第五十八話 好奇心
「これは・・・」
「林檎だ」
「リンゴって、あの赤いリンゴですか?」
「そう」
「へぇ、すごいです」
現在俺は日本語についてシオンに教えている。紙に書いてある文字の意味について説明しているのだ。
どうやらシオンは日本語に興味津々のようで、次々に漢字や平仮名の意味や書き方を覚えていく。
俺なんて英語の授業大嫌いだったのに。
「これは何ですか?」
「んー、機械だな」
「きかい?」
「まあ、これのことだ。電源を入れることでこの画面に映像を映したり出来る」
俺は机に置かれていたケータイを手に取った。
「ようするにこっちの世界でいう魔法みたいなもんか」
「魔力無しでそんなことが出来るなんて・・・」
「俺からしたら魔法のほうが凄い気がするんだが」
シオン達からしたら、科学というものはすごい技術なのだろう。飛行機とか見せてやりたいなぁ。
「そういえば、ジークさんはどうしてこの世界に来たんですか?」
はいー、いつか聞かれると思ってた。どうしよう、『実は俺、1回死んでるんだぜ!』って言うべきか?
「そ、それはだな・・・」
・・・ん?
『Ghjudxc』
「ひっ!?」
シオンが驚いてこっちに駆け寄ってきた。いつの間にか彼女の背後に先ほどのロボットによく似たやつがいたのだ。
「じ、ジークさん、これは何なんですか?」
「うーん、俺もよく分からん」
「え?」
「多分ロボットってやつなんだけど、俺がいた頃はこんな奴らは堂々と街中にいなかったんだ」
「ま、魔物ではないんですか?」
「いや、機械だ」
と、そんなことを話していた時、突然ロボットに装着されていた銃のようなものから何かが発射された。
それは俺の額に当たると粉々に砕け散る。
「ふーむ、鉄砲ですか」
『Thuewtvgw』
転生する前だったら即死だったな、今の。
「よく分からんけど、多分敵だ」
「で、ですよね・・・」
さっき森で破壊したやつ。あいつの力で俺とシオンはここに飛ばされたんだと思う。
問題は俺達が日本に飛ばされたのか、それともこの街の方がシオン達の世界に飛ばされて来たのか。
「まあ、他にも探索してみるか」
とりあえずロボットは叩いて壊した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジークさん、小さな人がいますよ」
「シオンさん、それはフィギュアっす」
「ふぃぎゅあ?」
「作り物」
「そうなんですか」
未知のものに対するシオンの反応がいちいち可愛いんだが。
「すごいんですね、日本って」
「ああ、世界に引けを取らない技術大国だったからな」
「ジークさんは、日本に戻りたいって思ってますか?」
少しだけ不安そうな表情でそう言ったシオン。
「いや、最初の頃はまた日本で暮らしたいって思ったこともあったけど、シオン達に出会ってからはもうそうは思わなくなったな」
「そうですか・・・」
「今は毎日が楽しくてしかたないからな。これもシオン達のおかげだよ」
「っ、私も、ジークさんと一緒におしゃべりしたり、依頼を受けたりするの、とても楽しいです!」
「はは、そうか」
やべ、照れる。すっげー嬉しいんだけど。
「だから、どこにも行かないでくださいね・・・?」
「もちろ─────」
「フハハハハハ!ラブラブなところ悪いが、ジークフリード、貴様にはここで死んでもらおう!!」
「っ!?」
なんだ?
「・・・だれだお前」
突如として俺の前に男が現れた。めっちゃ肌青白いやん。血足りてないんじゃ・・・。
「我が名はキュラー!それ以外に教えることなど無い!!」
「な─────」
突然ものすごいスピードでキュラーと名乗った男が突っ込んできた。そして、口を開く。
「その血、頂いた!!」
そう言ってキュラーが俺の肩に勢いよく噛み付いた・・・が。
俺、体硬いからねぇ?
「あぎゃあああ!?」
逆にキュラーの歯が粉々に砕け散る。
「き、貴様ァ、何をしたぁ!!」
「いや、なにも」
「許さん、許さんぞ!!」
「まて、何の用だ?」
「貴様、シラを切るつもりか!!」
こいつ、何言ってんだ?
「我が主、レヴィ様に手を出した貴様を、私は許さんぞぉぉ!!」
「・・・は?」
レヴィ様?
「なんだお前、レヴィの部下か?」
「様付けしろぉ!!」
「おっと」
キュラーが俺の顔めがけて魔法を放ってきた。意外と速いなあいつ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだ小娘ぇ!!」
「あなたは何がしたいのですか!?」
「決まっているだろう、レヴィ様に手を出したその変態を抹殺するのだ!!」
「出してねえよ!!」
なんなんだこの面倒くさい男は!イツキさんより面倒くさいやつが来た!
「てか、あんたはこの場所と何か関係があるのか?」
「ふん、あるわけがなかろう!私は貴様を探すためにわざわざ人間の街に行き、どこに向かったのかを聞き出した。そしてここにたどり着いたというわけだ!!」
「へぇ」
ならもうどうでもいいや。
「はぷ──────」
うざいのでビンタしたらキュラーは飛んでいった。
レヴィの部下らしいから一応手加減はしたが、まあ死んでたらその時はその時だ。
「・・・」
「・・・」
「・・・何だったんでしょうね」
「さあ」
さて、調査を再開するかぁ。
「おのれぇ、ジークフリードォォォォ!!!!」
遠くからなんか聞こえる気がするけど、気のせいだと思う。




