第五十四話 もはやただのリア充
「・・・」
「にゃあ」
「ふふ、可愛いヤツめ」
現在俺とエステリーナはペットショップ的な場所を訪れている。そこでエステリーナが猫を抱いているのだが、エステリーナが可愛くてどうしようもない。
いかんいかん、変に意識してしまっている。
「コホン、エステリーナは猫が好きなのか?」
「ああ、昔から動物が好きで、その中でも猫が一番だな」
そう言って猫を抱きながら笑みを浮かべるエステリーナ。くそ、猫が羨ましい・・・。
「ジークは動物だとどれが好きなんだ?」
「俺?そうだなぁ・・・」
これといって好きな動物はいないんだよなぁ。まあ、動物の中だと・・・。
「俺も猫かな」
「っ、やっぱり猫が一番だな!」
そう言って彼女は嬉しそうに笑う。それだけで俺の胸は高鳴った。
「ジークも撫でてみたらどうだ?」
「おう」
頷き、エステリーナが抱いていた猫を受け取ろうとしたのだが。
「にゃあっ!!」
噛まれた。引っ掻かれた。逃げられた。
「・・・」
「・・・」
「やっぱり犬の方が好きかもしれない」
「ジークっ・・・」
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なんだろう、道行く男性全員に舌打ちされてる気がするんだが。しかも明らかに俺に対して。
「・・・」
チラリと隣を歩くエステリーナに目をやる。そりゃこんな美少女と一緒に歩いてたら、睨まれたり舌打ちされたりするか。
「そうだ、家には戻らなくていいのか?」
「ん?」
突然エステリーナにそう言われた。
「あ、今日俺飯当番だった」
危ない、忘れてた。
「ごめん、今日は付き合わせてしまって・・・」
「いやいや、俺も楽しかったし」
「そうか、それは良かった」
さて、そろそろ帰るとしよう。
と、俺がそう思った時。
「ど、泥棒だあ!!」
「ん?」
突然叫び声が聞こえた。そして俺達の目の前を男が駆け抜けていく。
「あいつか」
俺は地面を蹴り、逃走する男を後ろから地面に押さえ込んだ。
「ぐえっ!?」
「大人しくしてろ」
そんな光景を見たギャラリーが歓声を上げる。
「ジーク!」
「エステリーナ、さっき叫んでた人に泥棒捕まえたって報告してくれ」
「いや、その前にこちらから報告だ!泥棒はそいつの他にも2人いたらしい!」
「なに?」
複数犯ってわけか。
「あの、すんません。こいつ取り押さえといてもらえます?」
「あ、ああ、分かった」
とりあえず近くにいた男性に声をかけ、泥棒を引き渡した。
「さて、ギルドに届けられた依頼じゃないけど、いっちょやるか、泥棒捕獲」
「ああ、やろう」
まだ遠くには逃げてないだろう。ギャラリーに行方を聞きながら追いかけるとしよう。
「ジーク、一旦別れよう。それぞれ1人ずつ追った方が効率が良い」
「了解!」
頷いて俺は勢いよく跳躍した。そして泥棒だ、と叫んでいたおっさんの目の前に着地する。
「泥棒はどこに?」
「え、ジークフリード!?ほ、ホンモノだ・・・、握手してください」
「はいよ。んで、どこに?」
「あっちだ」
「さんきゅー」
そして再び跳躍する。
1人目はすぐに見つかった。俺はそいつの目の前に着地し、そのまま服を掴んで地面に叩きつける。
「ぐがっ・・・!?」
「観念しろ」
さて、あと1人だ。
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「待て!!」
一方その頃、エステリーナはもう1人の逃走犯を追っていた。
「ちっ、しつこい女だ!!」
そんなエステリーナに向かって逃走犯は時折魔法を放ったりするが、エステリーナには当たらない。
「っ、くく、鬼ごっこは終わりだ!」
「む・・・?」
突然逃走犯が立ち止まる。
「ようやく逃げるのをやめたか。大人しく捕まる気になったか?」
「馬鹿が、周りをよく見ろ」
そう言われ、彼女は周囲を見渡す。いつの間にか数十人の男達にエステリーナは包囲されていた。よく見れば屋根の上などにもいる。
「はははは!!俺達は《赤の盗賊団》!!このストーカー女め、ここで殺してやる!!」
「誰がストーカー女だ!」
どうやらここで仲間達が待っていたらしい。エステリーナは応戦するべく魔剣を抜こうとした。
「・・・あ」
しかし、今日は魔剣を自宅に置いて来てしまった。つまり彼女は丸腰だ。
「そら、やっちまえ!!」
仕方がない。エステリーナは炎魔法を唱えようとしたその直後、盗賊達が一斉に吹っ飛んだ。
「おいおい、女の子相手に何人でやるつもりだよ」
「あ、ジーク・・・」
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「すまない、わざわざ手間をかけさせてしまって・・・」
「おう、気にすんな」
あの後盗賊団をぶっ飛ばし、無事泥棒を捕まえた俺とエステリーナは、ギルドに戻った。
「それに、盗賊達を捕らえたお礼を全て私が受け取るというのはやっぱり・・・」
「だめだ、受け取ってくれ」
「むぐ・・・」
しばらく説得すると、エステリーナはお礼を受け取ってくれた。
「今日はエステリーナの私服姿も見れたし、それで十分だ」
「な・・・」
一瞬で顔が赤くなるエステリーナ。
「あー、そうだ。これを」
「え、これは・・・?」
俺はエステリーナに紙袋を手渡した。
その中に入っていたものを取り出し、エステリーナは目を見開く。
「日頃のお礼ってことで」
「ジーク・・・」
俺が渡したのは髪留め用のリボン。
「髪留め的なやつに使ってくれ」
「・・・ありがとう」
それを見つめながら、エステリーナはふわりと微笑んだ。そして早速そのリボンで後ろ髪を束ねる。
「大事にするよ」
「お、おう」
だめだ、可愛すぎな。
「そ、そろそろ帰るな。また明日」
ちょっと自分の顔がどうなってるか分からないので、俺は逃げるようにその場から離れようとした。
「ジーク!」
しかし、後ろから名前を呼ばれたので振り返る。
「今日は本当にありがとう。楽しかった」
「っ・・・」
笑顔が、素晴らしいですね。
今日一日で俺はかなりエステリーナを意識してしまった。しかも魔闘祭の時にキスされたことも思い出す。
「お、俺もだ、じゃあな!」
多分俺は顔が真っ赤になってると思うので、手を振ってその場をあとにした。
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ジークがギルドから去った後、
「・・・」
男達は嬉しそうに後ろに手を回してリボンを触るエステリーナを微笑ましく眺める一方、ジークをどうやって地面に埋めるかを考えていた。




