第六十五話 大好きです
突然古代都市・・・いや、日本の街は消滅した。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、俺達を残してロボットも、建物も、全てが消えたのだ。
気がつけば、俺達は森の中に立っていた。
「み、みんな、無事だったのね」
「リリスさん」
そんな中、向こうからリリスさんが歩いてきた。
「怪我は大丈夫なんですか?」
「ええ、なんとかね。それより、いきなり街が消えたんだけど」
「そうなんですよ。俺達にもよく分からなくて」
理由は分からないけど、もうあの街に行くことは出来なさそうだ。
「まあいいわ、とりあえず王都に帰りましょう」
「そうですね」
そして、みんなはリリスさんが乗ってきた馬車で王都に帰った。
ちなみに人数が多すぎたので俺だけ走って帰らされた。
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「あ、ジークさん・・・」
「よう」
その日の晩、既にシルフィやレヴィ達は寝てしまっている中、俺はふと目が覚めて外に出たのだが、そこには夜空を見上げるシオンがいた。
「寝れないのか?」
「・・・いえ」
ちなみに、家の前には階段がある。そこに俺は腰掛けた。それを見てシオンも俺の隣に座る。
「ここにいれば、ジークさんとお話できると思って」
「そ、そうか」
なんか、照れるな。
「そういえば、にほんのことは皆さんにつたえたんですか?」
「んー、シオンとリリスさんにしか言ってない」
「そうですか・・・」
ロボットのことも、あの街のことも、結局何も分からなかった。
「あの、ありがとうございました」
「ん?」
「助けに来てくれた時、すごく嬉しかったです」
「おう」
「ふふ、やっぱりジークさんは私のヒーローですよ」
そう言って微笑んだシオンを見て、俺の心臓が跳ねた。その表情は卑怯だ。
「・・・」
「・・・」
そして、しばらく無言で互いに空を見上げる。綺麗な星空だ。
「・・・」
「・・・?」
ふと、シオンが俺を見つめていることに気がついた。
「どうした?」
「・・・ジークさんは、私のこと、どう思っていますか?」
「え!?」
いきなりとんでもない質問がきたな。これは、嘘はつかないほうがいいか・・・。
「まあ、その、可愛い・・・ですよ」
「他には?」
「え、優しいですね」
「ふふ、他には?」
むぐっ、まだ聞いてくるのか。今日俺がツァーリにボコられてる時にも同じようなこと言った気がするんだけど。
「一緒にいて落ち着く、信頼できる・・・可愛い」
「そうですか」
満足そうな表情を浮かべるシオン。やばい、いつもとは違う感じがして、なんかドキドキする。
「ジークさん」
「はい」
「伝えたいことがあります」
「んん・・・?」
なんだろうか。特訓に付き合ってくださいとか?
「ジークさんは、私にいろいろなことを教えてくれました。村でいつも1人だった私に、手を差し伸べてくれました」
「おう・・・」
「毎日楽しいことばかりで、私は本当に幸せです」
「・・・」
「そんな幸せを与えてくれたのは、ジークさんです。そして、何より幸せなのは、ジークさんとこうしてお話をしたり、ジークさんのいろんな表情を見ることができるということです」
「し、シオン・・・」
や、やばい、心臓が・・・。
そんな風に言われたら、ちょっとやばい。
「いつも幸せをありがとうございます。ジークさんに出会えて、本当によかった」
とびきりの笑顔じゃあないけど、まるで天使のような微笑み。嫌でも顔が熱くなった。
「お、俺の方こそ、シオンがいてくれて、幸せだ」
「ジークさん・・・」
「いつもありがとな」
照れながらも俺はそう言った。
その直後。
「っ、シオン!?」
「・・・」
突然シオンに横から抱きつかれた。咄嗟に階段に倒れこまないように彼女を受け止める。
「・・・もう、気持ちが抑えられなかったんです」
「え・・・」
「ジークさんが他の女の人と仲良くしているところや、どんどん強くなっていく皆さんを見ていると、胸が苦しくなって、いつも自分だけ孤立しているような気持ちになりました」
「シオン・・・」
「でも、ジークさんが助けに来てくれた時に言ってくれたことを聞いて、悩んでいた自分が恥ずかしくなりました。私にも、仲間がいるんだなって思って・・・」
そう言ってシオンは顔を上げた。至近距離で目が合い、心臓がこれでもかというほど暴れる。
「ジークさん、私の想い、聞いてくれますか?」
「え、あ、おう」
一体何を言われるんだろうか。
「ジークさんは、かっこよくて、優しくて、強くて・・・、いつも私を助けてくれて」
彼女が潤んだ瞳で俺を見つめる。
そして。
「私は、そんなジークさんのことが、大好きです」
思考が停止した。身体が硬直した。目を見開いた。
「え・・・」
いやだって、シオンが、俺を・・・?
「ふふ、やっと、言えました・・・」
俺から身体を離し、シオンは微笑んだ。よく見れば彼女の頬は赤く染まっている。
「そ、それって、どういう意味で・・・」
「一人の異性として・・・です」
まじ・・・か。
「今すぐに私を選んでなんてことは言いません。私が勝手に想いを伝えただけですから。でも、いつか私を選んでくれるように、頑張りますので・・・」
「シオン・・・」
「いつか、返事を聞くことができるのを、楽しみにしていますね」
そう言って微笑むシオン。
対する俺はシオンのことで頭が一杯になり、混乱していた。
倒れていた俺を助けてくれた時から、アルターと戦った時、王都に来て一緒に色んなものを買った時のことや、くだらない話で盛り上がったり、依頼を受けたり迷宮に潜ったり。
俺がこの世界に来て、一番最初に出会い、一番長く共に暮らしているシオン。
数え切れないほどの思い出が、頭の中に次々に浮かび上がってくる。
「・・・ごめんな、すぐ返事を返せなくて」
正直どう言ったらいいのか分からない。レヴィにも返事を返していないし、俺は自分が誰のことが好きなのかも分からない。
確かにシオンはこれでもかというぐらい魅力的だ。でも、この場で返事を返せるほど、俺は強い男じゃなかった。
「・・・そろそろ寝ましょうか」
「え、あ、おう・・・」
すっとシオンが立ち上がった。
「おやすみなさい、ジークさん」
「・・・おやすみ」
そして、シオンは家の中に入っていった。その背中を見送ったあと、俺は倒れ込んだ。
シオンの前だから必死に耐えたのだが、理性が暴走しかけた。
彼女の潤んだ瞳、赤く染まった顔が頭から離れない。
「ううぅ・・・」
この先、俺が誰を選ぶのかは分からない。けど、その時は、たとえどんな結果であろうと、返事を返さないといけない。
とりあえず、今日は寝れなさそうだな。




