第五十三話 デート(仮)
憤怒の魔神サタンと、怠惰の魔神ベルフェゴール率いる帝国軍を撃退してから早二週間。
王都はいつも通り活気に溢れていた。
「古代都市?」
「ああ、ギルド協会はその場所を新たな迷宮と認定したらしい」
俺の前にいるエステリーナが目を輝かせながらそう言う。
彼女、迷宮のことになるといつもこうなる。
「で、そこに行ってみたいと?」
「な、どうして分かったんだ!?」
「顔に出てる」
「え・・・」
エステリーナの顔が赤くなる。意識せずに目を輝かせていたんだろう。
「す、すまない・・・」
「いや、俺としてはそんな表情をいつまでも眺めていたいと思っていたんだが」
「へっ・・・!?」
俺の発言を聞いて慌てるエステリーナ。こう、いつもと違う感じがたまらんよね。
「まあ、行くのは全然いいぞ」
「本当かっ!」
また目を輝かせるエステリーナ。それを見た周囲の男性諸君は鼻の下を伸ばしていた。
「シオン達にも言っとくよ」
「そういえば、みんなは来ていないのか?」
「おう。シオンとレヴィはまだ寝てる。シルフィは掃除用具を買いに行くんだとさ」
「前も掃除用具を買ってなかったか?」
「レヴィの魔女っ子遊びのせいで折れたり砕けたり・・・」
「何があったんだ!?」
もう二度とあの魔神に魔女っ子遊びはさせない。
「じゃあ、明日にでも行くか」
「ああ、そうしよう」
「んじゃ、一旦家に戻るわ」
とりあえず準備だけしておこう。そう思って俺は立ち上がった。
「あ、待って・・・」
「ん?」
しかし、後ろからエステリーナに呼び止められる。
「どうした?」
「よ、よかったら、このあと買い物でもしないか?」
「買い物?いいけど」
準備は別に夜にでもやればいいし。
「ちょ、ちょっと待っていてくれ!」
「おう」
何故かエステリーナはギルド長室に向かって走っていった。リリスさんも連れてくんのかな。
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「買い物に誘えました!」
「あらまぁ、勇気を出したのね」
エステリーナは、ギルド長室に駆け込むと嬉しそうにそう報告した。リリスはまるで成長した我が子を見るような目でエステリーナを見つめる。
「それって2人きりよね?」
「はい」
「デートじゃない」
「っ!で、デート・・・」
リリスにそう言われ、エステリーナは顔を赤らめた。
「・・・なるほど、普段凛としてるあんたにそんな表情されるジーク君も大変ねぇ」
ジークもこのギャップにやられてしまっている。
「まあ、楽しんできなさいよ」
「もちろんです!」
そして、エステリーナはギルド長室から出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(ジークとデート、ジークとデート・・・うぅ)
隣でエステリーナの顔が真っ赤になっていることには気が付かず、俺は王都を歩いていた。
今日も賑やかだなぁ。
「それで、何を買うんだ?」
「え、あ、そうだな。服でも買おうかな!」
「了解」
何故顔が赤いのかは知らないが、エステリーナは服が買いたいようだ。
「いらっしゃいませー」
しばらく歩き、俺達は服屋に入った。俺はあまり服に興味が無いので、エステリーナの服選びに付き合うことにした。
「うーん、普段あまりこういった服を着ないから、何が似合うのか分からないな」
「エステリーナなら何着ても似合うだろ」
「え・・・」
「ほら、これとか似合うんじゃないか?」
そう言って手に取った服を手渡すと、エステリーナはそのまま試着室に駆け込んで行った。
そしてしばらく待っていると、中からエステリーナが出てきた。
「ど、どうだ・・・?」
「これはっ・・・!!」
普段髪を括っているエステリーナが、髪を下ろしている。それだけでかなり印象が変わった。
さらにいつもは防具などを装備している彼女が女の子らしい服を着ている。
「・・・ジーク?」
「はっ!危ない危ない、思わず見惚れてしまった」
「見惚れっ・・・!?」
顔を赤らめて俯くエステリーナ。もう完全に恥ずかしがり屋な美少女にしか見えない。
「最高ですね。500点」
俺がそう言うとエステリーナの顔はさらに赤くなった。そんな光景を見て男の店員や男の客が俺を睨んだり舌打ちしていたことを俺は知らない。
「これを買うことにする!」
「え、まだ1着目・・・」
「店員さん、これをください!!」
だめだ、行ってしまった。どうやらあの服が気に入ったようだ。
そして少し待っていると、服を買い終えたエステリーナが駆け寄ってきた。
この国は別に着替え直してから購入しなくてもいいようだ。
「ごめん、待たせた」
「待ってはいないけど・・・」
うわぁ、可愛ええ・・・。カーディガンにロングスカート可愛ええ・・・。
「と、とりあえず外いくか」
「あ、ああ・・・」
互いに顔を赤らめながら、俺達は服屋から出た。




