第六十一話 ぶん殴る
「どうも、柳哲郎だ」
「ジークフリードです、よろしく」
そう言って互いに手を取り合う。
ちなみにシオンとリリスさん、変態には離れた場所に座っている。
「・・・ふむ」
なんでだ。なんで普通に名前が日本っぽいんだ。俺みたいに名前ど忘れしたりしてないのか?
「それで、柳さんはなんでここに?」
「・・・わからない。突然激しい揺れに襲われて、気がつけば街はボロボロになっていて・・・あんな化け物達が・・・」
「化け物というのは?」
「狼のようなやつや、ライオンみたいなやつだ・・・」
ふむ、ならこの街の人々を襲ったのは、フォルティーナ産の魔物達ってわけか。
「すまない、こちらからも。君はどうしてここに?」
「んー、まあ、話せば長くなるんですけど・・・。俺も日本人ですよ」
「はは、それは見ればわかるよ」
なんだろう、この安心感は。
「まあ、深くは聞かないでおく」
「どうも。んで、柳さん」
「なんだい?」
「あのロボットみたいなのは何なんですか?」
俺が真剣な表情でそう聞くと、柳さんは困ったような表情で頭を掻いた。
「それが、僕にもわからないんだ」
「ええー?」
「いつの間にかあんなロボット達が現れていたからね。実はさっき避難していた建物にあった食べ物が尽きてしまって・・・。それで食べ物を求めて外に出たんだ」
「ふむ・・・。この街がボロボロになった日っていつですか?」
「うーん、多分1週間前ぐらいじゃないかな」
どういうことなんだろうか。
この人は、日本から異世界に飛ばされたことに気がついてないのか?
「おい、ジークフリード」
「・・・なんだよ変態」
「それは貴様もだろうが。何の話をしているのだ?」
「うるせー、お前には関係ない話だよ」
「・・・えっと?」
ほらー、いきなり青白い変態が来たから柳さん困ってんだろ。
「私も気になるんだけどー」
「ちょ、リリスさん」
背中に胸押し当ててくるのはずるいぜ。
「・・・あれ」
ふと向こうに視線を向ければ、シオンが俯いていた。何かあったんだろうか。
「ちょ、すいません」
リリスさんをどけ、俺はシオンのもとに向かった。
「シオン、どうかしたのか?」
「え、あ、なんでもないです」
「いーや、あるね。嘘つくのはだめって言ったろ?」
「う・・・」
シオンが困ったような表情になった。それでもきちんと何があったのか聞かないと─────
「ちょ、ジーク君!」
「なんですか」
「外!」
「え・・・」
なんだか険しい顔で窓の外を指さすリリスさん。
「ぁ・・・」
俺は一旦シオンから離れ、窓に向かう。
「ちっ、またかよ」
外を見れば、ロボットの大群が建物を包囲していた。ガ〇ダムみたいなやつや、最初のウォーリーみたいなやつまで様々なタイプのロボットがいる。
「リリスさん、シオンと柳さんを頼みます!」
「ええ、任せなさい」
「あ、ジークさん・・・」
「いくぞ変態!」
「貴様もだろうが!」
後ろからシオンの声が聞こえたような気がしたが、その時にはもう俺は走り出していた。
『Retuhrew』
「しつこいんだよ!!」
まずガ〇ダム型がレーザーを放ってきたが、その全てを躱して一気に距離を詰める。そして本気でボディを殴った。
当然ガ〇ダムは粉々になる。
「ふん、他愛ない」
あっちを見れば、キュラーがウォーリー型の群れを相手に無双している。あいつ、ガ〇ダムと戦うのやめやがった。
「まあ、とりあえずぶっ潰れとけ」
そして、俺達がロボット達を全滅させるのにそう時間はかからなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「終わりましたよー」
他に敵はいないか一通り確認したあと、俺とキュラーは建物の中に戻った。
「あれ」
しかし、シオン達の姿が見当たらない。
「シオン・・・?」
どこ行った?隠れてドッキリでも・・・。
「っ、リリスさん!!」
「ジーク君・・・!」
よく見れば、向こうの方に腕を押さえるリリスさんがいた。どうやら負傷したようだ。
「何があったんですか!」
「やられたわ・・・。シオンちゃんが、攫われた」
「・・・は?」
何言ってんだこの人は。シオンと柳さんは、リリスさんが守ってたんだぞ?仮に敵が侵入してこようが、この人なら簡単に対処できたはず──────
「まさか・・・」
「そう、あの男によ・・・。完全に油断したわ。後ろからよくわからない武器で攻撃されて怯んだ隙に転移魔法か何かを使ってこの場から消えたのよ・・・!」
ぎりぎりと歯ぎしりしながら、リリスさんはそう言った。
「そんな・・・」
なんで、シオンが・・・?確かに柳さんは、シオンのことを可愛いって言ったりしてたけど、それが理由で?
まず、あの人は普通の一般人だろう?なんで転移魔法なんか使える。何が目的だ?目的があって俺達の前に現れたのか?この街とも何か関係があるのか?敵意は感じなかった、だからステータスの確認もしなかったんだ。騙されたのか?なら、今現れたロボット達も、シオンを連れ去るためにわざと?
「おい」
意味がわからない。ずっと前からシオンを狙ってたのか?それとも理由も無しに攫ったのか?
「おい、ジークフリード」
駄目だ駄目だ、ふざけるな。敵だったのか、騙したのか。シオンに何するつもりだ?無事なのか?手を出したら殺してや──────
「馬鹿か貴様は!!」
「ぐっ!?」
突然キュラーに服を掴まれ、地面に叩きつけられた。
「てめぇ、何しやがる!!」
「少し頭を冷やせ」
「なんだと?」
俺は起き上がると、キュラーを睨みつけた。
「ちょっとやめなさい!」
そこでリリスさんが止めに入ってきた。
「・・・すいません」
だめだ、ちょっと外行こう。今すぐシオンを探したいけど、その前に落ち着かないと・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「少しは落ち着いたか」
「お前・・・」
振り向けば、いつの間にかキュラーが立っていた。
「・・・その、悪い。さっきのは俺が悪かった」
「ふん、睨みつけてきた時は殺してやろうかと思ったがな」
「うるせーよ」
「さて、あの男が敵のようだが、貴様はどうするのだ?」
「決まってんだろ」
何が目的なのかはわからない。
けど、俺の仲間に手を出したんだ。
「見つけ出してぶん殴る」




