第三十三話 エステリーナ捜索隊
「・・・遅いな、エステリーナ」
「何かあったんでしょうか」
あれから俺は病室に戻り、シオン達と昼飯を食べていた。
しかしトイレに行くと言って一旦別れたエステリーナは中々帰ってこない。
「エステリーナさんの事ですし、誰かの手助けでもしてるんじゃないですか?」
シオンがそう言った。
確かに、なんかそんな気もする。
「けど、もう二十分も経ったんだぞ?さすがに戻ってくると思うけど」
俺とエステリーナの試合の時間も迫ってるのに、何やってんだろ。
「・・・ちょっと行ってくる」
気になるので、俺はエステリーナを探すことにした。
そんな俺を見てある程度回復したシオンとシルフィも立ち上がる。
「ご主人様、私も行きます」
「私もです」
「二人とも・・・よし、行くか」
念のため、イツキさんを見つけたら声掛けとこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、やっと見つけた!」
「よう、レヴィ。エステリーナ見なかったか?」
「え?見てないけど・・・」
しばらく歩いていると、焼きそばやわたあめなど、元いた世界でもよく見た食べ物を大量に持ったレヴィを見つけた。
こいつ、どこにそんな金あったんだよ。
「何かあったの?」
「実はだな・・・」
とりあえず、レヴィにも事情を説明しとこう。
「むむっ、事件のにおいがするね!」
「うーん、どうなんだろうな」
説明中に手に持った全ての食べ物を平らげたレヴィは、腕を組みながらへらへら笑った。
「けど、あの人それなりに強いでしょ?そんなすごい事件に巻き込まれたりはしてないんじゃない?」
「わかんねー」
しかし、これだけ探しても見つからない。
まじでどこ行ったんだ、あいつ。
「あれじゃない?お腹痛くなったとか」
「そうだとしても時間掛かりすぎな」
「迷子かも」
「エステリーナに限ってそれはない」
「えー、じゃあ寝てるとか」
「んなわけねーだろ」
わかんなーいと言いながら、お手上げとばかりに両手を上げるレヴィは置いといて、もう一度エステリーナが行きそうな場所を探してみるか・・・。
「む、貴様ら」
「あ、イツキさん」
そこで、俺達はエステリーナの兄イツキさんに遭遇した。
「エステリーナはどうした?」
「あ、そうだ。実はですね」
俺はイツキさんにもエステリーナがいなくなったことを伝えた。
すると、
「なぁぁぁんだとぉぉぉ!?我が最愛の妹が行方不明!?何者だ!!誰がエステリーナに手を出したァァ!!」
「ちょ、落ち着いてください」
とりあえず叫ぶイツキさんを静まらせる。
ほんとこの人エステリーナのことになると頭おかしくなるよな。
「まだ事件に巻き込まれたとは限りません。俺達も探しているので見つけたら連絡を」
「ちっ、今回は協力してやろう!」
そう言うとイツキさんはものすごいスピードで走っていった。
「さて、俺達ももっかい探すか」
「あ、ジークさん。別れて捜索した方が効率がいいのでは・・・?」
「ふむ、確かに」
そうだな、集合場所を決めておいたらいいか。
俺の試合が始まるまであと20分、5分前には見つけたい。
「よし、じゃあ一旦散開するか」
「了解です」
こくりと頷き、シオンとシルフィは走っていった。よし、俺も・・・。
「・・・おい」
「ん?」
「エステリーナ探すから離れなさい」
「ええーー」
「協力してくれたら後で抱っこしてやろう」
「ほんと!?わーい!!」
俺の抱っこ宣言を聞き、レヴィは喜びながらシオン達とは別の方向に向かって走っていった。
ちょろいな。
「うし、急いで見つけないとな」
無事でいてくれよ、エステリーナ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・いない」
シオンは闘技場内にあるトイレを片っ端から覗いた。
しかし中にエステリーナはいない。
「どこに行ったんだろう・・・」
そんなことを呟きながら、シオンは次のトイレへと足を踏み入れた。
「・・・?」
そこで感じた違和感。
(・・・魔法?)
突然手足が少しだけ痺れたのだ。
何らかの魔法が使用された可能性が高い。
(状態異常系の魔法かな)
これは報告したほうかいいかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえねえ、今から俺達と遊びに行こうよ」
「行きません」
「そんな事言わずにさ、ちょっとだけだって」
「今忙しいのです」
「ちょっとだからさぁ」
(はあ、しつこいです・・・)
ジーク達と一旦別れ、エステリーナを捜索していたシルフィだったが、突然見知らぬ男達に声を掛けられて困っていた。
いわゆるナンパである(シルフィはナンパというものを知りません)。
傍から見たら男達は小さい子供に絡む変態にしか見えないが。
「・・・」
次第にイライラが溜まり始めたシルフィは、男達に気付かれないように幻糸を展開した。
極細の糸は男達の手足に巻き付き、その動きを封じる。
「っ!?なんだ!?」
「ぎゃあっ!!手が切れた!!」
そして、一人が自身の手を気にしている隙にシルフィはその場から離脱した。それと同時に幻糸も消す。
「あっ、あのガキっ!よくもやりやがったな!!」
「捕まえろ!!」
「も、もうっ、それどころではないんですってば!!」
その後シルフィは追ってくる男達から逃げながらエステリーナを探した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふあぁ、眠い・・・」
レヴィは目を擦りながら、いなくなったというエステリーナを探していた。
しかし涙で視界がボヤけて前がよく見えない。
「ほんとにいなくなったのかな」
レヴィの中でただトイレに篭っているだけではないのかという疑惑はどんどん大きくなっていく。
そこで彼女はトイレの中を探すことにしたのだが。
「む・・・?」
「きゃああっ!?」
「違ったか・・・」
堂々と個室を覗き込むという暴挙を次々と行い、様々な場所から悲鳴が上がるのだった。
そして、レヴィはある人物と出会った。
「あ、シオン」
「レヴィさん」
何故かトイレでしゃがみ込んでいたシオンの元に駆け寄り、レヴィは異変に気が付く。
「・・・ここ、魔法が使われてるね」
「っ、やっぱりそうですか・・・」
辺りに満ちる魔力は、どこかで感じた事がある嫌な魔力。
レヴィは少し顔をしかめた。
「それで、何してるの?」
「これを」
レヴィがしゃがむと、シオンは彼女にあるものを渡した。
「これって・・・」
「恐らく、エステリーナさんのものではないかと」
それは、剣だった。エリテリーナがよく使っていたものに非常に似ている。
「個室に隠すように置いてあったんです」
「てことは、ここでエステリーナが事件に巻き込まれたって可能性が高いよね」
「はい、まだ断定は出来ませんが・・・」
「みんなのこと呼ぶ?」
「出来ればそうしたいんですけど・・・」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言うとレヴィはトイレから飛び出し、最高速度で闘技場の壁を疾走した。
そしてシオンが待つこと約1分、何故か汗まみれで疲れているシルフィと、ジークがトイレにやって来た。
ジークが堂々と女子トイレに入ったのはスルーしていただきたい。
「それで、何が分かった?」
ジークにそう言われ、シオンはここで状態異常系の魔法が使用された可能性が高いこと、エステリーナの剣であろうものが落ちていたということを伝えた。
「・・・まじか」
ジークはそれを聞くと、少し焦ったように舌打ちした。
「誰が何のために・・・」
「もしほんとに連れ去られたんだとしたら、闘技場内にはもういないかもね」
レヴィのそんな言葉を聞き、一同は驚いた。
確かに、既に別の場所に移動しているのかもしれない。
「くそっ!どうすりゃいいんだよ!」
「まって、まだ何とかなるかもしれないから」
「え・・・」
レヴィはクスリと笑うと、ついてきてと言ってトイレから出た。そしてそのまま向かったのは闘技場の外。
「お、おい、何するつもりだよ」
「ちょっと黙ってて」
「・・・はい」
いつもとは違い、冷たく対応されてジークは地味に傷ついた。
「・・・・・・」
そして、目を閉じるレヴィの周囲を魔力が渦巻き始めた。
(これは・・・?)
(わ、分かりません)
一体レヴィが何をしているのか分からない一同は、黙って彼女の行動を見守った。
「・・・・・ッ!!」
突然レヴィから膨大な魔力が全方位に向けて放たれ、ジーク達は驚いた。
「・・・・・・よし」
そして、レヴィはゆっくりと目を開けると、背後で呆然としている一同に笑いかける。
「一応掛かったよ。今エステリーナは王都にいる。それも、王都の地下に」
「なにっ!?」
この小さな魔神は今何をしたのだろうか。
それが分からずジークは焦る。
「なんで分かった?」
「魔力サーチだよ。ボク、エステリーナの魔力がどんなのか覚えてたから、ボクの魔力を広範囲に広げてエステリーナの魔力を探したんだ」
「・・・」
「そしたら王都の下の方でボクの魔力に反応があったの」
それを聞いてジーク達は衝撃を受けた。
「ま、魔力サーチを、それ程の規模で展開したのですか!?」
いちばん驚いているのはシルフィだ。
彼女もジークとはぐれた時のため、魔力サーチを覚えようとしているのだか、今の彼女では展開範囲はせいぜい半径5mが限界である。
しかし、レヴィは普通では考えられないレベルの魔力サーチを行うことができた。
さすがは《七つの大罪》クラスの魔神である。
「・・・お姫様抱っこに変更してやろう」
「えっ!?やった!!」
それを聞いてレヴィは跳ねた。
「みんな、多分試合間に合わんから、適当に理由説明しといて」
「ご主人様?」
「・・・行くんだね?」
「ああ」
レヴィはジークの目を見て笑う。
シオンもシルフィもジークが今から何をしようとしているのか察し、頷いた。
「ボクは行かないでおくよ。お姫様を助ける王子様の邪魔はしたくないしねー」
「なんだそりゃ。まあ、とりあえず行ってくる」
「はい、必ずエステリーナさんを助けてあげてください」
そして、ジークは全力で地面を蹴り、とてつもない速度で王都へと跳躍した。




