第六十七話 月の女神と月光祭
「《月光祭》?」
聞きなれない言葉を聞き、俺は疑問符を頭の上に浮かべた。
「はい、ローレリア王国では、毎年1回王都で大規模なお祭りが行われるんです」
「魔闘祭の時といい、お祭り大好きだな・・・」
「これがお祭りの案内です」
シオンに手渡された紙を見てみると、でっかい文字で『第50回ローレリア王国月光祭』と書かれていた。
「月光祭は、3日後の午後六時から始まります。そして3日間お祭りが行われるんです」
「へぇ・・・ん?」
「どうかしましたか?」
「い、いや、これ・・・」
ちょっとびっくりすることが書かれていたのでその部分をシオンに見せた。
「ああ、女神様のことですか。このお祭りは、かつて月の女神アルテリアス様がこの王国を救ってくださった日に合わせて行われているんです」
「つ、月の女神?」
アルテリアスって、あの女神アルテリアスだよな?
あいつ狭間の女神なんじゃなかったのか・・・?
「昔、突然ローレリア王国が昼間なのに真っ暗になってしまったことがあったそうです。それで、王国は大混乱に陥ったそうなんですが、そんな時に現れたのがアルテリアス様なんです」
それ、皆既日食じゃないの?
「アルテリアス様が放った光は、王国を覆う暗闇を照らし、混乱を鎮めたと伝わっています」
なるほど・・・。けど、それなら太陽神とかのほうがしっくりくると思うんだけどな。
「んで、その日が3日後ってわけか」
「はい。最近少し涼しくなってきたので心地いいお祭りになると思いますよ」
「ふむ・・・」
まあ、楽しみっちゃ楽しみだな。
みんなと屋台巡りをすんのも悪くない・・・ん?
「これは・・・」
俺はとある文章を目にして紙に顔を近づけた。
何故なら、そこに書かれていたのは『ミスコン』についてだったから。
「シオン」
「はい」
「ミスコンがあるらしいぞ」
「あ、そ、そうらしいですね」
「シオンは出ないのか?」
「わ、私はその・・・」
ああ、なるほど。恥ずかしいんだな。
確かにミスコンなんてイベントがあったら男共が大集結するだろうし。
「まあ、シオン可愛いし、優勝はありえない話ではないと思うけど・・・」
「へっ・・・!?」
俺の言葉を聞いてシオンの顔が真っ赤になった。
お世辞とかじゃなくてほんとにそう思ってるんだぞ。
「そう・・・ですか?」
「うん」
「な、なら・・・」
「ジークっ!」
「ぐっ──────」
突然後ろから何者かに飛びつかれ、俺は顔面から机に激突した。その衝撃で机が真っ二つになる。
「・・・レヴィ、また机買い直さなきゃならんだろうが」
「ごめんごめーん。そんなことより、なんの話してたの?」
レヴィは俺から離れると、床に落ちていた紙を見つけてそれを拾った。
「え、お祭り?それにミスコン?うわー、楽しそうだね!それで、ミスコンってなにー?」
「む、それはだな・・・」
説明中────────
「ボクも出る!」
「そうか」
目を輝かせて出場宣言したレヴィは俺の隣に座った。
「シオンは出るの?」
「はい、まあ、一応・・・」
「シルフィとエステリーナは出ないのかなぁ」
「私がどうかしましたか?」
振り返ると、買い物を済ませて帰ってきたシルフィが立っていた。
「いいところに!ねえねえ、今度のお祭りでミスコンあるんだって。シルフィも出るよねっ」
「みすこん・・・?」
「ああ、また説明タイムか」
説明中─────────
「それは、ちょっと恥ずかしいです・・・」
「優勝したらジークがあんなことやこんなことをしてくれるんだってー」
「出ます!!」
「出んの!?てか何もしねーよ!!」
何を言ってんだこの幼女は!しかもなんでそんな理由でシルフィも出場しようとしてんだ。
「あ、あんなことやこんなこと・・・」
それを聞いてシオンも真っ赤になってしまっている。
くそ、ちょっとあんなことやこんなことしたいかもしれない。
「ってあれ、キュラーは?」
「知らなーい」
ふむ、帰ってますように。
あいつのことだから、レヴィ好きなロリコンの人達を見てお前ら全員殺してやるとか、ドラマ版のデス☆ノート拾った人みたいな事言いそうだから居ない方が絶対いい。
と、そんなことを思っていた時、コンコンという音がドアの方から聞こえた。
誰かが来たようだ。
「はいはーい」
エステリーナだろうか。
「・・・おひさ」
「アカリ・・・!?」
ドアを開けると、そこにはアカリが立っていた。
彼女は以前サタンが造り出した迷宮に行った時に出会った冒険者3人組の1人だ。
「なんでここに?」
「・・・王都にいるって言ってたから、来た」
「クラウンとガルムは?」
「・・・死んだ」
「え」
「・・・ウソ」
「相変わらずだなお前は」
シオンよりもさらに無表情を極めたようなこの少女は、結構謎である。
「で、あの2人は?」
「・・・途中で美人な人を見かけて、その人をなんぱしてる」
「なるほど」
あの時は俺含めて4人しかいなかったけど、あいつらそういうキャラだったんだ。
「まあ、とりあえず中入れよ」
「・・・あざーす」
そして、俺は振り返って硬直した。
「・・・どうしたの?」
「あ、いや・・・」
3人からの視線が怖い。シオンはなんか不機嫌になってるっぽいし、シルフィも顔が怖い。あのレヴィですら唇を尖らせて俺を軽く睨んでいる。
「ジーク」
「なんでしょう!」
「その子誰?」
レヴィの身体から魔力が溢れ出す。ちょっと待て、お前はそんな怒ったりするキャラじゃないはずだ。
「シオン達はいいけど、そんな知らない女の子にまで手を出してるとは思わなかったよ」
「出してねーよ!!こいつはアカリ、以前迷宮火山で一時的にパーティーを組んだ3人組の1人だ!!」
「・・・どうも、ジークの夜の相手、アカリです」
「ジーィークー?」
「違うって!!アカリお前マジふざけんな!!」
「・・・てへ」
なんだこの心臓に悪い空間は。
「・・・冗談。アカリです、よろしこ」
「その挨拶は女子としてどうかと思うぞ」
ガルムとクラウンも何やってんだよマジで・・・。
「・・・失礼します」
「え・・・おおっ、エステリーナ!!」
「へっ!?」
そして、このタイミングでエステリーナが来てくれたので、俺は彼女のもとに駆け寄った。。
「ちょっと面倒なことになっててだな、ヘルプ・・・」
「お、よう、兄ちゃん!」
「久しぶりだねー」
「なんでエステリーナの後ろにお前らがいるんだ」
「実はだな、先程ここに向かう途中に声をかけられて・・・」
「お前らがナンパした相手ってエステリーナかよ!!」
確かに美人だけどね!!
「・・・ジーク?」
「はいっ!?」
「そんなことよりちょっと来てー」
「り、了解であります」
服をグイグイ引っ張られ、俺はレヴィに連れられて二階へと向かった。
「むー、ジークったら、ボクだって嫉妬するんだよ!だって嫉妬の魔神だもの!」
「ちょ、わかった、わかったから殴ってくんな!」
二階に着くと、レヴィが俺をポカポカ殴ってきた。
「シオンとかは友達だから別に嫉妬しないよ?でも誰かも知らない女の子といつの間にかあんなに仲良くなってたなんて、もうっ!」
・・・可愛いんですけど。
ほっぺた膨らましてプンプンする幼・・・レヴィ可愛いんですけど。いかんな、最近ちょっとロリコン化が進んできてるかもしれない。
「なんかすんません」
「・・・じゃあ、デートしようよ」
「え?」
「明日デートしよ」
「え、まあ、いいけど・・・」
「わーい!」
急にすごい笑顔になり、抱きついてきたレヴィ。
こいつ、もしかしてデートの約束したかっただけなんじゃ・・・。
「嫉妬したのはほんとだからね!」
「そうでござるか」
そういえば、レヴィと2人で買い物とか全然したことなかったな。この機会に思い出でも作っとくか。
「じゃあ明日のデート、寝坊しちゃだめだよ!」
はしゃぎながらレヴィが一階に駆け下りて行った。ほんと、元気だなぁ。
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「なあジーク、なんで机が真っ二つになってんの?」
「いろいろあるんだよ」
「それだけ激しいんだね、いろいろ・・・」
「激しい言うな」
その後、軽く食事会的なことをしようかと思ったんだが、俺が頭突きしたせいで机が真っ二つになってたんだった。
「あー、ちょっと机買ってくる」
「ボクも行く!」
「明日デートするんじゃねーの?」
「やっぱり今日にしよー」
「机買いに行くだけなんだけど・・・」
まあいいや、とりあえず早く机買いに行こう。
「レッツゴー!」
「へいへい」
何がそんなに楽しいのか、レヴィは満面の笑みを浮かべて歩き出したので、俺もその後に続いた。




