第二十九話 シルフィVSヴィライン
「うぅーーん」
眩しい。
少しだけ目を開けると、窓から日差しが差し込んできていた。
恐らくもう朝なのだろう。
「ふぅ、起きるか」
普段ならここで二度寝していたかもしれない。しかし今日はローレリア魔闘祭最終日、本選が開催されるのだ。
俺は重たい身体も無理やり起こそうとして、あることに気がついた。
「ん・・・?」
なんか動けないんですけど。
てか、なんか服にしがみついて──────
「ふむぅ・・・」
「・・・」
ロリ魔神が布団の中にいました。
しかも俺にガッチリしがみついています。
「ゴクリ・・・」
思わず手がでかけた。
なんか、撫でたくなったんですよ。
「すぅ、すぅ・・・」
「うぐぐ・・・」
まずいまずい、とりあえず手を下ろそう。
起こしたいけど、そんな幸せそうに寝られたら起こしづらいじゃないか。
「んん、ジークぅ・・・」
「ぐはぁっ!?」
鎮まれぇぇぇ!!
こんな幼女相手に欲情仕掛けた危ない危ない危ない!!!
てかなんで俺のベッドに潜り込んできてるんだこいつは!!
あ、なんかすごいいい匂いする─────
「・・・ジークさん?」
「・・・あ」
よく見たら扉を少しだけ開けてシオンがこちらをジーッと見ていた。
「い、いや、その、これはですね」
「・・・ジークさんは、小さい人が好きなんですね」
「ちがぁぁぁぁう!!!」
「んー?どうしたのー?」
なんだか朝からカオスだぜ、うん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはよう・・・どうした?何かあったのか?」
「・・・いや、何も」
「・・・」
その後、俺達はエステリーナと合流し、闘技場へと向かった。
いよいよ本日は王国最強を決める戦いの本選が行われるのだ。
「む、来たか」
「・・・おはようございます」
「ちっ、朝から貴様の顔を拝むことになるとは」
闘技場に着くと、エステリーナを待っていたイツキさんに会った。この人、エステリーナと同じ家に住んでるんじゃなかったっけ?
「あまりにもうるさいから追い出したんだ」
「ああ、なるほど」
「情けない理由ですね・・・」
シルフィが呆れ顔でイツキさんを見る。
「ふん、貴様に王国最強の座は譲らんぞ」
「・・・」
今思い出した。
俺はイツキさんをガン見する。
「・・・へぇ」
「なんだ?何を見ている気持ち悪い」
俺の固有スキル、『能力透視』は相手のステータスを覗き見することができるのだ。
「ご主人様?」
「ん、なんでもないよ」
なるほどなぁ・・・、イツキ・ロンドか。
「とりあえず中入ろうよ」
「おう、そうだな」
レヴィにグイグイ引っ張られ、俺は闘技場に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
『えー、本日行われる本選は、一対一の勝負となります。さて、本選一試合目は、シルフィ・パストラールさんVSヴィライン・カリオーラさんです!!』
「ククッ、随分可愛らしいお嬢さんだ」
「・・・」
フィールドの真ん中にシルフィとヴィラインは立つ。
ジークの攻撃を受ける前に他の男達を戦闘不能に陥れた要注意人物としてシルフィは彼を記憶していた。
「君はあのジークフリードの奴隷らしいねぇ」
「・・・どこでそれを?」
「ま、裏の情報でね」
そう言ってヘラヘラと笑うヴィライン。
「どうだい?奴隷としての生活は」
「・・・何が言いたいのですか?」
「いやぁ、少し気になってねぇ。君みたいな可愛らしい、それに珍しいエルフ族の少女相手に君のご主人様は毎日何をしているのかってね」
「ご主人様は、毎日私に優しく接してくれます」
それを聞いてヴィラインは更に笑った。逆にシルフィの表情に不快感が滲み出る。
「クハハハハハハ!!そうかいそうかい。でも本当は毎日身体を捧げてるんじゃないのぉ!?」
「・・・」
シルフィがダガーを抜いた。それと同時に凄まじい殺気がヴィラインに向けて放たれる。
「おおぅ、いい殺気だ」
しかしヴィラインはまだ笑う。
「図星なのかな?」
「そんなわけがないでしょう?これ以上ご主人様を侮辱するのならば、その首、跳ね飛ばして差し上げますが」
「クククク、それは無理だねぇ」
少しからかっただけでものすごく豹変したシルフィを見て、ヴィラインは心底面白がった。
久々に壊しがいがある相手が現れたと。
『お待たせしました!それでは本選第一試合を始めます!試合、開始!!!』
「ッ──────」
「おっと、避けるか」
試合開始と同時にヴィラインの拳がシルフィに向けて放たれた。が、シルフィは咄嗟にしゃがんでそれを躱す。
「けど、遅いねぇ」
「っ、ぐ─────」
しかしその動きを読んでいたヴィラインはしゃがむシルフィの腹を爪先で蹴りつけた。
激痛にシルフィは表情を歪めながら、勢いよく後方に吹っ飛ぶ。
「ククク、その程度かい?」
「くっ、《幻糸展開》!!」
体勢を立て直したシルフィは、魔力で糸を創り出し、ヴィラインに向けて放つ。
「おっと・・・?」
「はあァっ!!」
その糸をヴィラインの腕に巻き付けると、シルフィは勢いよく跳躍してヴィラインにダガーを振り下ろした。
「ふむ、中々いい動きだ。けど、届かないねぇ」
「は────」
拳が腹にめり込む。
二度も同じ箇所に攻撃をくらい、シルフィは意識が飛びかけた。
「この糸じゃあ俺の腕は切れないし、その遅さじゃあ俺にはついてこれない」
「うぐっ!!」
そして空中でバランスを崩したシルフィの腕を掴み、ヴィラインはシルフィを地面に叩きつけた。
「今どんな気持ちだい?大好きなご主人様が見てる前で、無様に地面に転がされるってのは」
「ぐっ・・・!!」
「あー、いいねぇその表情。もっと痛めつけたくなる」
「っ!?」
ヴィラインはシルフィの首に踵を置いた。そして徐々に力を入れていく。
「っ〜〜〜〜〜!!」
「クハハッ!!最高だ!!」
「な、めないで・・・ください」
「・・・あ?」
ヴィラインの腕から血が噴き出る。
「ふふ、切れ・・・ましたね」
「・・・はは」
先程から巻き付いていたシルフィの糸が、ヴィラインの腕を締め付け、切り裂いたのだ。切断は出来なかったが。
「あぐっ!?」
「死ね」
ヴィラインが本気で力を入れた。
その時、
『そ、そこまで!!試合終了!!勝者はヴィライン・カリオーラさんです!!ヴィラインさん、足を退けてください!!』
司会の声が響いた。しかしヴィラインは足を退けない。
『ヴィラインさん!?』
「やーだーね」
「っ・・・」
シルフィの意識が遠のく。あまりにも格が違い過ぎた。ヴィラインの足はどんどんシルフィの首に食い込んでいく。
「おい」
「ッ!?」
しかし、突然背後から聞こえた声に驚き、ヴィラインはシルフィから足を退けてその場から離れた。
「・・・ジークフリード」
「試合終了だっつってんだろうが」
「ククッ、聞こえなくてな」
「今すぐ消えろ。勝負あったろ」
「そうさせてもらおう。このままじゃあ殺されそうだ」
ヴィラインは自分を睨みつけるジークに手を振り、その場をあとにした。
「シルフィ、大丈夫か?」
「ご主人・・・様、申し訳ございません・・・」
「なーに言ってんだ、よく頑張ったな。ゆっくり休め」
「っ、はい・・・」
ジークに抱きかかえられ、さらに優しい言葉を投げかけられたことでシルフィの目から涙が溢れ出た。




