第四十九話 怒りの鉄槌
火山から飛び出した俺は、まずわらわらいた帝国軍をあらかた蹴散らし、おぞましい気配を感じる北に向けて跳躍した。
そこで目にしたのは、壁の何倍も巨大な化物が、エステリーナに向かって拳を振り下ろすところ。
俺はそのまま着地と同時に拳に向かって跳び、魔力を纏った拳で思いっきり殴った。すると拳は跡形も無く吹き飛び、化物は攻撃をやめた。
・・・魔神サタン。
こいつがおそらくあの火山を造り出した魔神だろう。
『ま、まさか貴様、例の人間か!!』
「あ?」
『魔神を二度も撃退したという、ジークフリードという男か!!』
「おう、そうだけど」
声でけーな、身体がでかいからか。
いちいち耳に響く。
「あんたがあの迷宮火山を造ったのか?」
『・・・そのとおりだ。貴様をおびき出すためにな』
「やっぱりか。邪魔だったから?」
『ああ、用があったのはレヴィアタンだけだからな』
「レヴィアタン?」
なんでそこでレヴィの名が出てくる。
『我は一度、あの小娘と戦ったことがある。しかし、我は生まれて初めて敗北してしまったのだ』
「ん?おお・・・」
『あの時から我は怒りが収まらぬ。それと同時にこの《憤怒》の力は更に進化した。あらゆるものを破壊する怒りの鉄槌へと!!』
「ふむ・・・」
つまり、レヴィに負けたことで更にパワーアップしたってことか。
『今こそ我が宿願を果たす時、邪魔をするな人間』
「いや、するけど」
『ならば、跡形も無く消し飛ばしてくれる!!』
次の瞬間、サタンの腕が再生した。
「うお、まじか」
『ふはははは、我が怒りは無限の再生力となる!!』
「ごめん、意味わからん」
『死ぬがいい!!』
サタンが腕を振り上げた。しかし、遅い。
『──────あ?』
「隙だらけだな。そりゃレヴィにも負けるっしょー」
消滅した自分の腕を見て、サタンは動きを止めた。
『貴様、今なにを─────』
「殴っただけ」
魔力を纏うと、ここまで強くなれるのか。レヴィの一撃を消し飛ばした時もそうだけど、これからは積極的に使っていくか。
あ、そうだ。ステータス確認しとこう。
そう思って俺は巨大なサタンをじっと見つめた。
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~憤怒の魔神サタン~
★ステータス★
レベル:340
生命:7000
体力:5000
筋力:8700
耐久:6800
魔力:7430
魔攻:6310
魔防:4000
器用:150
敏捷:2890
精神:239
幸運:460
★固有スキル★
・無し
★装備★
不明
不明
不明
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へえ、レヴィよりレベル高いのか。
筋力とかやばいな。
と、そんなことを思っていた時、
『この、人間めがぁぁぁ!!!』
再生した腕をサタンが振るった。真横から殴られ、俺はものすごいスピードで王都の壁にぶつかり、突き破る。そのまま地面に激突し、何度も何度もころがり、最後に反対側の壁にぶつかってようやく止まった。
「ってぇ〜」
自分のステータスを確認してみれば、生命が1000減っていた。
さすがは魔神、破壊力が凄まじいな。
「中々やってくれるじゃねえの」
なら、手加減は無用だな。
俺は脚に魔力を纏い、勢いよく跳んだ。
『─────あ?』
「うおっ、速」
目にも止まらぬ速さで俺はサタンのところへ戻る。
『ば、馬鹿な、何故生きて────』
そして、俺は突き出された腕に踵落としを繰り出した。衝撃がサタンの腕を破壊する。
『ガァァアア!?』
「よっと」
着地した俺は叫ぶサタンに顔を向けた。
ちっ、また再生しやがった。
『許さん、絶対に許さんぞ!!これまで感じたことのない怒りが我が内を支配している!!』
「ふむ」
『我が罪は憤怒!!この怒りは我が魔力となりて全てを破壊するのだ!!!』
サタンが両手を振り上げた。そして魔力が集まっていく。
「うっ、あれは・・・」
それを感じ取ったエステリーナが青ざめた。これまで奴はただ腕を降ってただけ。
これから放たれるのは、魔力を纏ったいわば《魔法》。
『我が怒り、その身をもって知るがいい!!!』
「じ、ジークっ!」
さすがにこれはまずいと思ったのか、エステリーナが心配そうに俺を見てきた。
「大丈夫だ、俺を信じろ」
「ジーク・・・」
そう言ってやると、彼女は若干頬を赤らめた。なんでや。
『滅びよ、《天穿つ憤怒の鉄槌》!!!』
「さて、やるか」
サタンが両手を振り下ろしてきた。対して俺は全身に魔力を纏い、勢いよく跳んだ。
『馬鹿め、わざわざ死にに来たか!!』
「なーに言ってんだ、今からやんのはお前ら魔神を殺すための一撃だッ!!」
『なに─────』
俺は拳を握りしめ、迫る巨大な腕に向かって突き出した。
そして、巨大な拳と小さな拳がぶつかり合う。普通なら絶対に巨大な拳の方が競り勝つだろう。
「どうせなら技名とか欲しいよな」
しかし、俺の拳はサタンの拳を砕いていき─────
「まあ、後で考えればいいか」
両腕を跡形も無く消し飛ばした。
『あ、が・・・!?』
「さて、これで終いだ」
一度地面に着地した俺は、無防備になったサタンに向かって跳び上がる。狙うは顔面、もう再生などさせない。
『や、やめろ、我は絶界の十二魔神だぞ!?貴様ごとき虫けらに負けるはずが──────』
「その虫けらに負ける気分はどうだ?」
俺は再び拳に魔力を集め、
『やめろおおおおおおおお!!!!』
「じゃあな、魔神サタン」
巨大な顔面を勢いよく殴りつけた。その衝撃でサタンの顔面は吹き飛び、身体が大きく揺らぐ。
「に、逃げろ!!」
冒険者や王国兵達がそう叫ぶ中、サタンは仰向けに倒れた。そして、その身体は細かく分解されていき、消滅した。
「お、レベルアップか」
久々にこの感覚を味わった気がする。
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~ジークフリード~
★ステータス★
レベル:445
生命:7800
体力:9999
筋力:9999
耐久:8700
魔力:9999
魔攻:6400
魔防:5900
器用:3300
敏捷:6800
精神:1200
幸運:-7700
★固有スキル★
・超力乱神
筋力を+5000する。
・全属性適性
全属性の魔力を扱えるようになる。
・状態異常無効化
全状態異常を無効化する。
・超不幸
幸運-7700
・能力透視
相手のステータスを見る事が出来る。
★装備★
流行りの服
快速の靴
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だいぶ上がったな・・・。
てか、流行りの服て。確かにそのへんで買った服だけども。
「ジーク!」
「ん、終わったぞ」
「うん、お疲れ様」
自分のステータスを確認していると、エステリーナやその他の人達が駆け寄ってきた。
「流石は我々の英雄だ!」
「その力は本物だ!」
などと冒険者や王国兵達が口々に言い始めたのでちょっと恥ずかしい。
「どこか怪我はしていないのか・・・?」
「いや、大した怪我じゃない。俺としてはエステリーナのほうが心配なんだけど。膝擦りむいてんじゃん」
「え、あ・・・」
よく見ればエステリーナの膝からは血が出ていた。
「女の子なんだから、跡残ったら嫌だろ?ちゃんと消毒とかしとけよ?」
「あ、ありがとう・・・」
何故か顔を赤らめて俯くエステリーナ。なんか変なこと言ったか?
「なるほどな、貴様は少々天然なところがあるようだ」
「え?」
イツキさんが俺の肩を叩いてそう言った。どういう意味だ?
「ふーむ、最近では少し貴様のことを認めているし、兄としては複雑だな」
「何言ってんすか?」
よく分からんけど、俺は報告しなければならないことを思い出した。
「そうだ、イツキさん。南の方に帝国軍居ましたよ」
「なんだと・・・?」
「でも、あっちは大丈夫そうです。騎士団が押し返してましたし」
「そうか・・・」
「問題は、そこに魔神が居なかったということです」
俺がそう言うと、イツキさんは真剣な表情になった。
「どういうことだ?」
「帝国と手を組んだ魔神ベルフェゴールが居なかったんです。帝国軍を率いているのかと思ってんですけど」
「ふむ・・・」
魔神の気配はサタンのものしか感じなかった。ということは、魔神ベルフェゴールはここに来ていないのだろうか。
「まあいい、一旦王都に戻って状況を報告した後、南の騎士団に合流──────」
そう言ってイツキさんが歩き出した時、
「ッ──────」
感じた。
王都の中から、ケタ違いの魔力を。
「い、今のは・・・!」
どうやらエステリーナ達も感じ取ったらしい。
「ちっ、まずいな。イツキさん、あとは頼みます!」
「ああ、後で追いつく!」
「了解!」
まさか、このタイミングで、しかも王都の中に出現するとは。
俺は勢いよく地面を蹴り、王都の中へと疾走した。




