第四十一話 破壊
「・・・ぁ、ジークさん」
「ん、ああ、おはよう・・・」
俺は起き上がったシオンに手を振った。
現在俺は椅子に座って限界を超えた睡魔と戦っている。だって、寝れるわけないじゃない。
レヴィは毎日いつの間にか布団に潜り込んでるからもう慣れたけど、シオンは初だぞ。寝顔超可愛かった。
「ふぁ・・・」
「おふ・・・」
可愛らしい欠伸をするシオンを見て思わず和む。
「ご主人様、おはようございます。すぐに朝食を・・・」
「ん、おお、おはよう・・・?」
あれ、なんか扉を開けた体勢のまま固まっちゃってるシルフィがいるぞ。
「・・・何故シオンさんがいるのですか?」
「へっ!?あ、いや、その・・・」
じろりと見られ、慌てるシオン。レヴィがいるのは毎日の事なので、もうシルフィもそれについては追求しない。
「・・・ご主人様?」
「え、いや、なにもしてないぞ!?」
「・・・シオンさん?」
「な、何でもないよ・・・?」
珍しく目に見えて慌てるシオンをさらにじとーっと見つめるシルフィ。そんな中爆弾は目を覚ました。
「ふぁー、おはよー」
「おはようございます。ところでレヴィさんはご主人様の部屋にこんな朝早くからシオンさんがいる理由をご存知ですか?」
「え、一緒に寝てたからじゃないの?」
「「ッ!?」」
こんの馬鹿!!
「へえ、そうなんですかシオンさん」
「い、いや、その・・・」
「シ オ ン さん」
「ひぃっ!?」
怖っ!シルフィさん怖すぎ!!シオン泣きそうになってるから!!
「ま、まって、ジークさんに言うことはないの・・・?」
「おいまて、俺を売るな!!」
「ご主人様に言うことは何も。話があるのはご主人様のベッドに潜り込んだシオンさんだけです」
「レヴィさんは!?」
そして、半泣きのシオンはシルフィに引きずられて部屋を出ていった。
「・・・」
「もう一回寝よーっと」
残された俺は二人が出ていった扉を見つめ、レヴィは二度寝し始めた。
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「ずるいですっ!」
「えっ・・・」
突然シルフィが頬を膨らましてそう言った。それに対してシオンは驚く。
「ご主人様と添い寝なんて、私には到底出来ませんよ・・・」
「え、え?」
ずーーんと落ち込むシルフィ。てっきり怒られると思っていたシオンは呆気にとられた。
「それに、ご主人様は珍しく寝不足気味でした。それはつまりシオンさんとの添い寝を相当意識していたということで、シオンさんを女性として意識しているということにも・・・ぶつぶつ」
「し、シルフィちゃん・・・?」
ついにはシルフィは独り言を言い始めた。
「・・・」
シオンはゆっくりゆっくりとシルフィから離れ、自分の部屋へと戻るのだった。
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「みんなおはよう・・・どうした?なんだかいつもと雰囲気が違う気がするんだが」
「ああ、気にしないでくれ・・・」
俺の目の下には隈ができ、シオンは何故か頬を赤らめ、シルフィは少し機嫌が悪い。レヴィだけがいつも通りの態度でエステリーナに挨拶していた。
「・・・?まあ、よく分からないが、今日は久々に迷宮探索にでも行こうか?」
「そうだな・・・」
最近いろいろ忙しかったからなぁ。たまには迷宮に潜るのも悪くない。シオンとシルフィのレベルアップも手伝ってやらないと行けないし・・・。
「実は、また新たな迷宮が発見されたらしくてな。しかも難易度は恐らくA以上らしい」
「へえ、そりゃ行ってみたいな」
「じゃー、そこにいこー」
美少女二人のレベルアップ作業には丁度良さそうだ。
「あ、ジーク」
「ん?」
「なんだか顔色が優れないようだが、体調が悪いのなら無理はしない方が・・・」
心配そうな表情で見つめてくるエステリーナ。ふむ、その表情可愛いな。
「いや、大丈夫だ。わざわざ心配してくれてありがとな」
「あ、うん・・・」
何故か顔を赤らめてエステリーナは俯いた。俺、なんか変なことでも言ったか?
「・・・?」
よく分からんけど、とりあえず迷宮探索に行くとしよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ああ、怒りが収まらない。
この怒りは何に、何処に向ければいいというのか。
『・・・』
「ひぃぃ・・・」
真下で震える虫共を見下ろす。何とも愚かな虫ケラ共よ、我に向かって《魔法》を放つとは。
いや、魔法とも呼べない、虫ケラに相応しい異能だ。
「み、水魔法だ、水魔法を唱えろ!!」
・・・水魔法だと?ああ、再び地獄の業火の如き怒りが我が内から沸き上がってきたではないか。
『人間共よ』
「ッ!?」
『貴様達は、最も行ってはならないことをした』
脳を支配するのは、怒り。
そして、あの憎き水髪の小娘の笑みが脳裏に浮かび、更なる怒りを呼ぶ。
そう、あの時の出来事は二度と忘れられない。何度山を吹き飛ばしても、何度虫ケラ共の住処を消滅させても、この怒りは収まるどころか日に日に増していく。
『死をもって償うがいい』
「ひっ、やめ─────」
我は、腕を振り下ろした。
その日、王国から一つの街が消えた。




