第四十八話 憤怒の魔神
「くっ、なんという数だ・・・!」
王国騎士団団長であるロキは、迫り来る帝国軍を見つめながらそう言った。
今南にいる王国騎士団は総勢3000名。
対する帝国軍は、その倍以上の大軍だ。
「それに、《帝国魔導軍》もいるみたいですね」
ロキの隣に立つライラが言う。
「とにかく、奴らに王都は蹂躙させん」
ロキが剣を抜き放ち、天に掲げた。
「誇り高き王国騎士団よ、大切なモノを守るため、死ぬ気で戦え!!帝国に我らの想いの力を見せつけろ!!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
「全軍突撃!!!」
そして、戦いが始まった。
初めは王国騎士団の方が優勢だった。しかし戦力差の前にじわじわと兵力を削られていき、徐々に追い詰められ始める。
「はああっ!!」
馬に乗りながらロキが剣を振るう。
それにより数名の帝国兵が吹っ飛んだ。
「どうだ!!」
「団長、お下がりください」
「む────」
突然無数の魔法がロキに降り注いだ。しかしそれらがロキに当たる直前、何者かが結界でそれを防ぐ。
「ライラ、助かった!」
「いえ、この程度なら全て捌き切ることは出来たでしょう」
「まあ、そうだが」
ロキが顔を向けた方には魔法を詠唱する兵士達がいた。
「厄介だな、魔導軍」
「そうですね、このままでは・・・」
ロキは拳を握りしめた。
彼は王国でもかなりの実力者だ。彼が知っている中で、彼に勝てるのはイツキとリリスぐらいだろう。
しかし、これだけの大軍を相手にするのはさすがに分が悪かった。
「だ、団長!《鋼鉄》の騎士団が・・・!」
「何・・・!」
どこからか聞こえた兵士の声。
顔を向ければ帝国兵に取り囲まれている騎士団が僅かに見えた。
「くそっ!!」
間に合うかは分からないが、ロキは馬を走らせた。
それと同時に帝国兵達が一斉に動き出す。
「な、しま─────」
帝国兵達は、迫るロキに方向転換すると、あらゆる方向から一斉に攻撃を開始した。
初めからこれが狙いだったのだ。
「団長!!」
後ろからライラの声が聞こえるが、もう遅い。
これから来るであろう激痛に備え、ロキは歯を食いしばった。
次の瞬間。
「ぐっ!?」
「ぎゃああっ!!」
ロキの周囲にいた帝国兵達が全員吹っ飛んだ。
「なっ・・・!?」
よく見れば、ロキの前にはいつの間にか黒髪の少年が立っていた。彼が今何かをしたのだろうか。
「き、君は─────」
ロキが少年に声をかけようとした直後、少年の身体がぶれ、消える。
その直後、あらゆる場所で帝国兵が一斉に宙を舞った。
「なぁっ!?」
一体何が起こったというのか。
今の一瞬で、恐ろしい数の帝国兵達が倒れたのだ。
急いで周りを見渡すが、すでに少年は居なくなっている。
「っ、今が好機だ!一気に押し返せ!!」
だが、今は彼を探している場合ではない。
帝国軍に隙ができたのだ。ロキはそれを逃さない。
「一体・・・何者だったんだ?」
一気に形勢が逆転したことを感じながら、ロキは一人呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ、はあっ・・・」
「大丈夫か、エステリーナ」
「ああ、勿論だ」
魔物達をあらかた殲滅した北の防衛組は、残った巨人を包囲していた。
「あとは、このデカブツだけだが」
イツキが大剣に炎を纏わせる。
「一斉攻撃で仕留めるとしようか」
そして、炎を空に向けて放った。それは攻撃開始の合図となる。
「消えろ、化物めが!!」
あらゆる場所から攻撃が放たれた。
しかし、
『ふん、何がしたいのだ?』
「っ!?」
巨人は無傷だった。さらに重い声を発する。
『ああ、わざわざ我に怒りを与えてくれるとはな。馬鹿な虫共よ』
「う、うぅ・・・」
その声を聞き、エステリーナが震える。イツキは額に汗を滲ませた。
「貴様、何者だ・・・?」
『我はサタン。絶界の十二魔神の一人にして、憤怒を司る魔神』
それを聞き、巨人を囲っていた兵士や冒険者達が硬直した。
魔神。
その二文字だけで彼らに絶望を与える。
『ああ、鬱陶しい、目障りだ。貴様らの相手などするつもりもなかったというのに』
「何が目的だ・・・?」
そんな中、声を発することが出来るのはイツキただ一人だった。
『レヴィアタンはどこだ』
「っ!?」
それを聞いてエステリーナは目を見開いた。
『奴を殺さない限り、我のこの怒りは収まらない』
そう言って拳を振り上げた魔神サタン。
『邪魔をするのなら、容赦無く消してやろう』
「っ、まずい、全員逃げろ─────」
イツキがそう叫んだが、もう遅い。
振り下ろされた拳は大地を砕く。
「ぐあああっ!?」
「うああぁ!!」
イツキとエステリーナは咄嗟に防御体勢をとったが、衝撃波で吹き飛ばされる。
『・・・ふん、他愛ない』
だだ、地面を殴った。
それだけで約半分の人間が死んだ。
「あ、ありえない・・・」
ガタガタと震える腕を押さえながら、エステリーナは巨人を見た。奴は、正真正銘の化物だ。
レヴィと戦った時とはまた違った恐怖が彼女を襲っていた。
『もう一度言おう。レヴィアタンはどこだ』
ゆっくりと王都に迫りながら、サタンが再びそう言う。
『・・・まあいい、虫けら共の住処ごと消し飛ばしてやるというのも良いものだ』
「なっ・・・!」
このままでは、王都が・・・。
エステリーナは恐怖を抑え込みながら、立ち上がった。
『・・・何のつもりだ?』
「私達の大切な場所に、大切な仲間に手出しはさせない!!」
『ほう・・・?』
サタンはエステリーナを見て、さらに怒りが沸き上がってくるのを感じた。
『虫けら如きが、よくほざく』
拳を振り上げる。
「っ・・・!!」
『ならば、死ね』
そして、振り下ろされ、迫る巨大な拳から目を逸らすように、エステリーナはきつく目を閉じた。
しかし、その拳が地面を砕くことはなかった。
『っ──────』
何故なら、振り下ろされた拳は跡形も無く消し飛んでいたから。
「っとぉ、なんとか間に合ったか」
「ぁ・・・」
恐る恐る目を開ければ、自分に背を向け、サタンと向き合っている黒髪の少年が立っていた。
『ぐっ、貴様、何者だ!!』
「さてな。そう言うお前は魔神サタンか」
少年の背は、何故か超巨大なサタンよりも大きく見える。
「ジークっ!!」
自然と、エステリーナは笑顔になった。
それはイツキも、無事だった冒険者達も同じだ。
「待たせたな、あとは俺には任せとけ」
現れた少年ジークは、振り返ると、にっと笑った




