第七十六話 禁忌魔法の効果
「殺っちまぇぇ!!」
「叩き潰せぇぇ!!」
はい、現在俺とレヴィは武器を振り回す男達から逃走中であります。どこに行っても必ずアスモデウスの魔法にやられた人達がいて、安全な場所が見つからない。
ちなみに途中でレヴィには服を着させた。さすがにスク水のまま街を駆け回るというのはあれだったので。
「そうだ。なんで俺とレヴィはあいつの魔法が効いてないんだ?」
「ボクとジークのほうがアスモデウスよりレベルが高いからだよ。あの魔法は自分よりレベルが高い相手には効かないの」
「なるほど」
レベルがかなり高いイツキさんもやられていた。ということはアスモデウスのレベルは少なくとも200以上、そして350以下だ。
・・・ってレベルが低いやつには魔法が効くんだよな?なら、さっき声が聞こえた変態吸血鬼も・・・。
「おい、ジークフリード」
「・・・はぁ、やっぱりか」
「何故貴様がレヴィ様と楽しそうに走っているのだぁぁぁぁぁ!!!」
突然上空から吸血鬼のキュラーが襲いかかってきた。
「レヴィ様から離れろ!!!」
「ったく、うるせーな」
「死ぬがいい!!」
キュラーが俺に向かって魔法を放つ。しかし俺には効かない。
「キュラー、やめなよ!」
「いいえ、レヴィ様!この変態だけはここで葬らなければならないのです!!」
変態に変態と言われたくはない。
ほんと、操られてても操られてなくても面倒なやつだな。
「ジークぅぅぅ!!!」
「げっ・・・」
「貴様にエステリーナはやらんぞぉぉぉ!!!」
後ろからイツキさんまで追いかけてきた。うわー、最高にめんどくさい2人に挟まれたぞ。
「ジーク、ジャンプ!」
「え、おう」
「タイダルウェイブ!!」
「「ぐわあっ!?」」
俺が跳んだ瞬間、レヴィが魔法を放った。波にのまれて流された2人は家にぶつかって呻き声をあげる。
「ナイス!」
「うん、今のうちに!」
2人の動きが止まっている隙に、俺とレヴィはこの場から逃げ出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あら?なんだか騒がしいですわね」
「あれは・・・!」
それからしばらく走り続けていると、前方に護衛を引き連れたシャロンが現れた。
「あ、ジークフリード様!ミスコンは終了したんですの?」
「え?」
「少し用事があったので先程まで王都を出ていたんです。ふふふ、遂にエステリーナ・ロンドを打ち負かす時がきたのですわ!」
そう言って笑うシャロン。てことは、アスモデウスの魔法にかかってないってことか!
「よかった、ちょっとこっちに来てくれ!」
「え、あ、ジークフリード様!?」
俺はシャロンの手を掴んで路地裏に駆け込んだ。その時に護衛達がわりと本気で攻撃してきたけど、相手にしてる場合じゃない。
そして俺は今王都で何が起こっているのかをシャロンに説明した。
「そ、そんなことが・・・」
「多分こうして操られてないのは、俺とレヴィとシャロン、そしてそこの護衛さん達だけだ。・・・いや、リリスさんがどうか分かんないな」
「そうですの・・・」
「って、今思ったら俺、普通にシャロンって呼んでるけど大丈夫なのか?」
「もちろんです!そう接してくれた方がわたくしとしても嬉しいですわ」
「そうか」
ならよかった。さっきからシャロンって呼ぶ度に護衛達が攻撃しようとしてくるもんだから。
「それで、これからどうするんですの?」
「魔法を解くには多分アスモデウスを何とかしなきゃならないから、とりあえずアスモデウスを見つけ出す」
「そうですか、ならわたくしも協力しますわ」
「おう、助かる」
あ、そういえば、アカリ達も魔法にやられてるんだろうか。
「早く何とかしないとなぁ」
ほんと、何が目的でこんなことしてんだよあの魔神は────
「ジーク」
「いっ!?」
アスモデウスの目的について考え始めた直後、あの人の声が聞こえた。
「え、エステリーナさん・・・!?」
「ふふふ、ようやく見つけたぞ」
そう言って現れたエステリーナが抱きついてきた。
「え、エステリーナ・ロンド!?一体何をしているんですの!?」
「む、シャロンか。邪魔をするんじゃない」
ぎろりとシャロンを睨みつけた後、エステリーナが俺に顔を近づけてきた。
「まずはキスからだな。その後は・・・ああ、私が鎧を着ているから嫌がっているのか。ふふ、ちゃんと脱ぐ」
「何言ってんの!?」
そういう問題ではないと思うんですけど!!
「いい加減にしなさい!!」
「っ!!」
シャロンの声と共に金属音が響き、エステリーナが俺から離れた。いつの間にかエステリーナは剣を手に持っている。
「・・・やるつもりか?」
「ええ、ここで決着をつけるのも悪くは無さそうですわ」
対するシャロンの手にはレイピアが握られている。おそらくシャロンがエステリーナを弾き飛ばしたのだろう。
「ふふふ、ジーク。これが終わったら私と一緒に大人の階段を駆け上がろう」
「駆け上がんの!?」
「いくぞシャロン!!」
エステリーナが剣に炎を纏わせ、勢いよく跳躍した。
「《炎をもたらす魔剣》!!」
「ちょっ・・・!」
咄嗟にレヴィが水の壁を作り出し、迫る炎からシャロンを守る。
「む、レヴィ、邪魔するな!」
「こんな狭いとこで炎使ったら家が燃えちゃうよ」
「だったら何だと言うんだ」
普段のエステリーナだったら、そんなことは絶対に言わないだろう。ほんと、厄介な魔法だな禁忌魔法って。
「はあっ!!」
「っ・・・!!」
レヴィに視線を移していたエステリーナに、シャロンが突きを放つ。しかし、それに反応したエステリーナは迫るレイピアを剣で弾いた。
「はあ、レヴィ。一回家に行こう」
「え、いいよー」
「シャロン、ちょっと来てくれ!」
「なんですの?」
「いいから」
「・・・?」
俺は、きょとんとしているシャロンをお姫様抱っこした。
「じ、ジークフリード様!?」
「いくぞレヴィ!」
「はいはーい!」
そしてそのまま屋根に飛び乗る。
「なっ、ジーク!?」
「「「シャロン様!?」」」
エステリーナと護衛達の声が聞こえたが、それを無視して俺達は我が家に向かって駆け出した。




