第四十六話 繋がる
「うおおおっ!!」
クラウンが魔物に向かって槍を投げる。
「《見えざる念力の壁》」
「ゲッ!?」
リザードマンのような魔物はその槍から逃げようとしたが、アカリが造り出した透明の壁に阻まれ、動きが止まったところを槍に貫かれた。
「うおお・・・」
すごいコンビネーションだ。シオンやシルフィもこういった動きができるようになれば、もっと戦闘の効率が上がると思うんだけど。
「いやー、ここの魔物強いね」
「・・・Sクラスだからね」
戦闘を終えた二人がこっちに向かって歩いてきた。
「お疲れさん」
「・・・へーい」
「へーい」
とりあえずアカリとハイタッチすると、無表情だけどものすごく満足したんだということは伝わってきた。
「てか、すごいな二人とも。このレベルの敵相手にナイス連携プレーだ」
「はは、レベルはそこまでだけどね」
それでも、ステータスの低さなどをカバー出来てるし。
「・・・フロアボスを一撃で戦闘不能にした男にそう言われると、光栄であります」
「ん、おお・・・」
なんか敬礼してきた。何この子可愛い。
「おっ、今アカリのこと可愛いって思ったでしょ」
「なにぃ、娘はやらんぞ!」
「・・・娘じゃない」
「貰わない」
はは、なんだこのめんどくさい漫才は。
とりあえずガルム怖い。どっかの妹loveさん並に怖い。
「まあまあ、で、そろそろフロアボスが出てくるんじゃない?」
クラウンが周囲を見ながらそう言う。確かに、あれから結構降りたし。
あ、ちなみにこの迷宮は下に降りるタイプでした。絶対登るタイプなんだと思ってたんですけどね。見た目に騙されましたね。
「・・・結構のぼったよ」
「そうだよねぇ」
「・・・ジーク、おんぶしてー」
「暑いから嫌です。ガルムに言いな」
「・・・ガルムはやだ」
「ガーーーーン!!」
わかり易く膝から崩れ落ちるガルム。どんだけアカリのこと好きなんだよおっさん。
「っと、静かに」
クラウンがそう言って伏せた。
彼の視線を追うと、向こうに巨大な魔物がいるのが見える。
「フロアボスか」
ガルムが剣を握って笑う。
「・・・鬼みたい」
アカリがぽつりと呟いた。確かに、なんか鬼みたいだ。
「とりあえず、俺が行くよ」
そう言って俺は立ち上がると、向こうで歩き回ってる鬼のもとに向かった。
「ガア?」
「へい、そこの鬼。ちょっとじっとしろ」
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◆◆WARNING WARNING◆◆
――――フロアボス――――
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〜シュラ〜
レベル70
生命:4200/4200
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そしてステータスを覗き見る。とうとうレベル70台が出てきたか。
「グルアアア!!」
「うるせーな、黙れよ」
振り下ろされた巨大な金棒を片手で受け止めると、鬼は目を見開いた。
「グア──────」
自慢の一撃を受け止められて怒っている鬼が再び金棒を振りかぶったので、脚を思いっきり蹴った。
その衝撃で鬼の右脚が吹き飛ぶ。
「ギャアアアッ!?」
「うるせえよ」
そして倒れてきた鬼の顔面を殴った。たったそれだけて鬼はもう瀕死状態になっている。
「・・・どっちが鬼か分からないね」
「それは見た目のこと言ってんのか?」
「・・・そう」
「なんでだよ!」
とりあえず寄ってきたアカリに軽くチョップしておく。
「ったく、まだ生きてるから、あとはお好きに」
「あんがとよ。でも、なんでトドメをささねえんだ?」
「まあ、ほとんどレベルが上がらないといいますか・・・」
そんなことを聞いてきたガルムを押しのけ、
「ジークは今レベルなんぼ?」
クラウンがそんなことを聞いてきた。
「420」
「え?」
まあ、そうなるわな。
「いやいやいや、それは嘘でしょ!」
「まあ、別に信じてもらおうとは思ってねーし」
シオンとかは信じてくれてるし、それで十分だ。
「けど、確かに兄ちゃんは強いしなぁ」
「・・・ジークは嘘ついてない」
「だよなぁ」
ガルムとアカリはちょっと信じてくれてるのかね?
「とりあえず、誰かその鬼退治したら?」
「そうだね、じゃあ僕が─────」
「《見えざる念力の手》」
アカリが魔法を唱え、周囲の岩をものすごいスピードで鬼にぶつけた。それにより鬼は死んだ。
「あああああ!?」
「・・・鬼退治、完了だね」
その直後、ドヤ顔のアカリが光に包まれた。
どうやらレベルアップしたらしい。
「6も、上がった」
「まてまて、強くなりすぎでしょ!?」
「まあ、俺はアカリが強くなればなるほど嬉し───」
「うるさいロリコン!」
「誰がロリコンだ!」
なーんてやりとりをし始めた三人をスルーして、俺はここに来た目的であるものを探し、周囲を見渡した。
「・・・」
魔神ベルフェゴール。どんな容姿をしてるのかは分からんし、どんな能力を使うのかも分からん。
けど、俺の大切な仲間を傷つけたんだ。絶対見つけ出してぶん殴る。
「ちっ、どこにいやがる」
ここには居ないのか?だったら、この迷宮は誰が造った?
いや、自然に出来上がったのか?
そうだとしても、こんなデカイ火山が急に出現するってのはかなり異常だと思─────
「・・・まさか」
そうだ、思い出した。
あの時、リリスさんはなんて言ってた?レヴィはなんて言ってた?
『新情報追加よ。絶界の十二魔神の一人が帝国と手を組んだらしいけど、もう一人動き始めたわ』
『え、誰が────』
『絶界の十二魔神がよ』
『ここから西に5kmの地点に魔神の反応』
『さっき感じたのは、《七つの大罪》の憤怒を司る魔神サタンの魔力だよ』
帝国と手を組んだのが、レヴィと戦った魔神ベルフェゴール。
そして、独自に動きだしたという魔神がもう一人。
レヴィが感じ取った魔力の主、魔神サタン。
そして、突然壊滅状態に陥ったという街。
もしかしたら、ここは魔神サタンの方が造り出した迷宮なのか?
でも、何のために?レヴィの時のように俺をおびき出そうとしているのか・・・あ。
まさか。
レヴィは言っていた。
『サタンはとっても大きな魔神なの。王都を囲んでる壁よりも遥かにね』
『そんな魔神が、一瞬で姿を消すことなんて不可能なはずなんだけどなぁ・・・』
もし、その巨大だという魔神が、その巨体ごとどこかへ移動させることが出来る魔法を使えるとしたら。
あの時に魔物を率いて王都を攻めようとしたサタンが俺とレヴィの気配を感じ取ってその魔法を使用して、レヴィの魔力サーチが届く範囲から離脱したのだとしたら。
そして王都に俺達がいることを知ったサタンがこの火山を造り出し、俺達が調査に来た時に魔法で王都に移動したのだとしたら。
「でも、そうだとしたらベルフェゴールは何のために王都に来たんだ?」
気づかれないうちに王都で何かをしようとしていたのか?
レヴィがいなかったら、あの夜王都がどうなっていたかは分からない。
今は、それよりも・・・。
「・・・どうしたの?お腹痛い?」
「・・・いや」
俺の背中を擦りながらアカリがそう言う。
「・・・みんな、一旦ここでお別れだ」
「え?」
「ちょっと王都がやばいかも知れない。だから俺、王都に戻る」
もし、俺がここにおびき出されたのだとしたら。
「また機会があったら王都に来てくれ、じゃあな!」
「あ、ちょ・・・」
俺はそのまま地面を蹴り、火山の上から飛び出した。




