第四十二話 レベルアップ作業
「そりゃー!」
「・・・」
「てりゃー!」
「・・・」
「おりゃ───」
「まて、今からお前が戦闘に参加することを禁止する」
「ええっ!?」
新たに発見された迷宮に潜ること約10分、さっきから現れる魔物は全てレヴィが水魔法の餌食にしていた。
そのせいでシオンとシルフィのレベルアップ作業を行うことが出来ない。
「じゃ、じゃあ何すればいいのさ!」
「壁でも殴っといたら?」
「あはは、キチガイになれと?」
その通りであります。とりあえずこのチビ魔神にはあっちに行っといてもらって・・・。
「とりあえず、次の戦闘はシオンとシルフィの二人で頑張ってくれ」
「了解です、ご主人様」
「分かりました」
おっと、どうやら敵が来たようだ。コウモリがでかくなったみたいなやつらの群れが。
「ふむ、ウォーバットの群れか」
「知ってんのか?」
「ああ、一度噛み付かれると血を吸い尽くすまで離れないと言われている魔物だ」
・・・え?それってやばくないですか?
「さすがはAクラスの迷宮というわけか。出てくる魔物もかなり強いものばかりだ」
魔剣を磨きながらエステリーナがそう言った。あんなのをシオンとシルフィだけに任せても大丈夫なのだろうか。
「いきます」
しかし、心配は無用だった。
シルフィが魔力の糸を迫るウォーバット達に絡め、勢いよく引っ張る。どうやら糸はシルフィの指に巻かれているようだ。
それによって数匹のウォーバットは全身を引き裂かれて地面に墜落した。
さらに糸を躱したウォーバットは、シルフィのダガーによる攻撃で命を散らしていく。
「ウインドカッター」
シオンの方は、迫るウォーバット達を次々と風魔法で攻撃していた。
「ウインドパルス」
「ギギャッ!?」
放たれた風魔法には、僅かな電気も含まれていたらしく、ウォーバット達は痺れて地面に落ちていく。
「うひゃー、さすがだな」
「シオンも、レベル以上の実力を発揮出来ている」
「おっ、どうやら終わったみたいだ」
現れた危険生物ウォーバットは、数分で二人の少女の手によって全滅してしまった。
そして、シオンの身体が光に包まれる。
「3レベルも上昇しました・・・」
「おお、やったな!」
これで確かシオンのレベルは30になったはずだ。
「この調子でどんどんレベルアップしていこうぜ」
「はい」
相変わらず無表情だが、どこか嬉しそうなシオンの頭を撫で、俺は向こうで壁と戦っているレヴィに顔を向けた。
「げっ・・・」
レヴィが壁を殴れば、壁は粉々に吹っ飛ぶ。彼女はそれをひたすら繰り返していた。
あんな見た目でも一応魔神。筋力は普通の人よりも高い。
「おいレヴィ、もういいぞ。それ以上やると迷宮が崩れる気がしてきた」
「ん?もういいの?」
「おう」
それを聞き、レヴィは嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「さて、先に進むか」
「そうだな。すでに5層潜っているから、そろそろフロアボスが現れる可能性もある。注意していこう」
「おう」
その時、天井の脆くなっていた箇所が崩れ、岩が俺の頭に直撃した。
お決まりですね、はい。
その後も魔物達を倒しながら俺達は迷宮の最深部にたどり着いた。フロアボスはかなり手強く、エステリーナもシオンとシルフィの助太刀をしていた。
そのおかげでなんとかフロアボスを倒すことができ、シオンのレベルは32に、シルフィは40になった。
あとエステリーナもレベル69になっていた。
「迷宮探索お疲れ様」
「お、リリスさん」
「いや〜、最近出番が増えて嬉しいわ〜」
迷宮探索から戻った俺達は、ギルドでリリスさんに話しかけられた。
「どうかしたんですか?」
「・・・実は、さっき王国軍から連絡があったんだけど、とある街が壊滅したらしいの」
「・・・え?」
どういうことだ?よく見ればリリスさんの表情はいつもと違い、真剣なものになっていた。
「これを」
リリスさんが俺に手渡したのは、何かが書かれた紙。
「これは・・・」
書かれている内容はこうだ。
『鉱山の街ウォール壊滅、魔神の仕業か。生存者ゼロ、被害を免れた建物ゼロ。至るところに巨大なクレーターができ、見るも無惨な光景に』
「ウォールといえば、希少な石などがよく取れる鉱山が隣にある街でしたね」
「ええ、そうよ。そんな街が突然壊滅したの」
エステリーナの顔が青ざめた。
「魔神というのは、それほどの力を持っているのですね・・・」
そうだ。魔神アルターも、人間程度簡単に殺すことが出来るレベルの力は持っていた。一瞬で村を焼き払った時のような力を。
そして、そんなアルターよりも遥かに強い《七つの大罪》の一人、レヴィアタン。王都など彼女の力があれば数分もしないうちに壊滅してしまうだろう。
魔神は、人間とは比べ物にならないほどの力を持っているのだ。
「・・・多分だけど」
ふとレヴィが口を開いた。
「そのウォールって街をぐちゃぐちゃにしたのは、魔神サタンだよ」
「サタン・・・」
それって確か、昨日レヴィが言ってたやつだよな。憤怒を司る魔神だとかなんとか・・・。
「何がしたいのかは分かんないけど、絶対王都にも現れると思うな」
・・・こりゃ大変なことになりそうだ。
さすがに魔神・・・それも《七つの大罪》クラス二人が同時に現れたりなんかしたら、俺でも勝てるか分からんし。
ふと、シオンの方を見れば、彼女は震えていた。やっぱり、アルターのことを忘れられないのだろう。
「大丈夫だ」
「っ、ジークさん」
絶対に、何があっても、この子も、みんなも俺が守ってやる。




