
「まあ、俺一人のおかげじゃないんだけど」
「そうそう、ボクも頑張ったんだからね」
「魔法で街ぶっ壊そうとしてたけどな」
「き、気のせいだよ」
俺の膝の上に座るレヴィが俺から目を逸らす。明らかに禁忌魔法ぶっ放とうとしてたけどな。
そんなことを思っていた時、玄関の扉が開き、見知った奴らが中に入ってきた。
「・・・ジーク」
「お、アカリ達か」
「いやぁ、何か変な魔法にかかっちゃって、ついジークに襲い掛かっちゃったよ」
「ガハハハ、悪かったな兄ちゃん」
「おう、別に気にしてないぞ」
あの魔法はアカリ達のレベルじゃはね返せないだろうし。
「・・・でも、まさかジークがあんなコトしてくるとは思わなかった」
「ガシャン」
アカリがそう言った瞬間、台所で洗い物をしているシオンが皿を落とした。
「・・・あれが、愛のぷれい」
「おい待て、訳のわからんことを言うな」
「あれは僕もどうかと思ったよ、ジーク」
「ドサッ」
クラウンがそう言ったのを聞き、本を運んでいたシルフィがその本を落とす。
「確かに、俺も急に兄ちゃんがあんな事するもんだから、つい剣で斬りかかっちまった」
エステリーナも話の内容が気になるようで、チラチラ見てくる。
「・・・ジークは、変態」
「うんうん、そうだねぇ」
「なあ、地面に埋められるか海に沈められるかどっちがいい?」
「ごめんなさい、調子に乗りました」
真顔でそう言ったら、クラウンとガルムが土下座してきた。アカリは相変わらず無表情のまま手を合わせ、ごめんと伝えてくる。
「な、なんだ、冗談ですか」
それを見たシオンが再び皿洗いを始めた。シルフィもほっと息を吐いて本運びを再開する。
その時、
「あれ、そういえばミスコンってどうなったの?」
「・・・あ」
レヴィのその一言で、全員が動きを止めた。
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「今年のミスコンは中止・・・だって!」
「そんな・・・」
「中止・・・」
ミスコンの会場に行くと、そんな貼り紙が貼ってあった。
まあ、あんな事があった後だしなぁ。
「でも、ジークとあんなことやこんなこと、出来なくなっちゃったね」
「何のために、恥を捨ててまで猫の真似を・・・」
「ご主人様以外にご主人様と言ったのに・・・」
シオンとシルフィがずーんと凹んでしまった。
「ま、まあ、祭りの方はまだ終わってないんだから、気を落とすな」
「エステリーナさんはただ鎧着ただけですもんね・・・」
「いつも通りの感じでしたもんね・・・」
「え、いや、そんなことは」
なんか2人が怖いことになってる。あのエステリーナが俺にアイコンタクトで助けを求めてきてるぞ。
「ボクもせっかく水着・・・だっけ?あんなの着たのにね、ジーク」
「あれはエロかった」
みんな可愛かったんだけどな。
「・・・やっぱり、ジークは変態」
「男は誰だってそういうもんだ」
「え、僕はそういうもんじゃないけど」
「俺もだ」
「エステリーナのこと必死でナンパしてたやつが何言ってんの?」
まじで埋めようかな、こいつら。
「とりあえず、明日も楽しもー!」
「ほんと元気だな」
そしてはしゃぐレヴィを連れて、俺達は家へと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・ん?」
なんだここは・・・いや、見覚えがあるな。
「時空の狭間か」
白と黒が混じりあったよく分からない場所。ここは、俺が日本で死んだ時に訪れた場所だ。
「アルテリアス、いるんだろ?」
誰も居ない場所に向かってそう言ってみる。すると、彼女は現れた。
「はい。お久しぶりです、ジークフリードさん」
以前あった時よりも短くなった銀色の髪をもつ、有り得ないぐらいの美女、アルテリアス。
地球がある空間とフォルティーナのある空間の狭間にある、特殊な空間を管理しているという女神だ。
「俺はさっきあったかい布団の中で眠りについたはずなんだが、お前が俺を呼んだのか?」
「d('∀'*)」
「えっ!?脳内に何か絵文字が・・・!?」
流石は女神、すごいことをしてきた。
「で、何の用だよ」
「暇だったから呼んだだけです」
「はぁー?」
それだけの理由で眠りを妨げられるとは。
「・・・でも、本当はこんなこと絶対に出来ないんです」
「何が」
「貴方をここに呼ぶということです」
「どういうことだ?」
「私が皆既日食で混乱するフォルティーナを照らしたのは今から500年前のことなんですけど」
「その話ほんとだったんかい!」
どうやらフォルティーナに伝わる月女神伝説は、本当にあったことのようだ。
「その時は、たまたま時空の流れが歪んでいて、この狭間とフォルティーナが繋がったので、私は少しの間だけフォルティーナに降り立つことが出来たのです」
「んん?」
「まあ、これは人には理解出来ることではありませんよ。しかし、それ以降時空の流れが歪むことはありませんでした」
「それが今回歪みが発生したって?500年も経ったんだし、またそれが発生してもおかしくないんじゃ・・・」
「はい、一度ならおかしいとは思わなかったでしょう」
・・・どういうことだ?なんかあんまり理解出来ねえ。
「時空の流れが歪む、それによって空間と空間が少しの時間とはいえ、繋がるんです。それが最近、何度も発生しているんですよ」
「ん?」
「それも、この時空の狭間を崩壊させて、フォルティーナと地球が直接繋がり合っているのです。歪みが酷ければ、二つの空間が混ざり合い、崩壊する可能性もあります」
アルテリアスが言ったことは、衝撃的なことだった。
空間崩壊の可能性がある歪みが何度も発生してるだって?
「てか、フォルティーナの地球が繋がるって・・・」
「少し前、地球から何かがフォルティーナに渡っています。それも、街規模の何かです」
「街規模・・・」
それって、古代都市のことだろうか。
「何者かが、人為的に歪みを発生させ、二つの空間を繋げていると私は考えています」
「なっ・・・」
「一体どんな魔法を使っているのかは分かりませんが、恐らく犯人はフォルティーナの人間、又は魔族です」
「まじかよ」
何が目的でそんなことを・・・?
「今回貴方を呼んだのは、それを伝えたかったというのもありました。この歪みが元に戻ればまたいつ会えるか分からないもので」
「そうか」
「そろそろ貴方をフォルティーナに帰します。オリンピックを見なければならないので」
「あっ、そうか。あっちの世界じゃ今頃オリンピックか・・・ってそれまでの暇潰しでもあったんだなおい。ったく、ついてないぜ」
「ええ、今年は盛り上がりそうですよ。それでは、また会いましょう、ジークフリードさん」
「え、ちょ、急だな─────」
まるで、深い海の中に落ちていくかのような感覚が俺を襲う。そして俺は意識を手放した。
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「時空の歪み・・・」
ジークが居なくなり、女神アルテリアスはぐにゃぐにゃと歪む狭間を見つめた。
「一体、何が起ころうとしているのですか・・・?」
誰も居ない場所に向かって、彼女は一人呟いた。
─────to be continued




