第三十二話 忍び寄る魔の手
Twitterなるものを始めました
ろーたす (@DivertimentoLot)
https://twitter.com/DivertimentoLot
「うう、頭が痛いです・・・」
「氷のっけるか?」
「いえ、大丈夫です・・・」
現在俺は病室で怪我をしたシルフィの様子を見ていた。
珍しくレヴィは『お腹空いたから何か買ってくる』と言ってどっか行ったので、今は俺とシルフィの二人きりだ。
「あのヴィラインってやつ、女の子相手にあそこまでやるとはなぁ」
「・・・私が弱いだけです」
「いーや、シルフィは十分強いって」
そう言って頭を撫でてやる。かなり落ち込んでいるようなので、慰めてやろうと思ってやったんだが・・・。
「・・・」
なんか顔真っ赤になってるぞおい。
熱か?俺に触られたから熱でも出たのか!?
「だ、大丈夫か・・・?」
「は、はい・・・」
何故か布団で目の下あたりまで顔を隠しながら、シルフィは小さく返事をしてきた。
「そ、その、私のような者がいて、ご主人様は迷惑ではないのですか・・・?」
「え?」
「あのような男に手も足も出ず、今もこうして迷惑をおかけしてしまって・・・」
「何言ってんだこら」
「あぅっ」
軽ーくデコピンしたら、シルフィは可愛らしい声を漏らした。
「ならもっと強くなればいい。俺も一緒に迷宮探索なりクエストなり付き合ってやるからさ。それに、迷惑なわけないだろ?」
「ご主人様・・・」
「シルフィは俺の大切な仲間であり、家族なんだからな」
「ぁ・・・」
・・・なんか、すごく恥ずかしいことを言ってしまった。
変なヤツとか思われたりしてないよな・・・?
「嬉しい・・・」
「うっ・・・!!」
頬を赤らめながら、目を細めて微笑んだシルフィを見て、俺は倒れかけた。可愛すぎて。
まるで花が咲いたかのような微笑みだった。
「・・・あー、その、これからも頑張ろうな」
「はい、ご主人様」
やっべえ、恥っず。
俺はシルフィの頭を撫でながらつい顔を逸らした。
そしたら、
「・・・あ」
「・・・その、声をかけようと思ったんだが、な」
俺の視線の先には先程試合を終えたエステリーナと、彼女におんぶされているシオンがいた。
若干シオンが唇を尖らせているのが可愛い。
「怪我したのか?」
「私は大丈夫だが、シオンが少しな」
そう言ってエステリーナはシルフィの隣のベッドにシオンを寝かせた。
見たところそれ程大怪我はしていないようだ。
「シオン、大丈夫か?」
「・・・はい、大丈夫です」
「・・・なんか機嫌悪くないか?」
「悪くないです」
え、なんで?
絶対機嫌悪いでしょシオンさん。
「あ、そういえばジーク。準決勝、私とジークが戦うことになったぞ」
「まじで?」
「ああ、楽しみだ」
笑いながらエステリーナがそう言った。
てことは、イツキさんと当たるのはあのヴィラインって男か。
「試合はいつなんだ?」
「一時間後だ」
「ふむ、なら飯食っとくかぁ」
結構腹減ったな。
自分のを買ったついでにシルフィとシオンのも買ってくるか。
「じゃあ俺ちょっと飯買ってくる。シルフィとシオンのも買ってくるよ」
「え、そ、そんな、ご主人様にそのようなことをさせるわけには・・・」
「今の君らは怪我人でしょうが。たまにはお兄さんに甘えときな」
「う、うぅ・・・」
シルフィは布団に潜ると、お願いしますと小さな声でそう言った。
シオンも若干不機嫌っぽいけど頷いてくれた。
「エステリーナはどうする?」
「私も買いに行くよ」
「うし、じゃあ行ってくるな」
そう言って俺とエステリーナは病室を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ご主人様に、《家族》と言われました」
「・・・」
「ああご主人様、シルフィは幸せ者です」
「む・・・」
「どうかしましたか?」
「ずるい」
「え?」
「私の方がジークさんと一緒にいる時間は長いのに・・・」
「え、いや、その、ご主人様はきっとシオンさんのことも家族だと思ってくれていますよ」
「・・・え」
「あら、顔が赤いですよ」
「う・・・」
「シオンさんは本当にご主人様のことが好きですね」
「し、シルフィちゃんに言われたくない」
「それはつまり、私の方がご主人様を愛しているということでよろしいですか?」
「ち、違、そういう意味じゃ・・・」
「一歩リードです」
「むむむ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、俺とエステリーナは適当に店を選び、自分達の分とシルフィ達の分の昼飯を買い、病室を目指して歩いていた。
「本当にいいのか?私の分まで支払ってもらって・・・」
「おう、全然いいって」
「そうか、なら今回は奢られておこう」
袋を抱えながらエステリーナはそう言った。
そんな会話をしながら、当然の如く俺はすれ違う男達に睨まれたりしている。
理由は簡単。
エステリーナ・ロンドは王都だけではなく、王国全体でもそれなりに有名で人気な美人剣士だから(イツキさん情報)。
燃えるような赤い長髪を首のあたりで束ねている彼女はスタイルもかなり良い。
俺が会ってきた中でもトップクラスの美人と並んで歩いてたら、そりゃ睨まれたりするわな。
「そういえば、私がジークと戦うのはこれが初めてか」
「ん、そうだな」
「ふふ、初めて出会った時は衝撃を受けたぞ」
「あー」
俺とエステリーナの出会い。
それは俺がこの世界に来て間もない時だった。
シオンと共に王都を目指して歩いていた時に、やたらデカくて硬いサソリとエステリーナは戦っていた。
そんなサソリを俺は一撃で倒したのだ。そして彼女達が乗ってきた馬車に乗せてもらい、王都へと運んでもらった。
それから迷宮探索やクエストに行く時はだいたい彼女もパーティーに加わっている。
「てか、今思ったらエステリーナが苦戦するレベルのサソリがなんであんなとこにいたんだ?」
「それが分からないんだ。迷宮のフロアボス級の強さを持ちながら、何故迷宮でもない森の中に突然出現したのか・・・」
「うーん・・・」
もしかしたら、絶界の十二魔神の出現が原因なのかもなぁ。
エステリーナも最近魔物が活発化しているって言ってたし、突然変異が起こってるとか。
「まあ、今はそのことはいいか。とりあえずお互い頑張ろうぜ」
「うん、全力で挑ませてもらうぞ」
「むっ!?」
そう言って微笑んだエステリーナを見て、俺の心臓は跳ね上がった。
やばい、今の超可愛かった。
「・・・どうした?」
「え、いや、なんでも」
ふう、危ない危ない。
「おっと」
「あ、すみません!」
そんな声が聞こえたので俺は振り返った。するとエステリーナに向かってペコペコ頭を下げる男がいた。
誰だこいつ。
「ああ、大丈夫だ」
「本当に申し訳ございません!!」
そう言って男は走っていった。
 
「どうした?」
「いや、あの男性にぶつかられてしまって・・・あ」
「あらら・・・」
エステリーナの肩にはアイスクリームのようなものがベッタリと付いていた。
ぶつかった時に付いたのだろう。
「すまないジーク、少しトイレに行って洗ってくる。先に戻っておいてくれ」
「ん、ああ、分かった」
待っときたいけど、シルフィ達も待たせてるし、今回は先に戻っとくか。
「じゃ、また後でな」
「うん、また後で」
そして、手を振ってエステリーナはトイレがある方へと歩いていった。
これが、事件の始まりだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よし、これでいいか」
エステリーナは、服に付いたアイスクリームを流し、ついでに手も洗っておいた。
「・・・」
じーっと鏡に写る自分を見つめるエステリーナ。
先程急にジークに顔を逸らされた時のことを少し気にしているのだ。
(・・・顔に何か付いていたんだろうか)
実際はズキューンとなって顔を逸らされたのだが、エステリーナは念のため顔も洗う。
「ふう、戻るか」
置いてあった昼飯が入っている袋を手に取り、エステリーナは扉へと向かう。
その時、
「っ・・・!?」
突然身体が痺れ、彼女は膝をついた。
「な、なん・・・」
痺れだけではなく、吐き気や目眩までもが彼女を襲う。
「ククッ、意外と簡単に罠に掛かってくれたなぁ」
「っ・・・」
背後から聞こえた声に、エステリーナは目を見開いた。
ここには自分以外誰もいなかったはずだ。
「まあ、とりあえず大人しくしてもらおうか。歓迎するよ、エステリーナ・ロンド」
「ぐっ、貴様は────」
そんな謎の人物の声を聞きながら、エステリーナは気を失った。




