第七十八話 レヴィVSアスモデウス
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「あら、来たのはあんただったか」
「やったね、アスモデウスみーつけた!」
王城。
ローレリア王国国王が住む巨大な城で、この王都の象徴でもある。そして今日、普段ならこの国のトップが座るはずの玉座には、桃色の長髪をクリクリと弄ぶ美しい少女が座っていた。
「ジークフリードはどうしたの?」
「地下に行ってるよ」
「ふーん、そう」
玉座に座るのは、色欲の罪を司る魔神アスモデウス。そんな彼女の正面で笑みを浮かべているのは、嫉妬の罪を司る魔神レヴィアタン。その他には、アスモデウスが連れてきた魔物達が立っている。
大罪を司る魔神が2人。一体何が起こるか分からないこの場で、アスモデウスの部下達はただただ震えていた。
「それじゃ、早く魔法を解いてくれない?」
「はあ?何言ってんのあんた」
「ジークが困ってるからね」
それを聞いて、アスモデウスは笑う。
「あはは、馬っ鹿じゃないの!?あたしが何でわざわざこんなことをしてると思ってんのよ!」
「知らないよ」
「ジークフリードを殺すために決まってるでしょ?大罪を司る魔神を3人も潰したあの男を殺せば、アタシは最強の魔神になれる・・・!!」
「へー、それが理由でこんなことしてるの?」
「・・・ふん、まあそれだけじゃないけど」
アスモデウスがそう言った瞬間、レヴィの小さな身体から膨大な魔力が溢れ出す。
「っ・・・」
「そうなんだぁ、ここにいる皆がジークの敵なんだね」
窓ガラスは割れ、床にはヒビが入り、空気が震える。
「じゃあ、全員殺そうかな」
次の瞬間、アスモデウスの背後にたっていた魔物達の首が飛んだ。
「っ───────」
振り返れば、バタバタと倒れる魔物達の血を浴びながら、不気味な笑みを浮かべるレヴィだけが立っていた。
「あは、あははははっ!!なぁんだ、やっぱりそれがあんたの本性か!!」
「ジークに余計なことするのなら─────」
レヴィの身体がブレる。
「容赦しないよ」
それと同時に玉座が消し飛んだ。
「っとぉ。ふふ、速いわね」
「《切り裂く水》!!」
猛スピードで動くレヴィの攻撃を躱し、玉座から離れたアスモデウスに向かって再びレヴィが水魔法を放つ。
「あっ・・・」
そして、アスモデウスはあらゆるものを切断する水にその身を切り裂かれた。
そう思われたのだが、突然アスモデウスの身体がぐにゃりと歪んむ。
「どこ見てんのよ」
「っ!」
背後から声が聞こえ、レヴィは振り向きざまに水魔法を放つ。しかし、そこにアスモデウスは居ない。
「厄介だね、その魔法」
「《幻影分身》・・・。魔力を固めて姿形が全く同じな偽の自分を創り出す魔法よ」
そう説明しながらアスモデウスが魔力を集め始めた。
「さぁて、今度はあたしの番ね」
彼女に集まった魔力は、そのまま背後に流れていく。一体何をするつもりか。レヴィは身構えた。
「出でよ、《絶望導く七つの魔剣》!!!」
次の瞬間、アスモデウスの背後に七つの剣が出現した。
「それは・・・」
「覚悟しなさい、レヴィアタン!!」
そしてその中から二本の剣を手に取り、アスモデウスは跳躍した。当然残りの剣は彼女の背後に浮かんだままだ。
「《タイダルウェイブ》!!」
「無駄よ!!」
そんなアスモデウスにレヴィが水魔法を放つが、斬撃であっさりと弾かれる。
「あたしだって、接近戦ぐらい出来るのよ!!」
アスモデウスが魔剣を振り下ろす。しかし、スピードではレヴィの方が上だった。
「遅いよ」
「な─────」
一瞬で背後に回り込んだレヴィが強烈な蹴りを放った。
しかし、
「──んちゃって」
アスモデウスの背後に浮かぶ魔剣が重なり合い、それを受け止める。
「あ、言い忘れてたけど。今あんたが蹴った魔剣、麻痺と毒の魔剣だからねー」
「っ!?」
そう言われてレヴィはあることに気が付く。少しだけ、二つの魔剣の刃が自身の皮膚を切っているということに。
さらにその箇所に激痛がはしり、痺れ始める。
「馬鹿ねぇ、あたしの魔剣はそれぞれ一つ状態異常効果を相手に与えるのよ」
「あらら、それは油断した」
「ふふ、もう動けないのかしら?ならじわじわと痛ぶって─────」
そこで言葉を切り、アスモデウスは咄嗟に首を傾けた。そんな彼女の頬を何かが掠める。
「・・・」
ドロリとした何かが頬を流れていく。それを触り、アスモデウスは歯を食いしばった。
レヴィが、圧縮した水の弾丸をアスモデウスの顔面目掛けて放ったのだ。
「これだけでボクの動きを止めれると思ったの?あはは、馬鹿なのはどっちなのかなぁ、ア ス モ デ ウ ス さん♪」
「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
次の瞬間、魔剣が一斉にレヴィに襲いかかった。
「殺す!!」
「怒ると美容に悪いよ?」
「うっさい!!」
様々な角度から迫る魔剣を器用に躱しながら、レヴィは魔力を放ち始めた。
「ちょっと本気だしちゃおっかな」
「っ・・・!」
おぞましい魔力の奔流。
魔族としてはまだ幼い少女から言い知れぬ恐怖を感じ、アスモデウスは笑った。
「あははは!あー、鬱陶しいわぁ。だったらあたしにも考えがあるわよ」
「・・・?」
突然アスモデウスに魔力が集まり始める。
「《甘美なる色欲の支配》!!!」
そして放たれたのは、アスモデウスの禁忌魔法。しかし、レヴィにその魔法は効かない。
「何してんの?」
「今、この人間の街を支配してるのがあたしだってことを思い知らせてあげる!!」
アスモデウスがそう言った直後、何者かがレヴィに斬りかかった。
「っ、エステリーナのお兄さん?」
「ぬあああ!!よく分からんがとりあえず死んでくれ!!」
燃え盛る炎を纏った大剣を振るいながら、アスモデウスに操られたイツキがレヴィを襲う。
「ああああ、レヴィ様ぁぁ!!!」
「・・・はぁ、キュラーか」
「私は一生レヴィ様を愛すると誓いましたが、今はアスモデウス様一筋なのです!!」
「あーそう、じゃあこれからはアスモデウスのとこで頑張ってね」
「その前にレヴィ様、その血を寄越せぇぇぇ!!!」
今度は操られたキュラーがレヴィに牙を剥く。
「うおおお、レヴィアタン!!」
「殺せ、殺せ!!」
さらに一般人までもが王城に入り込んできた。
「命令を変えたの?」
「ええ、《レヴィアタンを殺せ》にね」
「シンプルな命令だねぇ」
と、レヴィアタンがそう言った瞬間、何かが彼女に絡み付いた。
「これは・・・シルフィの糸か」
「はい、もう逃げられませんよ」
続々と集まってくる人間達。おそらく無事だったシャロンも魔法にやられてしまっているだろう。
「・・・」
だんだんと、レヴィはイライラし始めた。
「あらあら、どうしたの?打つ手無しかしら?」
離れた場所で笑うアスモデウスに対しても、群がってくる人間達に対しても。
「アスモデウス」
「なによ」
「どこ見てんの?」
「っ!?」
次の瞬間、アスモデウスは勢いよく真上に吹っ飛んだ。そのまま天井を突き破り、外に飛び出す。
「レヴィアタンッ!!」
怒りに満ちた表情で城を見下ろせば、笑みを浮かべるレヴィと目が合った。
目で追えない程の速度で移動し、そして殴った。直感でそれをガードしたアスモデウスも大したものである。
「あはは、外なら思う存分やれるよね」
そう言ってレヴィが城から飛び出し、アスモデウスよりも高い場所で手を挙げた。
「っ、禁忌魔法!!」
「消し飛ばしてあげる・・・!」
膨大な魔力が空に集まり、雲が渦巻き始める。これから放たれる魔法がどれほどの破壊力を持つものなのか、アスモデウスにはすぐ理解出来た。
「《嫉妬する災厄の権化》!!!」
ベルフェゴールとの戦いで、レヴィは完全に嫉妬の魔神として覚醒した。そんな彼女はもう、固有スキルに頼らなくても超破壊力の禁忌魔法を放てるようになったのだ。
あらゆるものを呑み込む災厄が、雲を割って現れる。




