第三十七話 これが恋というものか
「いやあ、儲かった儲かった!」
「お疲れ様でした、ご主人様」
俺はギルドでオレンジジュースを飲みながら手に入れたものをまじまじと見つめる。
金貨100枚に、デカいトロフィー。
ローレリア魔闘祭優勝者の証であるトロフィーは、とんでもなく綺麗な結晶で出来ていた。
決勝が終わったのは約3時間前。
もう日が暮れているが、王都はまだお祭り騒ぎだ。
帰ってきた時、いろんな人達から祝われたのが個人的にものすごく嬉しかった。
「あれ、そういえばエステリーナは?」
「さっき外に出ていっていましたよ?」
「ふむ、ちょっと行ってくる」
あの後の体調とかも心配だし、話聞いとくか。
そう思って俺は立ち上がり、シルフィにトロフィーと金貨を託して外へと向かった。
「はあ、ライバルが増えますね・・・」
「なんだか複雑・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よっ、何してんだ?」
「え、あ、ジーク・・・」
エステリーナは何故か一人でギルドの前で体育座りをしていた。なんか可愛いんだけど。
「なんかあったか?」
「いや、別に何も・・・」
「ふむ」
顔色は悪くないし、体調面はもう大丈夫そうだな。
とりあえず俺は彼女の隣に座った。
「っ・・・」
一瞬肩が触れ合った時、彼女の頬が少し赤くなったのを俺は見ていない。
「あー、なんか今日はいろいろあったなぁ」
「あ、そ、そうだな。まさかジークが兄上に勝つとは思わなかったぞ」
「はは、勝っちったよ」
・・・てか、エステリーナはなんとも思わないんだろうか。
一応俺兄貴をぶっ倒してしまってるんだけど。
「・・・イツキさんの連続優勝記録、止めちまってよかったのか?」
「もちろん、兄上にとって、いい経験になったはずだ」
「そうか・・・」
なら、いいか。絶対許さないんだからね!みたいなこと言われたらどうしようかと・・・それはそれでありだな。
「あ、そういえば」
「・・・?」
「エステリーナ、体調不良は治ったのか?」
「え?」
「なんか顔赤かったんだろ?熱あったんじゃないのか?」
俺がそう言うと、エステリーナはぽかーんと俺を見つめてきた。
え、なんか変なこと言ったか?
「・・・ふふ、まったく」
「え、え?」
「もう治った。心配しないでくれ」
「お、おう、そうか」
まじで熱あったんだ。そりゃ治ってよかった。
「・・・なあ、ジーク」
「なんだ?」
「ジークは私のこと、どう思っている?」
「っ!?」
突然そんなことを聞かれ、俺は目を見開いた。
まさかエステリーナがそんなこと言うとは。
「そ、そりゃ、その」
「・・・」
「ち、超美人とは思ってます」
「っ・・・」
俺の言葉を聞き、エステリーナは俺から顔を逸らし、膝で顔を隠した。
しまった、変な事言っちまった!
「・・・それに、包容力があって、凛としてて、優しくて、かっこいい・・・かな」
「・・・そうか」
ちらりと彼女を見れば、こちらを向いてはいないが、満足そうな表情をしていた。
ちなみに俺が言ったことは、本当に思ってることだからな。
「・・・なんでそんなことを?」
恐る恐るそう聞いてみたら、エステリーナは少しだけこちらを向いて微笑んだ。
思わずドキッとしてしまった。てか、こんな表情見せられたら誰でもそうなる。
「分からないか?」
少しだけ頬が赤い彼女。
やばい、なんかいつも見てきた凛とした美人なエステリーナとは違って、とても可愛らしい。
「っ・・・」
俺の心臓はバクバクだ。
これほどまでの美少女に、こんな表情で微笑まれたら・・・。
「わ、分かりません」
「・・・本当に鈍感だな、ジークは」
エステリーナはそう言って少しだけ唇を尖らせた。
これもいつもはしない表情だ。
今日はいろんな表情を見せてくれる。そんな彼女に対して俺の胸の高鳴りは収まらない。
「・・・まだ、少し体調が悪いから、そろそろ家に帰るよ」
「え、そ、そうか」
エステリーナは立ち上がり、しばらく無言で俺を見続けた。俺も黙って彼女と見つめ合う。
そして、
「っ─────」
突然柔らかいものが俺の唇に触れた。目の前には、目を閉じたエステリーナの顔が。
実際には数秒間だが、まるで何時間も経ったかのような感覚に陥る。
「っ、エステリーナッ!?」
「・・・」
しばらくして、俺から唇を離したエステリーナは、赤くなった顔で微笑んだ。
「ふふ、今のは助けてくれたお礼だ」
そう言って彼女は俺に背を向けて走っていった。
「・・・・・・」
まじか、まじか・・・。
生まれて初めて・・・。
お礼らしいけど、やばい。
あんな美少女から、キスされるなんて。多分今の俺の顔はやばいぐらい赤くなってると思う。
「・・・」
俺はしばらく座ったままエステリーナが走っていった方向をぼんやりと眺め続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぅああぁぁ・・・」
その日の晩、エステリーナは布団にくるまりながら悶えていた。
「わっ、私は、一体何をしてしまったんだ・・・!」
感情が抑えられなくなり、勢いで、彼女は────
「~~~~~っ!!!」
思い出すだけで顔が火照る。
明日からどんな顔をして会えばいいというのか。
「うぅ・・・」
つまりはそういうこと。
自分はそれだけジークのことが好きになってしまったということだ。
とても恥ずかしく、彼のことを想うだけで胸が苦しい。
「これが、恋というものか・・・」
誰にも見られていないというのに、真っ赤な顔を布団で隠しながらエステリーナはぽつりと呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「うぅああぁぁ・・・」
「・・・どうしたんだ?」
廊下で妹のうめき声を聞いた兄イツキは、扉を開けるべきか開けないべきかで一人悩み続けたという。
─────to be continued
エステリーナがデレました
明日は番外編投稿します




