第六十四話 仲間だからに決まってる
「・・・」
驚愕の表情を浮かべる柳と、涙を流すシオン。それだけで何があったのかは把握した。
「こ、殺す・・・だと?ククク、ハハハハハハ!!残念だが、それは無理だ!!」
そう言って柳が懐から何かを取り出し、スイッチを押した。それと同時に俺と柳達の間に透明の壁が現れる。
「ククク、さあ、これを砕いてこっちに来い!!君なら可能だろう!?けど、その瞬間この女の命は散ることになるぞ!!」
「・・・」
タチの悪い男だ。確かに、俺があの壁を粉砕した瞬間にシオンに手を出されたら終わりだ。
「ククク、動くなよ?」
「あ?」
突然俺の背後に何かが現れた。どこかから転移して来たんだろうか。
それは、見たことのない白い巨大マシン。しかし、その強さは見ただけでわかった。
「アルター並みか、それ以上・・・か」
おそらくそのレベルだ。
「君がそいつ相手に抵抗せずに攻撃を受け続け、耐え切ることが出来たらこの女の命は助けてやろう!!」
「いいぜ」
「あ?」
そんな要求に俺が即答したからか、柳は目を見開いた。
「それでシオンが助かるんだろ?気の済むまでやれよ」
「じ、ジークさん!?」
それを聞いてシオンが叫ぶ。
「そ、そんなことしたら、ジークさんが・・・!!」
「ああああ、最高だ!!きっとあれも嘘だよ!!君を助けるつもりなんてないさ、すぐに命乞いをしてくる!!」
柳はゲラゲラ笑うと、マシンに命令した。
「やれ、ツァーリXー996型!!」
『Rttyu』
次の瞬間、マシン───ツァーリの姿が消える。そして、俺は凄まじい衝撃を受けて吹っ飛んだ。
多分、超高速で殴られたのだろう。
「ふはははは、素晴らしい!!これこそ僕が造り上げた最強のマシン!!科学と魔法の融合した、魔神をも超える最強の兵器だぁ!!」
うるさい男だな。まさかこれが本性だとは思わなかった。俺は起き上がると、ツァーリの目の前に向かって歩く。
「そんなもんか?」
『Gerrrrrtttt』
ツァーリの背後から何十発ものレーザーが放たれ、その全てが俺に直撃した。どうやらこのレーザー、服などをすり抜けて身体だけを攻撃するようだ。
『Eregyyre』
今度は蹴り飛ばされた。そして、壁に激突した瞬間に巨大な拳で殴られる。
『Rrretuyy』
そのまま脚を掴まれ、向こうに投げられた。さらにゴロゴロと床を転がる俺に向かってツァーリがレーザーを放つ。
「ジークさん!!」
シオンの叫びが聞こえたが、ツァーリの攻撃は止まない。
「も、もうやめてください!!このままじゃジークさんが!!」
いや、大丈夫だ、シオン。そう思って俺は自分のステータスを確認する。
あ、残り生命半分切った。
「ぐっ─────」
高速の蹴りが俺の腹にめり込み、そのまま天井に激突した。そんな俺に向けてツァーリは容赦なくレーザーを放つ。
そして、床に叩きつけられた俺を、ツァーリは勢いよく踏みつけた。
「おやおや、有名な君も、その程度なのかな?」
「へっ、うるせーよ」
「ジークさん、どうして・・・」
「ん?」
「どうして、そこまで・・・」
顔を上げれば、ボロボロと涙を流すシオンと目が合った。
「そんなの、仲間だからに決まってんだろ」
「っ・・・」
「それ以外に理由はいらないと思うけど・・・」
「でも、私は、足でまといで、いつも迷惑をかけて・・・。今回だって私のせいでっ─────」
「何言ってんだ?」
「え・・・」
ったく、最近様子がおかしかったのはそういう理由か。
「俺はシオンを足でまといとか、迷惑だなんて思ったことないけど」
「ジーク・・・さん」
「逆にいつも世話になってるし、助けてもらってる。飯は美味いし優しいし、一緒にいて落ち着くし、可愛いし」
「・・・」
「実力が無いのを気にしてるんなら、いくらでも特訓なり迷宮探索なり付き合ってやるから、もっと頼ってくれよ。な?」
「・・・はい」
これまで見たことのないぐらい涙が溢れ出ている。ほんと、抱え込みすぎだ。
「ふ、ふん、どうせ助かりたいからそう言っているだけだろう?」
「黙れゴミ」
「な、なんだとぉ!?」
話に入ってくんなよ鬱陶しい。
「ククククク、もう許さん!!ツァーリ、そいつを殺せ!!」
『Ttrrghy』
柳の命令を聞き、ツァーリがさらに俺への攻撃を強め始めた。
「ハハハハハハ、死ね死ね死ねぇ!!!」
「あぁ、そうだ」
「あ?」
「シオンのことを大切な仲間って思ってんのは、別に俺だけじゃないんだぜ?」
俺がそう言った瞬間、柳の背後にあった扉が開く。
「な─────」
驚いて柳が振り返るが、彼は炎に包まれ、吹っ飛んだ。
「無事だったか、シオン」
「エステリーナさん・・・」
「ぬぐっ、貴様────」
現れたエステリーナは、柳を吹っ飛ばした後、シオンの右目に眼帯を付けてやっていた。
そんな彼女に向かって柳が駆け出そうとしたが、何かに気づいて彼は立ち止まる。
「ふふ、あと数歩前に進んでいれば、死んでいましたよ?」
「ぅ・・・」
いつの間にか、彼の前には細い糸が何本も張り巡らされていた。
「シルフィちゃん・・・」
「お待たせしました、シオンさん」
「ボクもいるよー!!」
「ぐべっ!!」
次に登場したレヴィが、柳に水魔法を放った。
「お見事です、レヴィ様」
「やっほー、シオン」
「レヴィ・・・さん」
次々と現れる仲間達を見て、シオンはさらに涙を流した。
「ぐ、ググ・・・、ふざけるなァァ・・・。ツァーリィィ!!ジークフリードを殺したら、次はこいつらを皆殺しにしろォ!!!!」
エステリーナ達を見て柳が叫ぶが、ツァーリからの応答は無い。
「おいツァーリ、聞いて─────」
そして、柳は目を見開いた。
「あ、ありえない・・・」
なぜなら、ツァーリが粉々になり、煙をあげながら床に転がっていたからだ。
「さて、柳さん。何が目的だったのかは知らねーけど、覚悟は出来てるよな?」
「ひ、ひぃぃ・・・!!」
俺は柳の目の前まで歩くと、この男の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「く、くそ、覚えていろよ!!次に会ったときは、お前ら全員皆殺しにしてやるッ!!」
「っ──────」
しかし、俺が柳を殴ろうとした瞬間、柳は光に包まれて消えた。
「なっ、転移魔法か!!」
エステリーナが驚いて周囲を見渡すが、もう柳はいなかった。
「くそっ、逃げられたか!!」
1発も殴れずに逃がすとは、最悪だ。
「ジーク・・・さん」
「あ・・・」
後ろから声が聞こえ、振り返る。そうだ、柳のことよりも、今はシオンの方を気にしてやらないと。
「シオン、ごめん、遅くなった」
「・・・」
拘束が解かれているシオンは、俯いたまま言葉を発しない。
「シオン・・・?」
「っ・・・」
次の瞬間、彼女に抱きつかれ、俺は勢いよく倒れた。
「うわっとぉ!?」
「うぅぅ、ジークさぁん!!!」
「シオン・・・」
彼女は、ようやく解放されて安心したからか、俺の胸元に顔をうずめて号泣した。
それを止める者は誰もおらず、俺は黙って彼女が泣き止むまで頭を撫で続けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ・・・!!」
柳は、必死に森の中を駆け抜けていた。幸いジークフリード達は追ってこない。このままどこかの街に逃げ込もうと考えているのだ。
「く、ククククク、次こそは、必ずハデスの魔眼と、シオン・セレナーデを手に入れてみせる・・・!!」
「それは無理だ、消えろ」
「っ!?」
突然前方から声が聞こえ、柳は立ち止まった。
「お、おおお、いいところに!!助けてくれ!!」
「・・・言葉の意味を理解出来ないのか?」
「え─────」
次の瞬間、柳の身体を激しい電流が襲う。
皮膚が裂け、血が噴き出すのを見て柳は叫んだ。
「あぎゃああああああ!!!!!」
「結局造り上げた最強の兵器とやらも、あっさりと壊されるとは。もうお前は用済みだ、死ね」
「な、何故だぁぁぁぁ!!!」
「わざわざ空間を固定してまであの街をこちらに繋ぎとめていてやったが、もうその必要もないな」
「や、やめ、あそこには、僕の、研究の、全てが────」
「もう遅い」
現れた人物が指を鳴らす。それによって何が起こったのかは分からずに、柳は倒れた。
「ふふ、しかし、空間と空間を繋ぐということは可能になったわけだ。このままいけば・・・」
男か女かも分からない。
「フフフフ、ハハハハハハハハハ!!!」
そんなフードを被った人物は、空を見上げて笑った。




