第五十七話 古代都市やない、未来都市や
「シオン、大丈夫か?」
「は、はい」
「ったく、単独行動は駄目だぞー」
「ごめんなさい・・・」
よくわからん何かを殴り飛ばした俺は、後ろでしゅんとしているシオンに体を向けた。
「ほんとどうしたんだよ」
「そ、それは・・・」
言いにくそうに俯くシオン。これは、あんまり深追いしないほうがいいか。
「まあ、言いにくいんなら聞かないでおく」
「・・・」
なんだろう、気まずい。
なので俺は殴り飛ばしたものに近寄った。
「・・・やっぱ、ロボットだよなぁ」
転がってバチバチ音を立てているのは、どう見てもロボットだ。
ウォーリーに似てる。さがせのウォーリーじゃないぞ。
「この世界にも機械は存在するのか・・・?」
これまで1回も見たことは無かったけどな。
「・・・あの、ジークさん」
「ん?」
いつの間にか背後に来ていたシオンが声をかけてきた。
「それは、魔物なのですか・・・?」
「いや、これはだな────」
と、俺がロボットについて説明しようと思った時、突然砕けたロボットが発光した。
「っ!?」
眩い光は俺とシオンを包み込む。
「くっ、なんだ─────」
次の瞬間、俺は意識を失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・ん?」
身体がだるい。一体何が起こったんだ・・・?
「・・・あ」
そして、目を開けた俺が見たのは、街。
「嘘・・・だろ?」
いやいやいや、ありえない。なんでこんなものがこの世界に・・・。
「ぅ・・・ジークさん?」
後ろからシオンの声が聞こえた。しかし俺は目の前の光景に目を奪われていた。
「な、なんですか、ここ・・・」
俺の隣に来たシオンが目を見開く。無理もない、何故なら俺達が今いる場所は、『日本』の街中なのだから。
「は、はは・・・」
日本語で文字が書かれた看板がある大きなビルに、車。
バイクや自転車もある。けど、何かがおかしかった。
窓ガラスは割れてるし、自転車やバイクも倒れている。道路にはヒビが入っているし、崩れたビルもある。
まるで、漫画などでよく見る崩壊した未来の街のようだ。
「人は、いないのか・・・?」
「そのようですね・・・」
どういうことなんだ?俺達はあっちの世界に飛ばされたっていうのか?いや、まさか・・・。
「これが、古代都市・・・なんでしょうか」
シオンがそう言う。
この街があっちの世界から飛ばされてきたのか?ダメだ、全然意味がわからない。
「・・・とりあえず、探索してみるか?」
「は、はい!」
状況を理解するためにも、ここはどういった場所なのか確認しなければ。
そして、俺達は近くのビルに入った。シオンは見たことのない機械や文字を見て瞳を輝かせている。
そこで俺はあることに気がついた。
これまで、こっちの世界に来てから普通に言葉を理解出来てるし、文字も書けていた。
もしかしたら、転生する時に何らかの補正がかかったのかもしれないな。
「ジークさん、見てくださいっ!文字がいっぱい書かれた紙がたくさんありますよ!」
「え、あ、おお・・・」
シオンが指さしたのは、書類の山。目を通してみると、会社について色々と書かれていた。
「・・・ジークさん?」
シオンが俺を心配そうに見つめてきた。
「・・・シオン」
「はい」
「ちょっと、話がある」
「え・・・」
これは、話しておいたほうがいいかもしれない。ここが一体どういう場所なのかを。
それは、信頼出来るシオンにしか話せないことだ。
「俺は、ここがどういう場所なのか知ってるんだ」
「え?」
「初めてシオンと会ったとき、俺の故郷はずっと遠くにあるって言ったよな?」
「・・・はい、言っていました」
「ここは、俺の故郷のどこかだ」
「っ!?」
その発言にシオンはかなり驚いたようだ。
「どうして、そんな場所に、私達は・・・?」
「それは分からん。けど、その・・・」
一旦言葉に詰まったが、俺は覚悟を決めた。
「俺の故郷は、シオン達が住む世界とは、違う場所にあるんだ」
「・・・?」
「つまり、異世界にあるんだ」
俺がそう言うと、シオンは固まった。
「つまり俺は、シオン達の住む世界とは違う世界からやって来たってことだ」
「・・・そ、そんな」
彼女の体が揺れた。
「ここは、古代都市なんかじゃない。科学技術の進歩した異世界の都市だ」
「う、嘘ですよね・・・?」
「本当だ」
やっぱり、こんなこと信じてもらえるわけないか。言わないほうがよかったか・・・?
「じ、じゃあ、ジークさんは、その世界に帰ってしまうんですか・・・?」
「え?」
「ここは、ジークさんの故郷なんでしょう?ジークさんは、帰ってしまうんですか?」
よく見れば、彼女の目には涙が溜まっていた。
「わ、私が、勝手な行動を起こしたから・・・」
「ちょ、待て待て、泣かないで!?」
そして、とうとうシオンは泣き始めた。どうやら俺が日本に帰ると勘違いしているようだ。
「ぅ、うぅ、ごめんなさぁい・・・!」
「頼む、1回落ち着こう、な?」
誰か助けてくれ!
シオンが号泣するとこなんて初めて見たんだ!
てか、普通に俺の言ったことを信じてくれてるようで、なんだか嬉しくなった。
「帰るつもりはないから!てか帰れないし!」
俺は向こうで死亡してこの世界に転生した。だから向こうで俺は死んだことになってるはず。
そんな状況で向こうに戻ったらどうなることやら。
「ほ、本当ですか・・・?」
「ああ、本当だ!」
とりあえず彼女を落ち着かせるために頭を撫でてやる。くそ、こんな時にどうしたらいいか分からん。
「ぐす、すみません、取り乱しました・・・」
「お、おう・・・」
「でも、驚きました。ジークさんが違う世界から来た人だったなんて・・・」
「それを疑わないのか?」
「え、何でですか?ジークさんがそんな嘘ついたりしないこと、分かってますよ」
「・・・シオン」
本当に疑われてないんだな。それだけ信頼してくれるほどのことを俺はやった覚えが無いんだけど。
「そうか」
なら、文字のことや、機械のことも、シオンになら話せそうだ。そう思って俺は隣にあった椅子に腰掛けた。




