第二十五話 踊れ凛炎
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『続きまして、Hグループの試合です!』
「ふむ、私か」
アナウンスを聞き、エステリーナが立ち上がった。
「・・・大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです・・・」
そして縮こまりながらプルプル震えるシオンに声を掛ける。どうやらさっきの出来事が若干トラウマになったようだ。
「私は行かなければならないからジーク、そばにいてやってくれ」
「お、おう。頑張れよ」
「ああ」
ふっと笑うと、エステリーナは歩いていった。
「・・・シオンさん?」
「私、男性恐怖症になるところでした・・・」
「よし、ちょっとさっきシオンに襲いかかった奴ら全員雲まで吹っ飛ばしてくるわ」
「そ、それはやりすぎでは?」
本当にそれを実行すると思ったのか、シオンは立ち上がったジークを引き止めた。
なんだかんだいって優しいシオンなのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おぉ・・・」
「あれが噂の美人剣士か・・・」
「まじで美人だ・・・」
などという会話は、違うことに集中しているエステリーナの耳には届かない。今回も下心丸出しの男達ばかりなのだが、どうなることやら。
エステリーナは王国では有名な方だ。
《炎髪の魔剣士》
《美人剣士》
など、様々な二つ名で呼ばれる彼女も、シオン同様この世界でもトップクラスの美少女である。
燃えるような赤髪に、凛とした表情、そして抜群のスタイルを持つ彼女は同性からもモテる。
「エエェェステリーーーーナァァァ!!!」
「・・・」
「俺はいつでもお前を応援してるからなぁぁぁ!!」
「うっ、うるさいぞ兄上!!」
そんな彼女は観客席から聞こえてくる声の主に向かって真っ赤な顔で叫んだ。
「あれがイツキ・ロンドか」
「三年連続王国一と聞いていたが、妹を愛でる大会かなんかと間違ってるんじゃないのか?」
「てかあんな美人な妹いるとか羨ましいぃぃぃ」
などという会話もちらほら聞こえてくる。
『えー、それではHグループの試合を開始します!』
「やっとか・・・」
ようやく司会が口を開いたことに安堵したエステリーナは、長年使い続けてきた魔剣に手をかけた。
『試合、開始ッ!!』
「ッ──────」
試合開始と同時にエステリーナは近くにいた男3人を剣で吹き飛ばした。
そして炎魔法を唱え、魔剣に纏わせる。
「なっ、早─────」
「遅いッ!!」
自分のスピードを見て驚く男達を次々と吹き飛ばしていくエステリーナ。
攻撃を躱した者は魔剣から放たれる炎に呑まれる。
「こいつ・・・舐めんなぁ!!」
「む───」
エステリーナに男が飛びかかる。
しかし、
「炎風輪!!」
「がぁッ!?」
エステリーナはその場で回転し、魔剣を振るう。それにより全方位に炎が放たれ、男達は次々と犠牲になった。
別に死んではいない。
「へぇ、お嬢ちゃん、強いねぇ」
そして残ったのは、魔剣に纏わせた炎を消したエステリーナと、彼女の攻撃をやり過ごした金髪の男だけである。
「お、どうやら俺とお嬢ちゃんが二日目進出みたいだねぇ」
「そのようですね」
エステリーナは魔剣を鞘に収め、男に背を向けて歩き出した。
何故かは分からないが、とても嫌な感じがしたからだ。
「君、あのイツキ・ロンドの妹らしいねぇ」
「・・・そうですが」
「ククッ、強いよねぇ、彼」
何が言いたいのか。
エステリーナは首だけを後ろに向け、男を軽く睨む。
「おおっ、怖い。そんな眼で睨まないでよ」
「何か兄に言いたい事でも?」
「いやいや、なにもないよ」
そう言ってヘラヘラ笑う男。
『Hグループからの二日目進出はエステリーナ・ロンドさん、ヴィライン・カリオーラさんです!!』
と、司会の声が響き渡る。
この男、ヴィラインという名前のようだ。
「ククッ、今度は最終日に戦えるといいねぇ」
そんな男の声を無視してエステリーナは観客席で待つジーク達の元へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お疲れさん」
「うん、ありがとう」
観客席に戻ったエステリーナにジーク達は手を振った。
なにやらもう一人残った男と何かあったようだが。
「大丈夫か?」
「ん?」
「さっきあの男と何か喋ってた時、何かいつもと様子が違った気がしてな」
「・・・いや、何でもない」
そう言ってエステリーナは笑った。
「エステリーナは強いねー、また今度勝負しようよ!」
「お前が暴れたら王都が消えるだろが」
「あ痛っ!デコピンはダメだって・・・」
ジークにデコピンされ、涙目になるレヴィ。
確認しておくと、この小さい少女は魔神である。当然彼女は耐久もかなり高いのだが、そんな彼女をデコピン一発で涙目にさせるジークの筋力はやはり桁違いだ。
「そういえばさっき、イツキさんがすごい大声で応援してましたね」
「う、本当に恥ずかしいんだ、あれは」
思い出したかのようにシオンがイツキのことを口にしたので、エステリーナの顔は真っ赤になる。
「ま、とりあえず残るはシルフィの試合だけだな」
「はい、必ず勝利を掴んでみせます」
「頑張ってな」
「っ、はい」
ジークに頭を撫でられ、シルフィはとても嬉しそうな表情をしているのだが、ジークの角度からはよく見えない。
ちなみにその様子を見ていた観客(男)からジークは嫉妬の目で睨まれていたのだが、それにも気づいていなかった。




