第八十一話 揺れる感情
「ぅ・・・ん」
「お、目が覚めたか」
「ここは・・・」
戦いが終わり、俺とレヴィは城に集結していた人達にもう魔神を倒したと伝え、アスモデウスを自宅に運んで寝かせていた。
「ほんとに寝かせてたのね・・・」
「なんで嘘だと思った」
「人間の言うことなんて信用出来ないもの」
目を覚ましたアスモデウスが唇を尖らせてそう言う。
生意気だけど、普通に可愛いんだよなぁ。
「お人好しなのは結構だけど、いつか痛い目みるんじゃない?」
「誰かを助けて痛い目みるってのは、別に構わないけどな」
「・・・馬っ鹿じゃないの」
「はは、そうかもな・・・んん?」
「なによ」
「なんか顔赤いぞお前。どうした?」
「はっ!?な、何でもないわよ!!」
そう言って布団で顔を隠すアスモデウス。俺、変なことでも言ったか?
「ジーク、連れてきたよ〜」
「ん、おう、サンキュー」
レヴィが部屋に入ってきた。その後ろにはシオン、エステリーナ、シルフィ、それにシャロンがいる。
「っ・・・」
アスモデウスはまだ布団で顔を隠したままだ。
「ほら、みんな来たから、ちゃんと謝罪しなさい」
「ジークさんが母親のように・・・」
「なんとも珍しい光景だな」
とりあえず布団を引っぺがした。
「あ、ちょ・・・」
「ほら、迷惑かけてごめんなさいは?」
「うっ、なんであたしが・・・」
なかなか謝ろうとしないアスモデウスを見て、シオン達はきょとんとしている。
「謝らないと、お姫様抱っこ・・・」
「もうっ、わかったわよ!!」
そんなに俺にお姫様抱っこされるのが嫌なのか、アスモデウスはガバッと上体を起こし、シオン達に顔を向けた。
「今日は、皆様にご迷惑をおかけしてどうもすみませんでした!!」
「ぷっ、アスモデウスが頭下げてる」
「むぐっ、黙りなさいレヴィアタン・・・」
そんなアスモデウスを見て、シオン達は微笑んだ。
「まあ、私はそこまで気にしていないが」
「厄介ごとには巻き込まれ慣れているので」
「え・・・」
エステリーナとシオンがそう言う。
「私も特に気にしていないのですが、ご主人様にあんな事をしてしまったという記憶を消してほしいです・・・うぅ」
「エステリーナ・ロンドと久々に剣を交えることが出来たので、わたくしは少しだけ感謝しておりますわ」
シルフィとシャロンも別に気にしてないみたいだ。そんな彼女達を見てアスモデウスがため息を吐いた。
「やれやれ、この子達はあんたの影響をモロに受けてるみたいね」
「俺の?」
「しょうがないから許されてあげる」
「あれぇ、顔赤くなーい?」
「う、うっさいわね!!」
そんなアスモデウスとレヴィのやり取りを見て、シオン達は軽く吹き出したのだった。
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「・・・いつまでいるのよ」
「ん?ここ俺の部屋だし」
「は?これあんたが寝てるベッドなわけ?」
「うむ」
「ふ、布団も?」
「うむ」
「さ、先に言いなさいよ!」
顔を真っ赤にして勢いよくベッドから飛び出すアスモデウス。そんなに俺の布団汚かったのか?
(ふ、布団に唇押し当てちゃったじゃない・・・)
「なあ」
「ひゃい!?」
「別に、世の中悪い人ばかりいるわけじゃないんだ。シオン達みたいに優しい子達もいっぱいいるし」
「・・・急になによ」
「魔族も悪いヤツばっかじゃないしな。レヴィみたいなアホとか、そのアホの部下の変態とか、いろんなやつがいるし。だからその、なんだ」
「・・・?」
「仲良くしようぜ」
そう言って手を差し出すと、急にアスモデウスは俺に背を向けた。
(あーもう、ほんと何なのよこいつ!)
「どうした?」
「な、何でもないわよっ!」
・・・何か耳赤くないか?まさか、笑ってるのか?俺が言った台詞はそんなに面白いものだったというのか!?
(どうしよう、なんでこんなにドキドキするの・・・?ほんと、わけわかんない)
異世界でお笑い芸人を目指すってのもありか・・・?俺はくだらない台詞を言うだけで相手を笑かせることが出来るのか?
そんなことを考えていた時、あの人は現れた。
「ふふふ、随分仲良くなったのね」
「いっ!?」
「リリスさん。いつ、どこから侵入したんですか・・・」
神出鬼没のギルド長、リリスさんだ・・・ってあれ?
なんか、この2人似てない?
「・・・え」
アスモデウスがリリスさんを見て目を見開いた。
「あら、アスモデウスじゃない。元気してた?」
「な、な・・・」
ケラケラ笑うリリスさんに対して、アスモデウスはわなわな震えている。
「り、リリス姉!?」
「まさかの姉妹!?」
確かに、髪の色とか顔付きとか、エロさとか似てる・・・。胸は可哀想なぐらい差があるけども。
「え、てことはリリスさん」
「なに?」
「魔族なんですか?」
「ええ、魔族よ」
これはびっくりだ。でも、それだったらリリスさんのステータスの高さも納得出来る。
「ってまあ、魔族だからって何かが変わるわけじゃないんですけどね」
「うふふ、ジーク君のそういうトコ、大好きよぉ」
「何言ってんですか・・・」
微笑みながら寄ってくるリリスさんから離れる。
「な、なんでリリス姉が、こんなとこに・・・」
「人間界に行くって言ってたでしょ?」
「そうだけど・・・。でも、なんで人間界に行こうと思ったのよ。人間は母さんと父さんを殺したのよ?」
「ええ、そうね。でも、ジーク君が言ってたように、誰もが悪い人ってわけじゃないもの」
「でもっ・・・」
詰め寄るアスモデウスを、リリスさんは抱き締めた。
「いつか、魔族と人間が手を取り合える・・・そんな世界にするために、私は人間界に来たのよ」
「そんなの・・・無理よ」
「それは分からないでしょう?というか、既に手を取り合ってる人達はすぐそこにいるけどね」
「あ・・・」
二人揃って俺の方を見てくる。
「・・・なんすか?」
「人間が全員ジーク君みたいな人なら良かったのにって、アスモデウスが言ってるわ」
「言ってないわよ!」
「即答やめて」
地味に傷つくから、それ。
「てか、まさかしばらく見ない間に、可愛い妹が魔神になってるとは思わなかったわねぇ」
「・・・あたしだって、努力してたのよ」
「それは結構。けど、その力を復讐に使うのはどうかと思うわよ」
「復讐っつうか、アホみたいな悪戯でしょ、今日のは」
「アホ言うな!今のあたしはリリス姉より強いんだから!」
そう言うアスモデウスをなだめ、リリスさんは部屋の窓を開けた。
「それじゃ、私はそろそろ行くわね。この後大事な会議があるので」
「あ、リリス姉・・・」
「アスモデウス、これからちゃんと変わっていきなさいよ?復讐に囚われてたら人生・・・魔生?勿体ないわよ」
「人生でいいのでは?」
「じゃ、また会いましょ!」
満面の笑みで手を振り、リリスさんは窓から外に飛び出した。普通に玄関から出ていってほしいんだが。
「・・・」
「まさか、お前とリリスさんが姉妹とはなぁ」
「胸見ながら言うな、殺すぞ」
「いやだって、大きさが─────」
「この変態!!」
「おま、ここ家だぞ!?」
涙目になりながら魔剣を召喚したので、慌ててアスモデウスを落ち着かせた。
「ごめんごめん、顔は確かに似てる気がするぞ。二人共美人だしな」
「な・・・」
今度はアスモデウスの顔が赤くなる。まずい、変なこと言っちまったか?
「・・・ほんと、天然なのかわざとなのかどっちなのよ」
「何が?」
「うっさい、馬鹿!」
「誰が!」
「あんたよあんた!」
ビシッと指をさされたので、俺はその手を掴んだ。
「っ!?」
「あれー、この指、アスモデウスさんの方向いてる気がするなぁ」
「ちょ、やめ・・・」
そしてその指を無理矢理アスモデウスの方に向けたんだが、何故か彼女の顔が再び真っ赤になっている。
「っ〜〜〜〜〜!!」
どうしたのか声をかけようとした時、アスモデウスは俺の手を振り払って、窓から外に飛び出した。そして翼をバサバサしながらこっちを睨んでくる。
「お、覚えてなさい、ジークフリード!次に会った時はボッコボコのギッタギタにしてやるんだから!!」
「え。あ、おう」
どうやら魔界に帰るようだ。これで、ようやく今回の事件も終幕か・・・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ギッタギタにしてやるんだから!!」
そう言ってあたしはジークフリードに背を向けた。早く魔界に帰ろう。今日のあたしは何かがおかしい。
最初はこんな街簡単に支配出来ると思っていたのに、たった一人の人間に手も足も出なかった挙句助けられたし。人間相手に頭を下げる羽目になったし。何年も前に人間界に行った姉とこんな場所で再会するし。
きっと、今日は運が悪かったのね。こんなに胸がドキドキするのも、色んな事があり過ぎてあたしが疲れてるから・・・のはず。
あいつに手を触られただけで顔が熱くなったのも、ちょっと会話が楽しいだなんて思ったのも、疲れてるからだ。
だから早く帰ろう。そして休んで対策を練って、今度こそはこの忌々しい人間を─────
「アスモデウス!」
「なによ!」
飛び去ろうとした時、急に名前を呼ばれてあたしは振り返った。今名前を呼ばれてちょっと嬉しいとか思ったのも全部疲れてるからだ。
「またな」
「っ──────」
笑顔で手を振るジークフリードを見て、何故か涙が出そうになった。それを隠すかのようにあたしの身体は勝手に動き、勢いよく魔界に向けて飛び去る。
「あぁもう、わけわかんない!」
なんでさっきまで敵だったやつに、またなとか言ってんのよ。
ほんと、わけわかんない・・・。




